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35 ハイスケルトン

 パパさんが俺とシルビアの模擬戦を見てみたいとのことで、俺達はを組稽古行うことになった。

 組稽古はまず人に見せることは無いのだが、どうしてもと言うことで断りきれなかった。


「じゃあシルビア、組稽古を始めよう」

「うん」

 お互いが構えたのを合図に、シルビアが全力で木刀を振ってくる。俺はそれを受け流す。続いて、俺は組稽古用のスピードで反撃する。シルビアがなんとか流す。次にシルビアが軌道を変えて打ち込んでくるが、それを流す。といった稽古を数分行い終了する。


 パパさんは目を丸くしながら見ていたようだ。

「恐ろしいスピードだな。怖くて見てられん」


「私は全力だけどアースはあれでも相当抑えているのよ?」

「うむ。確かに本気を出していないのは見ていて分かった。本当はアース君と剣を交えようかと思っていたのだが、交えるまでも無いな」

「はあ」

「シルビアがアース君と旅を続けるんだって言っておったので、軟弱者に娘は預けられんと思ってな。だが、アース君になら安心して預けられそうだ。アース君、これからもシルビアをよろしく頼む」

「はい」





 朝食を終えた後、書庫を見せて貰った。

 今の時代ではもはや使われることのない大量の書物が、埃を被りながらも整然と並んでいる。

 代々続いている家のためかかなり古い書物もありそうだ。

 例によって、ルナは全て記憶したようだ。

《面白い話が有りましたよ》

『ほう、なんだ?』

《このサハナ村の北側に広がる大森林の中央付近にロストタワーと呼ばれる不思議な塔が有るらしいです》


「普通の建物とは違うのか?」

《はい、有ったと言うのが正しそうですね。大昔に有った塔らしいです》

「ん?」

「あっ、私それ聞いたことが有る。たまに現れるって噂で、見たって人とか、入ったって人がいるみたいよ」

「でも今は無いんだろ? 昔の話か?」

「ううん、結構最近の話らしいよ」

「ガセネタじゃないのか?」


《そのタワーは森の木々を超えるほどの高さがあったということです。それが一夜にして忽然と消えたとのことです》

「ほう」

《今はロストタワーを囲んでいた塀が残っているだけのようですよ》

「跡地は有るってことか」

《はい》

 ロストタワーか。眉唾ものだがその内に一度見に行ってみるか。



 シルビアが家の手伝いがあるとのことで家の奥に消えて行った後、暇になった俺はのんびりするかと庭に出てみる。そこには既にのんびりと日向ぼっこをしているキュイが居たので、俺もキュイの横に寝転び日向ぼっこをすることにした。


 晴天の空を眺めながら暫く過ごしていると、ママさんが近寄って来た。

「アースさん、ゆっくり出来てる?」

 そう言いながら俺の横に腰を下ろした。

 俺は状態を起こしてから答える。

「はい、ご覧の通りだらけさせてもらってます」


「そう? それならいいけど。それに、シルビアも楽しそうにしていて、なんだかほっとしたわ」

 ママさんは朗らかな顔でそう言った。

 黙って頷く俺を見てママさんは話を続ける。

「あんなに明るいシルビアを見たのはもう何年ぶりかなぁ。子供のころ以来になるわね」

「そうだったんですか」


「ええ。10年くらい前からだんだんと笑顔も無くなっていって、最近は帰ってきてもほとんど笑ったところを見たことが無かったの。それが、昨日も今日もいつになくニコニコしてて、よく喋るし、ご飯もあんなに美味しそうに食べてたし、たぶんアースさんのおかげね」

 そう言うママさんもニコニコして嬉しそうだ。

「いえ、そんなことは」


「今日なんかも、アースさんのことを話す時が一番いい笑顔をしてたしね。これからもシルビアと仲良くしてあげてね」

「それはもちろんですよ。と言うか、こちらからお願いしたいぐらいですね」

「ふふ、ありがとね」





 そんな話をしていると、装備を整えたパパさんが屋敷から出てきた。

「少し出かけてくる。アース君は家でゆっくりしていてくれ」

「何か有りましたか?」

「まあ、大した事ではない。村近くにスケルトンが何体か現れただけで、いつもの事だ」


 そこへ衛兵が慌てた様子で走り込んできた。

 見知らぬ俺を見て一瞬戸惑ったようだが、パパさんを見つけると息を切らせながらも向き直る。

「総長!」

「分かっておる。すぐに向かうぞ!」


 スケルトンを見てみたい。俺はシルビアを誘って共に後を追う。


 村を出て森方向に3kmほど行ったところでパパさん達が陣を張っている。森まで数百mという位置だ。付近の村からも集められたであろう衛兵30名ほどと、魔法要員だろう20名ほどがいる。

 ただ、ピリピリした空気は無く、世間話をするほどの余裕だ。

 これだけ集まればスケルトンが何十体いようが問題は無いという。


 遠くになにやら見たことのない魔物らしき集団が見えた。

「骨だ」

《骨ですね》

「まあ、骨だけど」

 30体程のスケルトン軍団の襲来だ。骸骨が腰に皮製らしき布を巻き、右手には剣、左手には丸い小さめの盾を持っている。魔物の戦士軍団と言ったところか。


 50m程に近づいた時、パパさんが号令を掛ける。それに反応してこちらの陣営から魔法が次々と放たれる。

 スケルトンが一体二体と崩れ落ちていく。結局こちらの陣営に辿り着いたのは二体だけで、その二体もパパさんらの剣によってあっさりと沈んだ。

「アンデッドの倒し方って有るのか? ゴブリンとかと同じか?」

「見た感じ同じっぽいわね。実は私も戦ったことが無いのよ」


《スケルトンの第二陣が近づいて来ます。10体ほどです。中に、少し体格が良い個体が2体居ますね》

 今度の集団は魔法を盾で防ぐのがうまく、全く崩れ落ちない。体格がいい奴らは魔法耐性があるようで、盾で防ぐことすらせずに魔法を浴び続けているが全く平気なようだ。


 一体も沈むことなく取り付かれたが、剣により一体ずつ沈めて行く。

 しかし、体格が良い個体だけは別だ。とにかく力が凄い。一振りで数人が簡単に吹き飛ばされる。後方から魔法を放つもほとんど効いていないようだ。程なくパパさんも挑むが弾き飛ばされた。

