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32 精霊魔法3

 俺もビー玉にエナを少し流して観察してみるが、違いが分かる感じが全くしてこない。

 俺が手に持つビー玉をじっと見ていたシルビアだが、ハッとして顔を上げた。

「分かったかも」

「ほんとか?」

「うん。ちょっと貸して!」

 俺の手からひったくるようにしてビー玉を手にする。


 エナを流したり止めたりして、考えが正しいのか確認している。

「あー、やっぱりそうだよ」


「じゃあ、試してみるか?」

「ええ、いいわよ」

 自信がありそうな顔をしている。

 そんなシルビアにビー玉の1つを見せる。

「ビー玉2つを俺がシャッフルしてシルビアに見せるので、こっちのビー玉を言い当ててみてくれ」

 シルビアは黙って頷きながらビー玉を見た。


 シャッフルしてから2つを見せると、シルビアはすかさず一方を指差す。

「こっち」

「当たりだ」

 何回か繰り返すが、全て言い当てる。

 ビー玉以外でも試して見たが問題無いようだ。


「凄いじゃないか。結局どんな違いが有るんだ?」

「エナの影が違うのよ」

「影?」

 何それ?

「うん、影よ、影。エナが引く黒い感じがあるでしょ? 分からない?」


 ……


 言ってる意味が分からん。俺は首を横に振る。

「それがどのくらい違うんだ?」

「もう、全然違うし。間違えることなんて絶対に無いわ。こんなに違うのに何でさっきまで分からなかったのかしら」

 どう違うのかを教わってみたが、俺にはさっぱりだ。なんだよ、エナが引く黒い感じって。





 翌朝、訓練場で待っていたヨーストさんに判別できるようになったことを報告した。

「影ですか。感じ方は人それぞれですが、その感覚は初めて聞きました。それにしても、たった一日で判別できるようになるとは……」

 ヨーストさんはしきりに感心している。



「それでは次の段階に移ります。そのカカシの右手をロックしてみましょうか」

 シルビアの前3mほどのところにカカシが立っていて、手に当たる部分が球状になっている。シルビアはそのカカシの右手部分をじっと見つめる。

「どうすればいいの?」

「シルビアさんが感じている影を摘む感じで感覚を固定します。近づいて見てもいいですよ?」


「大丈夫、できたわ」

「きちんとロックできていれば目を瞑ってもターゲットの場所が分かるはずです。どうですか?」

 目を瞑り首を右に振ったり左に振ったりしている。

「大丈夫そう」

「流石ですね。では、昨日作ったのと同じようにエナでボールを作ってください」


 すぐさま胸の前辺りに赤いエナボールが現れた。

「それを矢の形に変えられますか? ファイヤーアローと同じ形で、指ほどの大きさでお願いします」

 即座に矢の形に変わった。

「結構。コントロールの練習ではボール型よりも矢の方が向いているのはシルビアさんも知っての通りです」

 シルビアも分かっているようで頷いている。


「その矢をカカシに当てる練習をします。ロックしているカカシの右手に矢を飛ばすのですが、その際、矢を当てようとは思うのでは無く、ロックしている部分と矢が糸で繋がっているかのようにイメージして、矢を放ったあと矢が糸を手繰り寄せるように飛ばしてください。うまくイメージできれば勝手に当たります。矢のスピードはゆっくりでいいですよ?」


 赤い矢がカカシの右手に向かって真っ直ぐ進んでいく。非常にゆっくりだ。人間の歩くスピードよりも遥かに遅い。

 それでも、最後は若干スピードを上げたようだ。もちろん命中したのは言うまでもない。

「あー、やったー。なんか分かったわ」

「素晴らしい! 一回で成功するとは思ってもいませんでした」


「次はカカシに背を向けてください。そのまま矢を左前方に放ってください。できれば、さっきよりもスピードを上げて勢いを付けて放ってください。ロックしたイメージを忘れないように集中ですよ」

 シルビアの肩辺りに現れた矢が左前方に勢い良く放たれた。矢は円を描くように軌道修正されてカカシに向かって行く。シルビアにはカカシが見えていないにも関わらず次の瞬間には矢がカカシの右手を捉えていた。

「お見事!」


「距離を一気に伸ばしてみましょう。本来なら徐々に延ばすのですが、シルビアさんなら行けそうな気がします。あそこにあるカカシの左手をロックできますか?」

 50m離れたカカシをシルビアはじっと見た。

「うん、大丈夫みたい」

「では、シルビアさんのタイミングで矢を放ってください」

「分かったわ」


 シルビアの胸の前に矢が現れたと思った瞬間、猛スピードでカカシに向かって飛んでいった。シルビアのいつもの魔法のスピード以上に高速だ。もちろん的を外すことは無かった。

