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34 シルビアの故郷

 サハナ村まであと数日のところまで来た。

 この辺りには弱い魔物だけが生息しているようで、俺達が歩みを止めるのは夜ぐらいだ。


 ここまでの道中、シルビアは精霊魔法のファイヤーボールとファイヤーストームを練習していた。魔力魔法にエナを少し混ぜるのは問題無く出来ていたらしいが、純粋な精霊魔法が難しかったようだ。それでも、練習の甲斐有って集中すれば出来るまでになったようだ。実戦での試し打ちは行っていないが、相当な手応えを感じているらしい。


 野営をしていると、シルビアが何やら少しボヤいている。

 見ると、マントに魔力を補充しているようだ。

「油断するとエナが混ざってしまいそうになるのよねー」

「少しぐらい混ざってもいいんじゃないのか? 魔法が強化されたのを同じで、防御が強化されるかもしれないぞ」

「え、そうかな」

 自分自身でも適当すぎる回答だと思ったが、言った後から考えると、有り得ない話じゃない気がしてきた。

「少し試してみたらどうだ?」

 まあ、壊れることはないだろう。


 エナが混ざったまま補充してみたようだ。

「あれ? ちょっと凄いかも」

「どうした?」

「ほんとに防御力が上がってる気がするんだけど」

 エナを流した刀を再度試してみるかと思い立ち、実際やってみるとシルビアの言う通りかなり強化されているのが分かった。以前はマントになんとか届いた攻撃が今は全く寄せ付けない。

 オーバーフローだとどうだろうか、ルナの見解だとオーバーフローが勝るだろうとのことだったので、今回も試すのは止めておいた。

 ほんの少しのエナを混ぜた程度にも関わらず、その効果は顕著に出ている。本格的に混ぜるとかなりの防御力が期待できそうだ。



     §



「シルビアさん、おかえりなさい」

 ようやくサハナ村に到着した俺達を村の入口で衛兵が出迎えてくれる。

「ただいま。いつもご見回り苦労様」

 村の様子を見たところ、フィンプラスの村よりはかなり小さいようだが、綺麗な建物が並んでいて商店などもいくつも有って、暮らしやすそうなところだ。

 村の東側は海に面していて、子供の遊び場にもなっているらしい。シルビアも子供の頃には毎日海で遊んでいたと言う。


 この村の周りには同じような村が有るらしく、この村を含めて8つで集落をなしているとのこと。

 また、北へ数kmほどのところから巨大な森が広がっていて、魔物もいるらしい。

 そのため、それぞれの村はフィンプラスの村や町と同じく透明な壁で守っているようだ。

「どの程度の魔物が出るんだ?」

「んーと、強さ的にはゴブリンぐらいかな」

「強さ的には? その言い方だとゴブリンじゃないってことか?」

「うん違うよ。この辺りにはゴブリンはいないもの。たぶんエルフ大陸にはいないんじゃないの?」


「そうすると、何がいるんだ?」

「スケルトンよ。知ってる?」

「え? それってアンデッド?」

「そうそう、よく知ってるわね」


 そんな話をしていると実家についたようだ。

 広い庭に大きなな家。屋敷と言っていいだろう。聞くと、この付近一帯の村の長らしく代々続いているとのこと。総長と言うらしい。シルビアって実はいいとこのお嬢さん、サラブレッドだったようだ。


 家の側で俺達に背を向けて若い女性2人が庭いじりをしているのが見える。一人はシルビアの家族だろうか。横顔がちらっと見えただけだが美人でシルビアに少し似ている。お姉さんか妹だろう。もう一人は服装からしてメイドさんのようだ。


 シルビアが後ろから声をかける。

「ただいまー」

「あらー、シルビアじゃないの。おかえり。元気そうね?」

「うん元気よ、ママも元気そうね」

 え? ママ?


