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3 ひよっこ達

 作り直した防具を装備していくシルビア。

「すごい! すごいよアース! 体にピッタリだし軽いし、しかも動きやすい。特にこのブーツ、ものすごく履き心地が良くなってる!」

「オーダーメイドの完全フィットだからな。実際に使ってみて合わないところが有ったら言ってくれ。すぐに直せるからな。形を変えたいってのでもいいぞ」

「うん、わかった!」

 かなり好評のようだ。



 その後、どうなってるのかって聞かれたので、異空間収納庫の機能を持っていることや、その異空間の作業エリアで物を製作することができる機能の説明を一生懸命してみたが、よく分からないってことだった。

 結局、そんなスキルを持っている感じだってことで納得したようだ。まあ、実際にはスキルじゃなくサイボーグ故の機能なんだけど。





 出かける準備を終えた俺達はギルドに向かう。

 ギルドの建物は王都のギルドよりも少し小さいが、その形は似ている。ギルドの前は広い敷地が有って剣などを練習しているひよっこハンターが結構いる。

 中に入ってみると、予想していた通り多くのハンターがいた。


「フロアは王都のギルドよりも広いな。窓口の数も多そうだし」

「ハンター多いからね」

 町にハンターが多い分、フロアを大きくしたってことか。



 へー、と関心していると、なにやらシルビアの顔を覗く一人の初老の女性がいる。年齢は50歳ぐらいだろうか、その女性がシルビアに声を掛けた。

「シルビア?」

「え? あ、サリー先生!」

 なんだ、知り合いだったか。


「やっぱり、シルビアね。久しぶり」

「ほんとにほんとにご無沙汰してました! 会えてすごく嬉しいです!」

 お互い手を取り合って喜んでいる。

 先生っていうことは、シルビアが昔ここで習っていたときの先生かな? そうすると、魔法使いか?

 防具の様子からも前衛系では無いことは分かる。

「もう何年ぶりかなぁ。あれからどうしてた?」

「ずーっとハンターを続けてたんですよ。王都とかロウエスとかで、パーティにも入ったりして」

 その答えを聞いた先生はなんだか喜んでいるようだ。


「そうなんだ。シルビアって優秀だったから辞めないで欲しいなーって思ってたのよ? 続けてくれていて嬉しいわー」

「ありがとうございます。えへへ」

「でもシルビアって見た感じ変わらないねー。昔のままね」

「はい。頭の中も含めて全然変わってないって自分でも思います。あはは」

「いつまでも若いっていいわねー。さすがエルフね」


 サリー先生が俺の方を見て少し会釈した。

「ところでこの彼は?」

「この人はアースって言って、私の大好きな人なんですよ」

 その言葉にサリー先生は少し驚いているようだ。

「へー、そうなんだ」

「アース、この人はサリー先生って言って、私の魔法の恩師なの」

 やっぱり魔法使いだったか。


 俺も軽く会釈する。

「初めましてサリー先生。アースといいます」

「初めましてアース君。先生と言ってもシルビアを教えていたのはもう何年も前の事なのよ。だからもう先生って言うのも可笑しいんだけどね」

「サリー先生はいつまでも私の先生です」

「お世辞でもそう言ってもらえると嬉しいけどね」

「ほんとにそう思ってるんですからね。ふふ」

 シルビアを見ていると、サリー先生をほんとに尊敬しているのがよく分かる。


「シルビアって昔に比べて雰囲気が変わったわね」

「え、そうですか?」

 サリー先生はにこやかにシルビアを見ている。

「ええ、元気になったっていうか、明るくなったっていうか、今のシルビアの方が素敵」

「ありがとうございます。きっとアースのおかげだと思います」

「そうなの? いい人見つけたわね」

「はいっ!」


 サリー先生は壁の時計を少し見てから再びシルビアへと目を戻す。

「シルビア、時間があるならその辺でお茶でも飲みながら話をしない?」

「はい、ぜひ!」

 続いて俺に顔を向けた。

「アース君もどうぞ?」

 え、俺もか。シルビアの過去には興味があるが、女性二人の会話には付いていけそうにない。

「あ、俺は遠慮しておきます。積もる話も有りそうだし、お二人でどうぞ」


「そう? なら悪いけどシルビアを少し借りるわね」

「どうぞどうぞ、ごゆっくり」

「アースごめんね。少しどっかで待っててね」

「ああ、少しじゃなくてもいいぞ。適当にその辺をぶらぶらしてるから」

「うん」





 シルビアを置いてどこかに行くわけにもいかないし、いきなり暇だ。

 暇つぶしに掲示板でも見てみることにした。

 人が多く掲示板の前はものすごい混雑状態だ。パーティ募集や低ランク用の魔物討伐依頼とかが一杯ある。

《FからDランクの討伐依頼がいろいろと揃っていますね。Cランクも少しあります》

 Fランク用の討伐依頼って本当に有ったんだな。今までの町とは大違いだ。


《Gランク用の討伐依頼まで有りますよ》

 マジかー。俺が行った薬草採取は何だったんだよ。

《大丈夫、薬草採取も有りますよ》

 いや別に薬草採取がしたい訳じゃないから。

 この町の周りには弱い魔物が多いってことか?

《その通りですね》

 ふーん。


 しかし、この混雑は酷いな。

《身分証に表示して見るのがいいのではないでしょうか?》

 ああ、そうかもな。

 それよりも、ルナが読み取った情報を目の前に表示して見た方がいいんじゃないか?

