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29 精霊

 高さ300mとか、飛び降りるって無茶過ぎるだろ? 地面に激突した後の想像がつかない。

《重力操作機能を使ってどうにか出来ませんか?》

 お、その手が有ったか。



 重力無効で俺自身を包むことが出来ればゆっくり降りることが可能だ。

 だが、重力操作機能のレベル的に俺のサイズを包めるのかと言う問題も有る。試してみたところ、なんとかギリギリ包めるようだ。ただ、包の中にいる俺自身は重力無効となったが、包自体が重力の影響を受けているようだ。まあ、ほぼ無効ってことだ。


 そのまま飛び降りても良さそうなのだが、もうひとひねりしてみる。

 この状態で土操作機能を使って足を地面に吸着してみると…… うまくくっつくようだ。

 重力ほぼ無効の俺は、足で崖の側面を捉えながら断崖絶壁を走って一気に降りる。壁走りだ。



 降りきったところで、シルビアが待っていた。

 シルビアが、えーって顔を俺を見ている。

「アース、今、壁を走って降りてきたよね?」

「まあ、試してみたら出来たんだ。はは」

「なにそれ。でも凄いね」


「それより、シルビアの方はほんとに大丈夫だったのか?」

「うん、なんとも無いわ。地面に激突したのも背中からだったので全然平気だったし。背中からベッドに倒れ込んだ程度だったわよ」

 シルビアは背中から落ちることで、マントによって事なきを得たようだ。地面に激突した時のスピードは時速200kmは軽く出ていたと考えられるが。それがベッドに倒れ込んだ程度って、凄いなそのマント。


「キュイも無事だったようだな」

 キュイを見ると何か楽しかったようで尻尾を振って喜んでいる。

「うん。キュイって私の身代わりに攻撃を受けてくれたのよね。キュイありがとう」

 シルビアがそう言いながらキュイを撫でると、キュイの尻尾の振りが勢いを増した。


「キュイ、お手柄だったな。ついでに俺も守ってくれよ」

 キュイは、へっ?見たいな顔をしている。

 へっ?じゃないんだよ、へっ?じゃ。

「それにね、落下中キュイを抱っこしてたので怖さはあまり感じなかったのよ。キュイが居てくれただけで安心感があったわ」

「そうか……」

 キュイめ、いいとこ持って行きやがったな。



「しかし、何に襲われたんだ? 俺たち」

「分からないわ」

《私も分かりません》

「ちゃんと見えていたのはキュイだけか」

《見えていた訳じゃなさそうですよ。匂いとか気配とかを感じ取って戦っていたようですね》

「気配か、それはそれで凄いな。あれがゴーストなんだろうか。しかし、見えないし、ソナーでも探知できない敵か、厄介だな」



 これで崖下に降りた訳だが、図らずもショートカットできたって事だ。

 ゴーストが住む森は通らなかったが、さっきのがゴーストだとすると、あのまま森に入っていたら俺達はどうなっていたのか想像もできない。大丈夫と高を括っていたけどちょっと迂闊だったか。

 今となっては、崖から落としてくれてラッキーだったとも言える。





 気を取り直して次の目的地に向かって進む。そこから先はゴーストに襲われることは無かった。ゴーストの住処から離れたということなんだろう。

「ゴースト対策は必要だろうな。見えない敵とどうやって戦えばいいのか。見えない敵を如何に見るかと言うべきか」

《キュイに教わらないといけませんね》


 確かにそうかもしれない。

「どうやって察知してるんだ? キュイ」

 ちらっと俺を見ただけで答えてくれるはずも無く、キュイは相変わらずのマイペースで歩みを進めている。

 そんなキュイをシルビアはにこやかに見つめている。

「でも、キュイが分かるなら少し安心ね」

 その言葉を聞いたからかどうかは分からないが、キュイはシルビアに寄り添うように側を歩き出した。

 戦う術を見つけて必ずリベンジしてやるぞ。



     §



 

 ん? なんだ? 目の前になんか小さい奴が飛んでいる。

 そいつがシルビアに声を掛けた。

『おーい、シルビアー!』

 ルナよりは大きく、50cmぐらいだろうか。姿形は人間のようで、赤い服に赤い髪をしている。

『シルビアーってばー』

 名前を呼んでいるってことはシルビアの知り合いか?