 横にいるメイドさんらしき女性も嬉しそうに微笑んでいる。

「シルビアさん、おかえりなさいませ」

 こちらはメイドさんで合っていたようだ。

「ただいまメアリー。また暫くお世話になるわね?」

「そんな、お世話になるだなんて。シルビアさんのお家じゃないですか、いつまででもどうぞいらして下さい」


 ママさんは土が付いた手袋をはずしながらシルビアの後ろに控えている俺をチラチラ見ている。

「シルビア、そちらさんは?」

「この人はアースよ。一緒に旅をしてるの」

 そう言って俺の腕を掴む。

「初めまして、アースと言います。シルビアにはいつも助けて頂いております」

「まあまあ、これはご丁寧に。こちらこそ初めまして、シルビアの母のレニアよ。よろしくね」

「は、はい。よろしくお願いします」

 

「うん。それとこの娘はメイドのメアリーよ」

 メアリーさんとも挨拶を交わしたところ、二人共に特に身構えられることもなく、むしろ歓迎してくれているようだった。

 シルビアは少し屈むとキュイを撫でる。

「あとね、この子はキュイって言うの。私が名前を付けたのよ。とっても賢いんだから」


 ママさんとメアリーさんの視線がキュイに移った。特にママさんは興味津々のようだ。

「触っても大丈夫かしら?」

「うん大丈夫よ。絶対に噛んだり吠えたりしないから」

 二人は揃ってキュイを撫で始めた。

「大人しいわね。それに、ほんとに賢そうな顔してるわ」

 へー、そうなのか。



 屋敷の中に案内された。家の大きさから豪華な内装を想像していたが、案外質素な感じだ。ただ、高級そうな剣が何本も飾ってある。

《装飾用の剣ではなく全て実用的な剣ですね》

 ほー。確かに使い込まれているようだし、それに、きちんと手入れもされているようだな。


 片手剣が多いが両手剣も数点ある。

 ルナに価値を教えてもらうと案の定高級品ばかりだった。

 その中で一つだけ異質な剣がある。一見すると他の剣と同じく高級に見えるが、実際はかなり質が落ちるようだ。落ちると言ってもあくまでも他のと比べればと言う意味で、一般的には高級品であることには違いない。


 まあ、俺にはそんな眼力は無いのでルナに教えてもらわないと全く分からなかったのだが。ただ、そう言われて見るとなんで一つだけかと、なんか気になる。

 その剣を眺めながら俺の後ろにいるシルビアに質問してみる。

「なあシルビア、この剣だけ質が落ちるみたいだけど何でだ?」

 そう言いながら振り返って見ると、そこにはシルビアではなく屈強な体つきの男が立っていた。


 ……


 意表を突かれた感じで俺は言葉に詰まった。

「え、えっと…… どちらさま?」


 男は鋭い目つきで俺を睨んだ。

「それは俺のセリフだ。まあいい。俺はこの家のあるじだ」

 人の家に上がっておいて、どちらさまは確かに無かったな。

「シルビアのパパさん?」

「よく分かったな」


 ……


「え、いや、主ってことはそうとしか――」

「そのことではない。剣のことだ」

「剣?」

「今言ってただろが、その剣だけ質が落ちると」


「あー、その事ですか」

「シルビアの代わりに俺が答えよう。それは自分へのいましめだ」

「戒め?」

「ああそうだ。それは俺が作った剣だ。それだけでは無い。そこに飾ってある剣は全て俺が作ったものだ」


「鍛冶師と言うことですか?」

「まあ、そうなる。若かりし頃、俺は自分の腕に絶対の自信を持っていた。剣を作ることでは誰にも負けない、そう思っていた時期があった。その頃に作った最高傑作と自負していた物がそれだ。だが、君にも分かったようにそれはただの自惚れだった。そんな剣を超える物なんて世の中にはいくつでも有る。自信過剰の俺はそのことを理解するのに相当な時間がかかったって訳だ。まあ、つまりは、自分を超える奴なんて幾らでもいるってことを忘れないための戒めのために敢えて飾ってあるってことだ」