 ヒーラーがすかさず回復を行っている。


 衛兵達が口々にハイスケルトンだと騒いでいる。あの2体がハイスケルトンと呼ばれているようだ。

《ハイスケルトンは、A級魔物に指定されていますね》


 俺達はパパさんに駆け寄り、シルビアが声を掛ける。

「パパ、大丈夫?」

「おお、シルビアか。大丈夫だ。しかし、あのハイスケルトンはやばい」


 スケルトン達がズンズンと向かって来る。

 前線はその分だけジリジリと後退していく。挑んでみるもハイスケルトンに吹き飛ばされるだけの結果にしかなっていない。圧倒的な力を持つハイスケルトンにもはや近寄ることが出来ないでいる。

 ハイスケルトン2体に、少し小柄のスケルトン4体が未だに健在だ。


 パパさんが言葉を続ける。

「あのハイスケルトンは脅威だ。今の戦力だと止めきれない。応援を呼ぼう」

 確かに戦力の差は歴然としている。ハイスケルトンは骨のくせにやたら頑丈で腕っ節も強い。身のこなしも素早く魔法耐性も有る。


《ハイスケルトンの出現は数百年に一度の出来事のようです。2体同時と言うのは過去にも例が無いようです》


「私が出るわ」





 ハイスケルトンの前に立つシルビア。レイピアがヒュンヒュンと唸りを上げ始めた。

 ハイスケルトンの大きな剣が横薙ぎでシルビアを襲う。衛兵達を簡単に吹き飛ばした重い剣だが、レイピアがそれを上に弾き返す。

 衛兵達からおーっと歓声があがった。


 レイピアを振るうも盾で防がれる。続くハイスケルトンの攻撃を弾きサイドステップの後、一瞬で懐に飛び込むが、ハイスケルトンはうまく腕をたたみ剣を繰り出して来る。それをバックステップで躱す。

 練習の成果が如実に現れている。

 だが、相手もさすがA級魔物だけのことはあり、かなりの実力のようだ。お互いにまだ本気を出していないようだが、シルビアがあの盾持ちをどう攻略するのかが見ものだ。


 少し間をおいた後、シルビアは意を決したのか正面から本気の一撃を打ち込む。盾で防がれるも気にせず次の攻撃を繰り出す。剣で流された直後、ハイスケルトンの攻撃が来るが、レイピアで受け流す。

 シルビアは真正面から勝負を挑むことを選択したようだ。

 これを皮切りに激しい打ち合いが始まった。


 まとわり付く小型のスケルトンを戦いの合間についでとばかりに沈めていく。


 もう一体のハイスケルトンが加勢しようと近づいてくる。シルビアはそれをキッと睨んだ。

「じゃましないでっ!」

 ファイヤーボールが立て続けに3発放たれた。ハイスケルトンが盾を構える中、ファイヤーボールは盾をかいくぐり全弾命中、一瞬にしてハイスケルトンの残骸が散らばり魔石が転がる。

 その破壊力を目の当たりにした衛兵達は唖然とし、声を出すことさえ忘れている。パパさんも同じく唖然としている。



 打ち合いが続いている中、ついに状況が変わる。

 何度もシルビアの攻撃を防いできたハイスケルトンの盾だったが、シルビアの休みなく続く攻撃に耐え切れなくなりパキンッという大きな音と共に粉々に砕け散った。

 盾を失ったハイスケルトンはシルビアの速い攻撃を防ぎ切れなくなり、どんどん削られていく。


 動きに精彩を欠いたハイスケルトンの剣を弾き飛ばした後、胴体を横薙ぎに真っ二つとし、ハイスケルトンは沈んだ。


 周りから大きな歓声と拍手が湧き上がった。

「「勝ったー!」」


 衛兵達はシルビアに称賛の声をかける。

「ハイスケルトン2体相手に単身で勝利するとは、さすが総長の娘さんだ」


 パパさんも感心しきりだ。

「シルビア、お前強いな。さすがに驚いたぞ」

「でしょ? 自分でもそう思うわ」

「だが自惚れるなよ? 魔物でもそうだが、自分よりも強い奴はいるってことを忘れないようにな」


「うん、知ってる。アースがいい例よね」

「そうだったな。それにしてもアース君はもっと強いってことか?」

「当然よ。私なんて全く歯が立たないんだから」

「ふむ。あの魔法だとどうだ?」

「私の魔法なんてアースには全然通らないわよ。防がれて終わりね」

「あの魔法を持ってしてもか。そこまでとはな」



 戦場を片付け帰路につく。

 ハイスケルトンという脅威から村を守れたことで、みんな興奮気味だ。

 しかも、ハイスケルトンの魔石という滅多にお目にかかれない最高の戦利品、それが2つというおまけ付きだ。

 一行はそのままシルビアの家の庭へと直行し、急ごしらえの祝勝会が行われた。

 帰り道でもそうだったのだが、シルビアの話で持ちきりだった。


 今回も俺の出番は無かったな。


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