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30 精霊魔法1

 長老の話によると、通常、凝り固まったエナをほぐすだけで3年ほどかかるとのこと。ただ、これだけでもエナによる死の脅威はかなり遠ざかるという。

 そこからエナを感じ取れるまでに早くて3年、エナを体内に循環させるのに2年、自分の意思で自在に動かせるようになるまでにさらに2年の修行が必要らしい。ここまで来ればエナは命を脅かす存在では無く、逆に命を延ばす有益なものになるとのこと。


「とまあ、このようにエナを使えるまでに10年ほどかかるが、その価値は十分にある。なーに、たった10年だ。どうだ、修行をしてみるか?」

 ようやく喋れるのかと、シルビアは小さくため息をついた。

「遠慮しておくわ」

 長老は断られるなどとは思っていなかったようで、少し驚いている。

「え、なんで? 話しを聞いてた? エナを使えないと死ぬんだよ? 我々はシルビアを救えるんだよ?」

 ここで断る理由が分からないといった顔をしている。


 精霊がじっとシルビアを見ていると、シルビアは少し微笑む。

「だって、エナ使えるもん」


 ……


「え?」

「エナを使えているって言ったのよ」


 精霊は訳が分からないようで、頭に疑問符が飛び交っているようだ。

「エナを知っているのか?」

「ええ、知っているわよ。私の体内にあるんでしょ?」

「その通りだが、体内に有るだけでは使えていることにはならない」

「使えてるわよ?」


 長老は少し呆れ顔だ。

「それは無い。精霊の里は初めて来たんだろ?」

「ええ、そうよ」


 ……


 長老は暫し考えた後、エナを見通せる精霊を呼んだようだ。


 少し待っていると、一人の女性の精霊がやって来た。

「初めまして、コルネリエと言います。シルビアさん、エナを確認させて頂きます」

 俺たちも挨拶を返すと、そのコルネリエという精霊はシルビアをじっと見つめだした。

 エナの流れを見ているのだろうか。


 暫くすると、精霊は少し感激したような顔をしてから話し出した。

「しっかり流れていますね。流れに淀みは見られないし滞ることも無く循環し続けています。ここまで綺麗にしかも体の隅々まで流せるのは私達の中でもほとんど居ません。これはもう完璧と言えるでしょうね」

 それを聞いた長老は少し呆然とした後に口をばくぱくさせた。

「そんな…… 有り得ない」


 ……


 暫しの静寂の中、徐に長老が口を開いた。

「我々の目的は既に達せられていたということか。それならそれで喜ばしいことだな。どこかで別の精霊に教わったのか? そんな様子は無かったように見えたが」

「精霊に教わったことなんてないわよ」

「なら、どうやってエナの扱いを覚えたのだ?」

「アースに教わったのよ」

「え?」

 シルビアが俺に顔を向けた。

「このアースに教わったのよ。ね?」

 そう言うと俺に向かってニッコリと微笑んだ。


「この人間に教わったと言うのか?」

「そうよ」

「それは無いな」

「有るわよ! アースなんて私よりもエナをうまく使えるんだから」

「それこそ有り得ない。人間がエナを使えるなんて聞いたことが……」

 長老の言葉が止まり、なにやら思案している。


「いや…… 過去に一人だけいたか。その再来とでも言うのか?」

 何故かギロッと俺は睨みつけられた。

「違うと思うけど」

 しかし、過去に一人だけいたのか。


「コルネリエ! この人間、アースとやらのエナを確認してみてくれ」

「分かりました。アースさん、失礼します」

 そう言うと、コルネリエは俺をじっと見つめだした。



「こちらもしっかり流れていますね。しかもシルビアさんよりも流れが大きく力強いですね。エナを使えるというのは本当だと言えます」

 長老は暫し考え込んでいる。

「ほんとに人間か?」

 うわっ、なんて質問するんだ。

「はい、間違いなく人間です」

 え、人間と思われた? サイボーグって分からないのか。この体って凄いな。精霊をも騙せるとはな。


「そうか、本当だったか。しかし、既にシルビアが救われていたとはな。せっかく来て貰って申し訳ないが、訓練は不要という結論だ。お引き取り頂いて結構だ。まあ、なんなら、暫く居てもらっても構わないがな」




