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31 精霊魔法2

 早朝、俺たちが日課の稽古を行っていると、ヨーストさんとネオラさんがやって来た。

「シルビアさん、アースさん、おはようございます」

 俺たちも朝の挨拶を返し、早速訓練場へ向かうこととなった。


 精霊はエナを使った精霊魔法を使えるが、逆に魔力は使えない。そのため、エルフが使うような魔力魔法は使えないらしい。ただ、精霊魔法は魔力魔法の上位互換とのことで勝るとも劣ることは無いと言う。

 精霊魔法は強力で、魔力を使った魔法の数倍の威力や効果を出せるらしい。



 訓練場につくと、コルネリエさんが居た。

「今日は、シルビアさんに精霊魔法の素質があるかを最初に確認します。それではコルネリエ、確認をお願いします」

「はい。シルビアさん失礼します」

 コルネリエさんはシルビアの肩に手を当てて、目をつむり瞑想するように動かなくなった。



「火の種を発見しました。素質があるようです」

 シルビアは嬉しそうだ。それを見ていたヨーストさんもほっとしているようだ。

「ほう、有りましたか。良かったです」

 コルネリエさんが申し訳なさそうに呟く。

「ただ、非常に小さいため精霊魔法を使えるまでにはかなりの月日を要するかと思います」

「小さくても有ると言うことは、訓練次第ですが将来的に物にできる可能性がありますね」


「俺も見て貰えないでしょうか?」

 コルネリエさんはシルビアの時と同じように俺の肩に手を当てて、確認する。

「少なくとも、火属性の素質は無いようです」

 そうか、期待はするなと言われていたが、少しがっかりだ。

「他の属性を持っている可能性ってありますか?」

「それは分かりません。他の属性の精霊に見てもらわないと分からないという意味です」


「このキュイはどうでしょうか?」

「え…… 犬は流石に無理じゃないかと思いますよ?」

 それでもキュイをじっと見つめる。

「…… このワンちゃんもエナが綺麗に流れています。あなた達っていったい……」

 引き続き、キュイに触れて素質を確認する。

「こちらも、火属性の素質は無いようです」


 そうか。まあ、シルビアだけでも有って良かったと言うべきだろう。





 その様子を見ていたヨーストさんは、こちらに向き直った。

「素質を持っているのはシルビアさんだけですね。それではシルビアさんの素質を引き出してみます。シルビアさん宜しいですか?」

「ええ」

 引き出すとはどういう意味かを尋ねたところ、休眠状態の火の種を活性化することだとのこと。


「それでは、コルネリエ、ネオラ、準備を」

 コルネリエさんが、再びシルビアの右肩に手を乗せる。先程より長い時間瞑想を行い、シルビアの体の中を探っているようだ。



「捕まえました。ネオラ、着火をお願い」

 今度はネオラさんがシルビアの左肩に手を乗せ、コルネリエさんと同じく瞑想に入る。



「コルネリエが捕まえている火種を認識しました。着火します」

 そう言うと、力を込め出したようで、よりいっそう真剣な面持ちになった。

「着火できました」

 コルネリエさんとネオラさんは、シルビアから手を離した。


 シルビアは自分の手を見ている。

「どうしたシルビア?」

「なんか、今までとエナの感じが違うの」

「ほう、どう違うんだ?」

「エナの質がが変わったみたいってうか、力強い感じだけど心地いいって感じ」


 俺達のやり取りをヨーストさんはどこか感心したように頷きながら聞いている。

「それは、シルビアさんが元々持っていたエナに火属性のエナが混ざりだしたからだと思います。まだまだ微量ですがそれを感じ取れるのは素晴らしいですね。コルネリエ、確認を」

 コルネリエさんが再びシルビアを凝視する。


「凄い! 既に全身のエナが火属性を帯びています」

「え…… そんなに早く拡散するなんて聞いたことが無い。見間違いでは無いんだな」

「はい。間違いありません。シルビアさんは元々全身にエナを流す術を身に着けていた中で、火種によりエナの流れる速さが増したようです。そのため一気に全身に広めることが出来たのだと思います。というか、そうとしか説明が付かないです」


 ヨーストさんは腕を胸の前で組み、下を向いて暫し考え込む。

「そうか…… 信じられない事ですが、シルビアさんは火属性エナの拡散が完了したようですね。普通なら火種に着火してから数ヶ月かけて徐々に全身へ広がって行くのですが」




 ルナにも確認して貰ったところ、エナの流れる速度が上がっているという。エナが通るパイプの太さが変わった訳では無いが、明らかに流れる勢いが増しているとのこと。その速度でもエナが暴れたりすることも無く、安定して力強く流れているらしい。





 今日は精霊魔法の紹介を昨日に引き続き行う予定だったらしいが、急遽授業に変更となった。

 ヨーストさんがネオラさんを見る。

「ネオラ、白玉は持っているか?」

「はい、いつも一式持っていますので」

 良く分からないが、授業で使う道具の確認だろうか。


「それでは、エナを使った精霊魔法の授業を開始します。ネオラ、白玉をシルビアさんにお渡しして」

 ネオラさんは懐からピンポン玉のような白い玉を取り出し、シルビアに渡した。

「そのボールは、エナのコントロールを練習するための特殊な物です。原理は…… んー、魔力で言うところの魔力タンクと同じ感じで、その小型版みたいなものですね。エナを体の外に出す感覚を身につけることが出来ます」