『シルビアー、無視すんなよーっ!』


 なぜかシルビアはすまし顔で無視しているようだ。聞こえてない?

「シルビア?」

「え、なに?」


「あれ? 見えるのは俺だけ? もしかしてルナの映像か?」

《いえ、映像ではありません。精霊だと思います》

「ほー、あれが精霊か。初めて見たな」


 シルビアが驚いたように俺を見た。

「えっ…… アース、もしかして精霊が見えるの?」

「ん? ああ、なんか精霊がいるんだよ? そいつ、さっきからシルビアのこと呼んでるんだけどシルビアには見えないのか?」

「ほんとに? 見えるの私だけじゃ無かったんだ。良かったー。もうアース大好き!」


「ん? やっぱりシルビアにも見えているのか? というか普通の人は見えないってことか?」

「私以外には誰にも見えないらしいのよ。声も聞こえないらしいし、アースにも当然見えてないって思ってたから呼ばれても返事もできなかったわ」

「ああ、見えてなければ独り言になるし、確かにそれは変か。というか、俺達がルナと声を出して喋ってるのもいっしょか」


「ごめんね精霊さん。えっと、名前はジオだったわよね」

『シルビア、ひどいぞ』

「だからごめんって」

『そいつは誰だ?』

「アースって言うの」

『アース? アースか。アースだな。んーと…… 知らん』

「なによそれ」


 キュイも珍しそうに精霊を見ている。キュイにも見えているようだ。


「しかし、精霊って言われてもいまいち分からないんだよな」

 精霊はギロッと俺を睨みつけた。

『おまえ、んーと、アースって言ったな。精霊を知らないのか? アース』

 口が悪い奴だな。精霊全般的に口が悪いのかこいつだけが口が悪いのかは分からないが、こいつだけなんだろうと言う事にしておこう。

「ああ、全く知らない」

『こりゃぶったまげた。聞いて驚くなよ? 俺は火の精霊だ』

「へー」

『へーって、もっと驚けよ』

「え、驚くなって言わなかったっけ?」

『驚けって意味だよっ!』

 なにやらふくれっ面だな



『まあ、それはそうと。シルビア、精霊の里に来る気になったか?』

「会うたびにそればっかり言ってるわね。行かないっていつも断っているはずだけど?」

『もう時間が無いんだ。今回こそは来てもらうぞ』

「なんで行かないとダメなの? 何の時間が無いの?」

『…… その辺は俺も知らない。だけど連れてこいって長老が煩いんだよ。来て貰わないと俺が怒られるんだよ』


「んー、そうねー。アースとキュイも一緒でいいのなら行ってもいいけど?」

『え! ほんとか?』

 ジオの顔がぱーっと明るくなったのが分かる。

「あ、アースもそれでいい?」


 なんか話しが良く分からないが、知らないとこに行くのは面白そうだ。

「ああ、問題ないぞ。でも俺も行っていいのか?」

『まあ、ここで会ったのも何かの縁だ。精霊の里に招待してやろう』

 ジオは何やら浮かれ気分のようだ。シルビアが来てくれるのがそんなに嬉しいのか。

 なんか人間くさい奴だ。精霊って言ったらなんか神聖なイメージがあったんだけど。


「精霊の里って誰でも気軽に行けるとこなのか?」

『そんな訳は無い。選ばれた者だけだ』

「ほー」

 その割には簡単に招待してくれるのか。シルビアはともかく、俺もいつの間にか選ばれた者になったってことだろうか。

『ほーって、もっと感動しろよ』

「感動するなって言わなかったっけ?」

『言ってねーし!』





 案内されるまま付いて行くと、森の中を進み少し開けた場所で止まる。周りには何もない所だったが、ジオが何やら呟くと目の前にゲートが開いた。

「今、どうやった?」

 ジオは勝ち誇った顔をしている。

『ふふん。驚いたか』

「まあ、ちょっとな」

『そうかそうか、驚いたか。だろうな』

 ご機嫌のようだ。


 ゲートを通ると、そこは建物の中だった。精霊達のゲートハウスなのだろうか、このゲートハウスには扉などは無く開放的だ。