「そんな深い理由が有ったんですね」


「その剣は見た目だけは良く出来ていて、他の剣と比べても劣るようには見えないはずなんだが、それをひと目で見破るとはな。やっぱり上には上がいるってことをまたしても教わったってことか」

「そんな教わるだなんて……」

「自惚れてもおかしくないほどの眼力を持っていながら、その謙虚さ。素晴らしい。気に入ったぞ」

 褒め過ぎだ。ルナに教えて貰っただけなんてもはや絶対に言えない。まあ、元々言えるはずも無かったけど。


 ……


「ところで、君は誰だ?」

「え?」



   §



 夕食を摂りながら一家団欒だ。シルビアはママさんと楽しそうに話をしていて、それをパパさんは微笑ましく見ている。俺がいるから家族水入らずという訳では無いが、気まずい雰囲気も無く俺は少しほっとした。

 そんな中、パパさんが俺のことを聞いてきた。

「アース君は鍛冶師なんだろ?」

「えっと……」


 俺が返事に困っていると、シルビアは美味しそうにもぐもぐ食べている手を止めてパパさんを見た。

「パパ、アースは鍛冶師じゃ無いわよ。変なこと聞くわね」

「えっ! 違うのか?」

 本気で驚いているようだ。

「違うわよ。アースは剣士よ。でも、何でそう思ったの?」

「んー、剣を見る目がただ者じゃないからな…… そうか、剣士か…… 俺と同じか」

 聞くと、パパさんは鍛冶師でありながらエルフ大陸でも屈指の剣士らしい。シルビアの剣の素質は血筋だったってことのようだ。

 普段は村の安全を守りつつ後進の指導を行っているそうだが、他の町や村へ応援などで遠征することも多いという。


 その後は、シルビアにはお兄さんとお姉さんがいることや、村のことなどをパパさんとママさんに教えて貰ったりして夜はふけていった。





 早朝、俺とシルビアは申し合わせたように庭に集合した。まあ、ルナを通して申し合わせたのだが。

 俺達はいつものように木刀を手にして日課の稽古を始める。

 最近は主に形を中心に行っていて、今日は俺が打ってシルビアがそれを受けた後に反撃するというものだ。細かな動きや太刀筋を確認することを目的としているので、スピードはかなり落として行っている。


 そんな俺達をパパさんが見に来た。

「シルビア、お前、剣術が使えるのか?」

「そうよ。アースに教わっているのよ」

「ほう」

 そう言うと、パパさんは一旦家の中に入ったが、暫くすると木刀を持って戻ってきた。


「パパ、何する気?」

「シルビアの力量をみてやろうかと思ってな。アース君、ちょっとシルビアを借りるぞ」

「はい……」

 パパさんが木刀を構える。

「さあ、シルビア! 打って来い」


 シルビアは呆れ顔だ。

「言っとくけど、私は初心者じゃ無いわよ?」

「お、大した自信じゃないか。なら、それを見せてみろ」

 シルビアは諦めて木刀を振るう。パパさんがあっさり流す。スピードは全くと言っていいほど無い。相当に手加減をしているようだ。


「そんなものか?」

 シルビアが少しスピードを上げて振るう。これも流される。

「じゃあ、こっちから行くぞ?」

 パパさんが木刀を振るう。シルビアは簡単に流す。

 そうこうしている内に相手の様子見が終わり、かなりスピードが上がっている。


 パパさんが確かに強いのが分かった。相当の実力のようだ。

 それでもパパさんは、本気を出してもシルビアに全く届かないことが分かったようだ。

「シルビア、実力は良く分かった。既に俺を超えている。大したもんだ。アース君に教わったって言うのは本当なのか?」

「ええそうよ。アースは私なんかよりもっともっと強いわよ」


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