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33 精霊魔法4

「ヨーストさん、今日の訓練の前に一つ試させて頂きたいことがあります」

「はい、どういった事でしょうか?」

 魔力とエナの両方を込めた魔法を打ってみたいと申し出たところ、ヨーストさんも興味津々と行った感じだ。


 シルビアの前に指サイズのファイヤーアローが現れる。見た目は魔力でできた矢だ。

「この矢には昨日と同じぐらいのエナも入っているの」

「ほう、そんな事ができるんですか。面白いですね」

「行くわよ」

 矢が放たれると、カーブを描きながらカカシに向かって高速で飛んで行き右手に命中した。

 その途端、昨日までは聞いたことの無いようなバキッという音と共に、カカシの右手が吹き飛んだ。吹き飛んだ部分は何個かに割れていて燃えた後のように煙が立っている。


 ……


 ヨーストさんは驚愕の表情をしている。

「そんな馬鹿な…… あのサイズのファイヤーアローでカカシが壊れるなんて聞いたことが無い」

 いや、はっきり言って俺も驚いた。ヨーストさんの言葉を聞く限り、単純な足し算では無さそうだ。少なくとも倍増はしているみたいだ。

 シルビア自身も驚いている。

「いったい、どういう事?」


 ヨーストさんにも分からないという。推測では、魔力とエナの相乗効果で数倍の威力になったんじゃないかと考える他無いとのこと。

 エナが少しだけ混ざった魔力魔法、つまりシルビアが一番楽に作れる魔法のことだが、その魔法でも威力を確認してみたが、やっぱり今までの物より威力が上がっていることが分かった。

 シルビアにとっては混ぜるのは全然難しい事ではなく、むしろ手軽に出力を上げられる裏技魔法ってことになりそうだ。





「それでは、今日の目的である防御の訓練を行います。精霊魔法でロックされた時に如何に対処するかと言うことです」

 確かにロックされると逃げられない気がする。なるほどと思い頷き返す。


「考えられる方法はいろいろ有ります。例を挙げると、射程圏外に逃げる、魔力障壁で防御、魔法で相打ち、攻撃の無効化、ロック外し、盾での防御などです」

 俺達が頷くのを見て、ヨーストさんは話を続ける。

「この中で、現実的で有効なのは、ロック外しと、盾での防御です」

 シルビアは少し首を傾げる。

「ロック外し? 盾は分かるけど」

「はい、盾での防御はそのままの意味ですので、特に訓練は行いません。ただ、盾を単に構えるだけだと簡単に回り込まれてターゲットに命中してしまいますので盾をぶつける感じで迎え撃つ必要があります。また、盾破壊に至ることがありますので過信は禁物だということだけは覚えておいてください」

 シルビアは頷いていてその意味が分かったようだ。


「今日はロックを外す練習をしましょう」

「ええ」

 シルビアは良く分からないといった雰囲気を出しつつ頷いた。

「まずは、ロックされたことを検知する必要があります。ネオラがシルビアさんをロックしますので、どこを狙われているか検知してください。それでは、ネオラ、ロックを」


 10mほど離れた位置にいるネオラさんはシルビアをじっと見た。

「ロックしました」

「シルビアさん、どこがロックされたか分かりますか?」

「もしかして右手親指?」

 ネオラさんが頷いている。

「その通りです」


「へー、分かるものなのね。そこだけ微妙に引っ張られている感じがするわ」

「それでは、そのロックを外します。どうすれば良いか分かりますか?」

「エナに対してロックしているのよね。だったらそこのエナを無くせばいいのかしら?」

「正解ですね。では、どうやって無くしますか?」


「んー、散らして放出する?」

「やってみてください」

「うん」

 ネオラさんが直ぐに報告する。

「ロックが外れました」

「へー、こうやって外すのね」


「まあ、どこを狙われているのかが分かると言うことは、攻撃される場所が特定できていると言うことですので、ロックされてもさほど慌てる必要はありません。ロックを外すか、盾などで防げばいいだけです。ただ、複数人に同時にロックされる場合も考えられますので、素早くロックを外すことは非常に重要になります」