「ここはもう精霊の里だ」

 そう言うジオを見ると、俺達とほぼ同じサイズになっていて、地に足をついて立っている。

 それが本来の姿で、里では元の姿に戻るのだという。喋る時も念話を使わずに俺たちと話すことができるようだ。


 建物の外へ出てみると、小さな草原で、初めて招かれた者の専用の場所だという。

 これまでも精霊が見える者を招いたことがあるらしいが、そう滅多におらず700年ぶりだという。


『ルナ、この場所がどの辺りか分かるか?』

《特定出来ません。元居た所とは別の空間に属しているものと推測します》

『ふむ』



 暫くすると初老の男がやって来た。

「ようこそ精霊の里へ。ジオもご苦労だった」

「はい、ようやく連れて来れましたよ、長老」

 ジオが長老と呼んでいることから、シルビアを連れてくるように指示を出した張本人のようだ。


「招待して頂いたものの我々はその理由を聞いておりません」

 長老は一つ頷いた。

「交流を深めるためだと言いたいところだが、まあなんだ、シルビアを救ってやろうと思ってな」

「え? 私を?」

「シルビアを救う? いったいどういうことでしょうか?」


「まあ、そうだな…… 何から話すべきか」

 そう言うと長老はシルビアを見てから、なぜか遠い目をした。


 長老は改めてシルビアを見る。

「シルビアは魔法を使えるな?」

「ええ、使えるわよ」

「我々も使える」

「へー、そうなの? みんな使えるの?」

「そうだ。我々は全員使える。それもエルフが使うような緩いもんじゃない」

「強力なの? 凄いわね」


「ああ、強力だ。しかも、我々の魔法は魔力を使った魔法では無い。知らないとは思うが、我々が使う魔法はエナと言う力を使った魔法になる」

「エナ?!」

 それを聞いたシルビアが驚いたのはもちろんだが、俺も驚いた。他人からエナって言葉を聞いたのは初めてのことだ。

 シルビアと俺が驚いた顔をしたのが分かったようで、長老は少しニヤリとして話しを続ける。

「まあ、知らないのも無理は無い。エルフや人間には無縁の力だからな」

「え、そうなの?」

 ほう、そうなのか。

「ああ。しかしエルフには稀にエナを定着させることができる者が生まれてくる。ただ、エナの存在を認識することはできず使いこなすこともできない。使いこなせれば有益なものであるが、使いこなせない場合はただただ命を脅かすだけのものでもある」


 少し間を置いて長老は言葉を続ける。

「ここまで言えば分かったかもしれないが、シルビアもエナを定着させることのできる体質だ。だが、今のままでは良くて20年、悪ければ数年で体が動かなくなり、その後は死を待つだけの身となる」

 シルビアは少し驚いた顔をしている。

「最近、体のキレが悪くなっているんじゃないか? 走るのが遅くなっていたり、体の動きが他人よりも明らかに遅いとか」


 シルビアは少し考え込んでから返事を口にする。

「確かに、そんな感じだったわね」

「精霊の中に極少数だが体内のエナを見通せるものが居るのだが、8年ほど前、エナを蓄積しているエルフがいることをその者が偶然発見した。お前さんのことだな。それからは、シルビアをなんとかここへ連れて来るよう他の精霊にも通達していたのだが、何回声をかけても断り続けられて今に至っている訳だ。今回、ようやくそれが叶ったという事だ」

「ふーん」


「まあ、そんなに心配しなくて良い。シルビアがエナを使いこなせるように我々が力を貸してやろう。我々に発見されてシルビアは運が良かったってことだ」

「だけど私は――」

「まあ、黙って最後まで聞きなさい。慌てることは無い」

「違うって――」

「だから黙って聞けと言っている」

 そう言って話しを続ける。

 シルビアは少し不満げにしたが、黙って聞くことにしたようだ。




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