《でもそれだと、他人から見るとボーッとしてるように見えてしまいますよ?》

 それもそうだな。


 壁側に並んでいる椅子に移動して身分証が表示する情報を眺めることにした。

 Gランクの討伐対象はスタンラットか。写真を見るとハリネズミのようだ。説明によると動作は遅いが刺されると大人でも気絶することがあるらしい。気絶してしまうと当然の如く襲われるってことだ。


 Fランクの討伐対象はホーンラビット。額に丈夫な一本の角がある。突進してきて角で相手を仕留めるらしい。とにかく角に気をつけろとのこと。


 スタンラットやホーンラビットを実際に見てみたいな。

《この町の近くに多く生息しているようですよ》

 明日にでも探しに行ってみるか。



「おい、お前!」

 え? 大きな怒鳴り声がしたので顔を上げてみると、目の前に一人のハンターが立っていた。俺を睨んでいるようだ。ひよっこの割にはいい装備をしている。Cランクって言っても通りそうな感じだ。

「俺?」

「お前以外に誰がいるんだ! その椅子が誰のものか分かって座っているんだろうな?」


 ……


 男は睨みを効かせている。

「さっさと退きやがれ! そこは俺様が座るところだ」

 その男の周りに仲間だろうか数名のハンターがいる。さらにその周りは少し空間が空いていて、他のみんなは遠巻きにこちらの様子を見ているようだ。

 ああ、そういうことか。関わりたくないタイプだな。

「席が決まってるなんて知りませんでした。お返ししますのでどうぞ」

 そう言って俺は立ち上がり、椅子を手で指し示してみた。


「はぁ? どうぞって、それだけか?」

「え? ええ、俺は別の椅子に移動しますんで」

「寝ぼけてんのかお前? まさか俺様が誰だか知らねーのか?」

 なんか面倒くさくなってきたぞ。やばいな。

「ええ、申し訳無いですが」

 お山の大将、井の中の蛙ってことだけは分かったけど。


「ぷっ! おいお前ら聞いたか? 知らねーんだとよ。俺もバカにされたもんだな」

 仲間のハンターもニヤニヤしている。

「いえバカになんてしてませんって。気に触ったのなら謝ります。すみません」

「今更遅えんだよ」

「遅いって?」


「教えてやるから表に出ろ。この俺、ガレル様が直々に教えてやる。有り難く思え。わはは」

 あー、やっぱそう来るか。面倒だな。

《アースが席を間違えたのが運の尽きですね》

 席なんて知らねーし。名前でも書いといてくれよ。

《アースがもっと下手に出てれば良かったのかもしれませんね》

 えー、十分下手だったろ? これ以上どう下手に出ろって言うんだよ。


 すかさず仲間のハンターが俺の腕を掴み表に引きずりだそうとする。

 取り敢えず素直に従っておくか。

 それとも逃げるか。

《シルビアがまだですよ》

 そうだな。


 表に出たのはいいけど、何このギャラリー。なんか大事おおごとになってないか? 誰も止める気配もないし。

《止められる人がいないほど強いってことじゃないですか?》

 まあ、そうなんだろうな。

 それにしてもギルドの職員も止めないって有り?

《ハンター同士のイザコザにはギルドは介入しない決まりなんですよ》

 民事不介入って感じか。


 ガレルって奴は手をポキポキ鳴らしながら不敵な笑いを浮かべてこちらを見ている。

 なんて嫌な奴だ。

 どうするかなー、ちょっと相手してやれば気が済むかな?

《アースが地面に沈めば気が済むんじゃないでしょうか》

 やだよそんなの。


《シルビアの話が終わったようですよ。丁度ギルドの扉を出て来たところです》

 扉の辺りを見ると、シルビアが周りを見渡しているのが見えた。

 俺はシルビアに向かって一気に走りだす。

 ガレルとその仲間がなにやら叫んでいるようだが、振り向かずにシルビアに向かってスピードを上げる。


「シルビアー!」

「あ、アース。おまたせー」

「逃げるぞー!」

「えっ? な、なに?」

 俺はシルビアの手を取り、そのまま走る。

「アース、ちょ、ちょっと」

「いいから!」


《ガレル達が追って来てます》

 しつこいな。



 シルビアの足が思いの外遅く、なかなか引き離せない。

「シルビア、それで全力か?」

「ごめん。これ以上速く走れないわ」

 俺が引っ張っている分いつもより速く走れているはずなのに、スピードは一向に上がらない。

 体質的に息が上がる訳でもないのに、なぜか遅い。

 ガレル達も装備の重さからかそんなに速いわけじゃ無く、シルビアの走る遅さと相まってつかず離れずだ。


 角を曲がる。

《あ、そっちは》

「あ」

 袋小路になっていて行き止まりだった。



「ごめんねアース」

「まあ、問題は無いんだけどね」



「逃げ場がなくなったな。手間掛けさせやがって」

 ガレル達ははあはあと息を切らせている。

 こちらはシルビアの足が遅かっただけで息が上がっている訳ではない。シルビアも平然としている。


「しつこい奴は嫌われるぞ」

「ほう。追い詰められてもその生意気な口がきけるのか」


 ……


 生意気って、どっちがだよ。

「それにしてもいい女を連れているじゃねーか。お前みたいな腰抜けには勿体無いぜ。せいぜいいいとこ見せるんだな。わはは」



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