 うんうんと頷くシルビアを見てヨーストさんは話を続ける。

「それでは、ネオラが何回かロックしますので、その都度、素早く外してみてください」

 シルビアはロックをきちんと検知して、ロックを外せているようだ。



 ヨーストさんは一つ頷いた後、次に申し訳なさそうに言葉を発した。

「ここまでは良さそうですね。ですが、実はロック外しには大きな弱点があるんです」

「弱点?」

「はい。体がロックされた場合はいいのですが、装備がロックされた場合は初心者は見抜くことが出来ないんです…… 実際に行ってみましょう」


 ネオラさんがシルビアを見て告げる。

「ロックしました」

「シルビアさん、どうでしょう? ロックされた場所が分かりますか?」

「んと、左のブーツよね?」


 ……


 ヨーストさんとネオラさんが一瞬放心状態になった。

「…… あ、合っています」


 シルビアは防具にもエナを流しているためか、ヨーストさんの予想に反してロックをきちんと検知できたようだ。その後、先程と同じようにロック外しを難なくこなしている。



 その様子を見ていた俺は一つ思いついた。

「シルビア、どうせ放出するのなら、そのエナを使ってエナボールを作れないのか? 魔力魔法ベースのボールでも矢もいいんだが」

「やってみるわ」

「ほう、それは面白い試みですね。ですが、難しいと思いますよ。散らすのと、使うのでは全然違いますからね。でも少しチャレンジして見るのは悪くないと思います」


 ネオラさんが、再びシルビアの右手をロックする。

 シルビアがロックされたエナを含んだ魔力魔法の小さなエナボールを作り出した。

 それを見たネオラさんが、驚きの表情をする。

「ロックが外れていません!」

「どういう意味です? ネオラ」

「ロックがボールの方に移っているようです」


 ヨーストさんは少し考えてから指示を出す。

「シルビアさん、そのボールを体から遠ざけてみてください」

 ボールが、すーっとシルビアから離れていく。

「ターゲットが移動しているように感じます。もし、見えていなければシルビアさんが移動したと思ってしまいます。というか、見ているものと感覚が違うからかなんか混乱しています」


「ネオラ、ターゲットにファイヤーアローを打ってみてください」

 ネオラさんから放出された矢はシルビアではなく小さなボールに向かって行った。

 最後は矢がボールを捕らえて爆散した。

「シルビアさん、そのボールは瞬時に作れるのですか?」

「ええ、この大きさなら簡単よ」


 少し危険だが、実戦的にやってみようとの話になった。

 ネオラさんがシルビアをロックして直ぐにファイヤーアローを放つ。シルビアはロックを検知するとその部分のエナを使った魔力魔法のボールを作り、自身から遠ざける。

 ネオラさんがファイヤーアローを放った時には既にボールはシルビアから遠ざかっているという瞬間技だ。

 矢はボールを追うように向きを変えて最後はボールに突撃して爆散した。


 ヨーストさんは驚愕の表情だ。

「これは凄い! 完璧な対処方法です」


 ネオラさんもやってみたいと言うことで、シルビアがネオラさんをロックする。

 ネオラさんは小さなエナボールを作ってみるが、ロックされたエナをうまくボールに移せないようだ。

 ロックされたエナが残ったままだったり、散ってロックが外れたり、何よりも時間が少し掛かるため、実戦では既に着弾してしまうだろうとの結果だった。

「非常に有効な方法ですが、現時点ではシルビアさん以外は使えそうに無いですね。ただ、不可能では無いということをシルビアさんに教えて貰いましたので、今後はこれを訓練の一つとして取り込んで行きたいですね」