 精霊魔法に興味が出て来た。追い返されるので無ければ少し留まるのもいいだろう。

「長老」

「なんだアース」

「エナを使った精霊魔法を俺たちに見せて貰えないでしょうか?」

 長老は少し考えた後、俺を見て微笑んだ。

「そのぐらいは訳ない」

 そう言うと、一人の男の精霊が呼び寄せられた。



「ヨーストです。魔法学校で教師をしています」

 この精霊が俺たちに精霊魔法を見せてくれるらしい。言われなくとも先生と分かる雰囲気だ。それと、ヨーストさんの横に女性の精霊がもう一人立っている。

「こちらはネオラと言います。私の助手です」

 ネオラさんはペコリとお辞儀をした。

 それに合わせて、俺たちもお辞儀を返す。

「よろしくお願いします」





 俺たちはヨーストさんに連れられて場所を移動した。俺たち以外にも数名の精霊が興味本位でついて来たようだ。

「ここは精霊魔法を練習する訓練場です。ここでは周りへの配慮は不要で、思う存分魔法を打つことができます」

 広い平原に所々に頑丈そうなカカシや、大きな岩が置いてある。


「まずはシルビアさんの魔力による魔法、いわゆる魔力魔法と、我々の精霊魔法の違いを体感して頂こうと思います」

 そう言うとヨーストさんはシルビアの方に向き直る。

「シルビアさんはファイヤーアローを使えますか?」

「ええ、使えるわよ」

 ヨーストさんは一つ頷く。

「それでは、あのカカシに撃ってみてください。小さいもので結構です。そうですね、指の長さほどの大きさでお願いします」

 指差した方向を見ると、30mぐらい先にカカシが立っているのが見える。


「いいわよ」

 そう言うと、シルビアはファイヤーアローを放った。指サイズの赤い矢がカカシに一瞬で到達し、パシッと音を立てて激突した。


 ヨーストさんは、おおーっと驚いている。

「素晴らしいスピードですね。威力もかなりのものです。これは流石に驚きました」

 そりゃ驚くだろ。シルビアの魔法の速度はピカイチだ。狙った獲物は絶対に外さない。

 ただ、カカシはびくともしていない。

 そのカカシをシルビアはじっと見つめている。

「あのカカシって頑丈ね」

「ええ、訓練用のカカシですので、頑丈に作ってあります。生半可な魔法ではびくともしませんよ。その分、相当な重量なんですけどね」



「今度は、あそこに居るネオラが持っている的を射抜いてください」

 50mほど先に、ネオラさんが1mほどの棒を上に掲げている。棒の上には20cmぐらいだろうか円形上の的が付いている。かなり小さい的だが、シルビアのコントロールなら問題無いだろう。

「分かったわ」

 先程と同じようにシルビアが指サイズの矢が的目掛けて猛スピードで飛んでいった。


 的に当たるかと思いきや、当たる直前でネオラさんが素早く的を横にずらしたため矢は空を切り、そのまま後方へ飛んで行った。

「えーー」

 それは無いのでは? というようにシルビアは不満げだ。

 直前で小さな的を動かされたらシルビアでも流石に厳しい。ネオラさんは矢を見ながら避けているようなので、当てるのはまず無理だろう。


 ヨーストさんがニコリとしてこちらに話し掛ける。

「あれはちょっと反則でしたね。それでは、精霊魔法を実演します。まずはシルビアさん、これを持ってください」

 見ると、ネオラさんが持っていた的と同じものを手渡された。

「先程のネオラと同じように上に掲げてください。ネオラが精霊魔法のファイヤーアローで的を狙いますのでそれを避けてください」


 シルビア以上のスピードを出せると言うのだろうか? シルビアは的を上に上げて準備する。

「それでは行きますよ? ネオラ!」

 ネオラさんの肩辺りに指サイズのファイヤーアローが出現した。精霊魔法で作ったファイヤーアローだろう、魔力魔法で作ったファイヤーアローとは質感がだいぶ違うように見える。


 などと考えている内にそのファイヤーアローが飛んで来た。速い? と思ったが、シルビアの半分ほどのスピードだ。

 シルビアは、ネオラがやったのと同じように矢が的に当たる直前に素早く的をずらした。さっきと同じだ。スピードが遅い分、避けるのは簡単だ。

 そう思ったのも過去のこと、矢は的の動きに追従するように向きを変え見事に的に命中した。的は当然のように吹き飛んだ。

 シルビアから驚きの声が出る。

「え!」


「分かりましたか? 百聞は一見にしかずですね。エナを操る。これが精霊魔法の基本です」


 さすが教師をやっているだけは有る。興味の引き方が上手だ。

 的を持つ役を俺もやらせて貰った。的を構えると、ネオラさんが矢を放つ。その矢は俺よりも遥か右側を狙って飛び出したが、カーブを描くように軌道修正され俺に向かって来た。俺は的を左右に大きく揺らすが、矢も右に左にと軌道修正しながら近づいてくる。的に当たる瞬間に的を一気にずらす。が、矢も的に引きずられるように一気に軌道を変えて見事に命中し的は破壊された。

「これは凄い!」

 威力もシルビアの魔力魔法よりも数倍あるように思える。


 ヨーストさんはうんうんと頷き満足気だ。

「魔法、精霊魔法の触り程度でしたが、ここまでにしましょう。良ければ明日続きを行いましょうか?」

 周りを改めて見回してみると、辺りは既に薄暗くなっていた。

「はい、是非お願いします」

「分かりました。それでは、宿泊できる所が有りますので案内します」


 宿に向かっている途中でヨーストさんに一つお願い事をしてみる。

「ヨーストさん、精霊魔法を俺たちに教えて貰えないでしょうか?」

 それを聞いたヨーストさんは、予期せぬ俺の願いに戸惑った様子で立ち止まった。

「ふむ…… 無理ですねと言いたいところですが、素質が有るかだけでも明日確認してみましょうか。素質が有る確率はほとんど有りませんので期待しないで下さいね。仮に有ったとしても、実際に精霊魔法が使えるまでには数年掛かりますので、そういう意味でも期待はしないで下さいね」



 案内された宿は建物自体質素な作りで、部屋の中には簡易的なベッドが一つ置いてあるだけだ。

 食事は必要かとも問われたが、不要と返事をした。その辺の事情は把握していたようだ。

 シルビアは今日目にした精霊魔法が目に焼き付いていて寝れないかもなんて言っていたが、ベッドに入ると直ぐに眠りについたようだった。



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