 シルビアはそのボールを日に照らして眺めている。

 その様子を見ながらヨーストさんは話を続ける。

「まずは、そのボールにエナを溜める練習を始めます。直ぐには出来ないと思いますが、これはエナを扱う上での基本中の基本ですので、まずはそれを物に出来るよう練習を続けていって下さい。エナが込められると徐々に赤くなって行きます。シルビアさんなら、一ヶ月もあれば真っ赤に出来ると――」

「こうかしら?」

「え?」


 ……


 シルビアが持っているボールが真っ赤に染まっている。

「出来てます…… ね……」

「うん、バッチリね」


「えっと…… えっと…… そ、それでは、そのボールと同じものをエナだけで作ります。要領は今と同じで、ボールが有ると思ってエナを込めて――」


 手の上に赤いボールが乗っている。


「…… 次に、そのボールを手から浮かせる練習をします。エナを込めたまま散らさないように気をつけて――」


「浮いた! おもしろーい」

 赤いエナボールが既に手の上で浮いている。


「…… もしかして、それを自在に動かせますか?」


 エナボールがシルビアの周りをぐるぐると回っている。


 ……





 放心状態から復帰したヨーストさんは気を取り直してシルビアに向き直った。

「次はターゲットをロックする練習です。これはかなり難しいですよ」

「ロック?」

「はい。あらゆる物体にはエナが少なからず存在しています。しかも物体が持っているエナは個々にユニークで、一つとして同じものは存在しません。似ていますが、必ずどこか異なります」

 シルビアが頷くのを確認するとヨーストさんは説明を続ける。

「ターゲットとなる物体が持っているエナを正しく認識し、追尾できるようにすることをロックと言います。ターゲットをロックできれば、その物体が今どこに有るのかを、目で追わなくても感覚で分かるようになります」


 ネオラさんは今度はビー玉のような小さな玉を2つ取り出し、それをヨーストさんに手渡す。

「ここに小さなガラス玉が2つあります。違いは分かりますね?」

「赤と青で、色が違うわ」

「その通りです。形や大きさは同じですが見た目の色が違いますね」


 さらにネオラさんから2つのビー玉を受け取り、シルビアに見せる。

「今度はどうでしょうか? 違いがわかりますか?」

「んー、どっちも透明で、同じ物だと思うけど」

「確かに見た目は全く同じですね。ですが、ここに別々に存在していると言うことは、この2つのガラス玉は全くの別物ということになります。似ているだけです。あまりにも似ているこれらを判別することは出来無いのでしょうか? 答えは判別可能です。では、違いは何だと思いますか?」


 シルビアは少し首を傾げてヨーストさんの手に有るビー玉を見ている。

「んー、分からないけど…… もしかしてエナ?」

「はい、その通りです。個々が持っているエナが異なります。先程教えたように、物体には必ず異なったエナが存在しています。そのエナを認識することができれば別物として判別可能ということです」


 シルビアは2つの透明なビー玉を受け取り、ヨーストさんの次の説明を聞き入る。

「個々のエナを感じ取って違いを確認してください。違いを認識することがロックの第一歩になります」


 シルビアは2つのビー玉を片手ずつに持って見比べている。

「同じよね」

「自分自身のエナを認識するのは容易ですが、他の物が持っているエナを認識するのは簡単ではありませんよ。まあ、慣れればなんだそんなことかというぐらい簡単なことなんですけどね」


「んと、ちょっと待って」

 じっと見つめている。


「エナが有るのはなんとなく分かるんだけど、違いは分からないわ。慣れると見ただけで分かるのよね?」

 それを聞いたヨーストさんは、幾分ほっとしたような顔をした。ようやくシルビアが出来ないことを見つけたというところか。

「いきなりエナを感じ取れるのは流石ですね。エナを少し流してみると違いが分かるかもしれませんよ」

 エナを流してみているようだが、首を横に振っている。

「全然わからない」


「それでは、今日はここまでにしましょう。その玉はシルビアさんに差し上げますので、違いが分かるよう試行錯誤してください。その違いの認識方法は人によって異なりますので、こればっかりは教えてどうにかなる物ではありません。自分自身で乗り越えてもらう必要があります。まあ、直ぐに分からないのが普通なので、焦らなくていいですよ」


 ヨーストさん達と分かれて宿に戻った。

 俺にもビー玉を見せて貰ったが、俺にもさっぱりだ。

 ルナにも同じにしか見えず、さっぱり分からないとのことだ。


 エナの違いか……

 ネオラさんは50m先の的を認識できていた。と言うことは、近くでじっくり見なくても判別可能と言うことだ。

 認識できれば後は目で追わなくても感覚で分かるとも言っていた。

 つまり、見た目云々では無いと言うことだろう。

 いったい何が違うと言うのだろうか。

「エナを流してみると分かるかもとも言っていたよな」

「うん」

 シルビアはエナを流してみてるようだが、分からないと言った顔をしている。

「だめか?」


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