「この数日で基本的な事を教えて来ましたが、教えられることはこれで終了になります。明日は、他に試したいことなどがあればそれを行いましょう。それではまた明日」



     §



 早朝の稽古で、シルビアに俺をロックして貰った。

 どこをロックされたのか全く分からない。

 ロックした部分を教えて貰ったが、違和感すら無い。

 試しにと、シルビアにエナ入りの小さな魔法で俺を狙って貰った。俺の腹に直撃した瞬間、爆発し俺は後方に吹っ飛んだ。

 魔力魔法は効かないが、エナ入りは思いっ切り効くようだ。

「アース、大丈夫?」

「ああ、問題ない」

 そうは言ったものの、単に自動修復によって大丈夫なだけで、服はこれでもかと言うぐらいズタズタになっている。これは、なんらかの防御が必要だ。

「今度は、刀でエナ入り魔法を撃ち落としてみるか」

「刀が壊れてしまうかも」

「壊れたとしても作り直せばいいだけだ」


 エナ入り魔法が俺に向かって来る。エナを流した刀を振り抜くと魔法が爆散した。刀も無事なようだ。純粋なエナボールでも試したが撃ち落とすことができた。





 訓練場で、シルビアがレイピアを構えている。その30mほど先にはネオラさんがファイヤーアローを準備して構えている。

「シルビアさん行きますよ?」

 ネオラさんのファイヤーアローがシルビア目掛けて飛んでくる。ネオラさんは若干心配そうにファイヤーアローの行方を見守っている。レイピアが素早く振り抜かれると爆散する音が響き、撃ち落とすことに成功したのが分かる。


 ネオラさんはほっとした顔をしたが、すぐに泣きそうな顔になった。

「シルビアさーん、怖すぎです! 見てられませんよー」

 それに対してヨーストさんは感心した表情をしている。

「素晴らしいです。本当に撃ち落とせるとは。その振り抜くスピードが有ってこそ可能な技ですね。我々では到底無理です。簡単に剣は回避されて仕舞うでしょうね」



 時間が余ったので、精霊のことをいろいろと教えて貰った。

 精霊は、主に6種族がいるとのこと。

 火の精霊、水の精霊、風の精霊、地の精霊、闇の精霊、光の精霊。

 ただ、種族間の交流はほとんど無いという。

 これら6精霊には種族カラーとなるそれぞれ拘りの色があり、例えば、火の精霊は赤で服などは例外なく全員が赤色を身に着けている。

 遠くに見える町並みも、全体的に赤っぽい建物ばっかりで、若干引いてしまう。他の色を使ってはいけない決まりは無いものの、ほとんどが赤を好んで使うらしい。

 なんか、近寄りたくない景観だ。


 同じように、水の精霊は青、風の精霊は緑、地の精霊は黄、闇の精霊は黒、光の精霊は白だという。


 ふと思ったことを聞いてみた。

「桃色はいないのかな?」

 ヨーストさんが少し驚いたような顔をした。

「桃色がいるのを何故知っているんですか?」


 そう言われても、ただ、なんとなくそう思っただけだし。

 実際に桃色の種族カラーを持った特殊な精霊が極少数いるとのことで、はぐれ精霊と呼ばれているらしい。精霊なのでもちろんエナは使えるが、地味で役立たない能力しか無いと言われており、集落を作ることも無いので種族として認定されていないらしい。

 聞いていると少し不憫に思えてきた。



 火の精霊の攻撃魔法には、ファイヤーアロー、ファイヤーボール、ファイヤーストームの基本攻撃の他にも、マグマ系、火山系、焦熱系、爆発系、火炎系、加熱系などいろいろな系統があり、訓練次第では使えるようになるだろうとのこと。ただ、現時点でシルビアがうまく使えるのはファイヤーアローだけなので、まずは基本攻撃3種が使えるようになるのが先決とのことだ。



 精霊についての話が終わった後、俺たちを襲った奴のことをヨーストさんに尋ねてみたところ、たぶんゴーストだと言う。

 ゴーストは、精霊と同じような能力を持っているらしいが、精霊とは全く接点が無いらしくよく知らないそうだ。と言うよりも興味が無いというのが本音のようだ。

 攻撃方法についても知らないらしいが、破壊力が凄いというのは知られている事実だそうだ。


 あと、博士みたいな人を見た記憶などが無いかと訪ねてみたが情報は無かった。


 ヨーストさん達にお礼を言い、俺達は精霊の里を後にした。


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