 これには、ヨーストさんだけでなく、ネオラさんとコルネリエさんも驚いたようだ。当然、俺も驚いた。

 ネオラさんがぼそっと呟く。

「なんて速さなの……」


 ヨーストさんが追加で指示を出す。

「先ほどと同じように背を向けて放ってください」

 シルビアが背を向けると、直ぐに矢が放たれる。矢は前方斜め上に放出されたが、旋回するように向きを変えてカカシに向かって行き、カカシの右手に着弾した。これもあまりの高速なため瞬きしていると見逃してしまうほどの一瞬の出来事だ。


 ……


「で、では、ロックの練習の最後として、ネオラが的を動かすのをやってみましょう」


 50m先ぐらいにネオラさんが的を持ってスタンバイしている。

「えと、シルビアさん、スピードはさっきの半分ぐらいでお願いしますね」

「うん」

「では、どうぞ」

 矢がシルビアから放たれてネオラさんに向かって行く、的に当たる瞬間にネオラさんが的を動かしたが、矢はその動きに追従して見事に命中した。

 シルビアは嬉しそうだ。

「わー、凄いねーこれ」


 ヨーストさんもうんうんと感心しきりだ。

「完全にマスターしましたね。こんなに成長の早い生徒は初めてですよ」


 参考にと言うことで、シルビアのロック可能な距離の限界を測ったところ、おおよそ70mだった。

 ロックしても射程圏内から外れるとロックは自動的に外れるし、その後、ターゲットが近寄ってきてもロックが自動的に復活することは無く再度のロックが必要らしい。訓練によって射程圏を延ばすことが可能とのことだが、過去の事例から考えると100mぐらいが限界になるだろうという。



 精霊魔法には、魔力魔法と同じようにファイヤーアローの他に、ファイヤーボール、ファイヤーストームと言った上位の基本攻撃魔法もある。ネオラさんにその実演を行って貰う。

 強力な魔法のため、カカシでは無く、岩が標的だった。カカシもそうだが、岩も訓練用とのことでかなり頑丈な作りらしく、破壊されることは無かった。


 シルビアもチャレンジして見たが、魔力魔法を心得ているにも関わらず上位の精霊魔法はうまく使えなかったようだ。

 上位の精霊魔法はエナを多く込める必要があるらしいが、多く込めれば込めるほど安定性が失われ成功する可能性が低くなるという。まあ、これも魔力魔法と同じように訓練次第ってことだ。

 上位の精霊魔法は使えなかったが、攻撃面での精霊魔法の授業は終了となった。





 翌日の早朝。日課の稽古を行おうと思ったが、ふと思ったことがあったので先にそれを実験してみることにした。

「シルビア、魔力魔法にエナを混ぜることはできないのか?」

「え?」

「ほら、精霊魔法も魔力魔法も同じ魔法だろ? それなら混ぜることもできるんじゃないかと思ってな」

「んー、どうかなぁ。でも面白そうね」

「まずは、魔力魔法でファイヤーアローを作って見て」

「うん、分かった」


 そう言うと、シルビアの前に指サイズのファイヤーアローが出現した。

「あれ? 失敗」

「どうした?」

「ほんの少しだけどエナが勝手に混ざっちゃった」

 見たところいつもの魔力によるものと変わらないようだ。

「と言うことは、結果的に混ぜることができるってことか」

「作り直すわね」


 矢は消えて、暫くすると再び矢が出現した。

「出来たわ。でもちょっと集中しないと混ざっちゃうわね」

「ほう、そういうものなのか。なら、エナが混ざってもいいので一番楽に作れるファイヤーアローを作って見てくれるか?」

「うん、分かった」


 矢は消えて、直ぐに再び矢が出現した。いつもの魔力による矢だ。

「その矢はエナだけで作るよりも楽に作れるものか?」

「うん」

「エナはどのくらい混ざってる?」

「ほんの少しよ」


 どのくらいだ?

「その混ざっている量のエナだけで矢を作ったとしたらどのくらいの大きさになるか分かるか?」

「んー、そうね、このくらいかな」

 シルビアは親指と人差し指で隙間を作って見せた。だいたい小指の爪の半分、5mmくらいのようだ。


「その矢を動かすことができるか?」

「エナが混ざってるので出来る気がする」

 矢はすーっと前に飛んで行って、旋回して戻ってきた。

「ほら、エナだけで作った時と同じように動かせるよ」

「ほんとだ。確か魔力の矢は一旦放つと真っ直ぐにしか飛ばないはずだよな」

「そうよね。おもしろーい」


「混ぜるエナの量を昨日と同じくらいにできるか?」

 シルビアは頷くと早速作り直したようで、矢が一旦消えて再び現れた。

「威力はどうなんだろう? 魔力魔法と精霊魔法を足した感じなんだろうか?」

「どうかしら。でもね、なんか凄い威力のような感じがするんだけど」

「ほー、それなら、今日、訓練場に行った時に試させて貰おうか?」

「うん」

 そう言うと、シルビアはファイヤーアローを解除したようで、すっと散るように消えた。

 その後、いつもの稽古を終えてから訓練場に向かった。


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