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28 ゴースト

 これまでの町と異なるのは、当然のことながら住民にエルフが圧倒的に多いと言うことだ。

 周りのエルフを見ていると、みんな髪は金か銀だ。それに若者ばかりに見えるが、これは種族特有の体質で歳をとっても見た目がほとんど変わらないことからきているようで、実際の年齢は予想すらできない。


 エルフの生活は人間とそう変わらないが、生活魔法のレベルが高いらしい。

《一般的に魔力量が他の種族よりも多いのが理由でしょうね》

「なるほどな」

「あとね、魔法屋さんなんかも有るわよ?」

「魔法屋?」


「魔道具の他に、魔法陣とか、魔法陣を作る時の材料なんかを売ってるのよ」

「魔法陣の材料?」

「うん、そうよ。簡単なものだったら私も作れるよ」

「面白そうだな。作って見せてくれるか?」

「うん。じぁあ、材料買いにいこうか」

 そう言って、近くの魔法屋とやらにに入る。


 魔法陣を作る時の材料とは、魔力を溜め込める粘度の高い液体で、一般的には特定の木の樹液を指すらしい。その樹液に魔力を込めながら魔法陣を描くと完成となり、それに魔力を追加で流し込むと追加した分だけ発動するとのこと。

 樹液と紙と筆を購入し店を出た。


「一番簡単なのは風ね」

 シルビアは紙に魔法陣を描き始めた。簡単と言いながらも時間をかけて集中して描いている。

「出来たよ」

 見るとただの三角形だ…… 大きさも手に描けるほどで、しかも微妙に歪んでる。まあ、魔力を込めながらってのが難しいのだろう。


 魔力を流してもらうと、三角形から微風が出てきた。

「おおー、凄い!」

「あー、上手く出来たー」

 30秒ぐらいすると風が止まった。

「こんな感じね。魔力を追加するとまた動くわよ」

 そう言いながら、シルビアが三角形を少し触ると再び三角形から微風が出てきた。


 重ね描きすると、重ねた分だけ威力が増すらしいが、失敗する可能性も高くなると言う。

 また、描くときに魔力を込めすぎると、描き終わると同時に発動してしまい、込めた魔力が無くなるまで最大出力で動き続けることになるという。追加魔力も受け付けないため道具としては使えないという。


 俺は魔力が使えないので教わることは出来ないが、魔法陣を作るところを初めて見れてちょっと得した気分だ。



 ギルドも存在する。ルーン大陸のギルドと同じ組織であり身分証もそのまま使える。建屋もそっくりそのままだ。まあ、運営はほぼエルフだけで行われているようだが。


 武器屋なども普通にある。

 並んでいる武器を見てみると弓が幅を利かせている事がわかる。

 シルビアが言うには、国境が近いためかお土産用の粗悪な弓が多いらしい。

 エルフの武器といえば弓っていうイメージがあったが、そのイメージは間違っていなかったようでシルビアに限らず子供の頃に練習させられるそうだ。



 町を歩いていると弓の練習場を見つけた。持ち込み弓での練習以外に、貸し弓での無料体験も可能とのこと。

「やってみたいな」

「じぁあ、入ってみましょ」

 建屋に入ると受付に男性のエルフが一人座っていた。そこで受付を済ませると練習用の弓を借りることができた。

「初めてですか? 必要なら少し指導しますよ?」


 シルビアに教わればいいので断ろうかと思ったのだが、シルビアの考えは逆のようだ。

「教えて貰った方がいいよ? 私の弓術は古いかもしれないし、教えるのもたぶん下手だと思う」

 受付の男性は俺からの返答を待っている。

「じゃあ、指導をお願いします」

「はい。では指導員を呼びますので少々お待ちください」


 待っている間に、弓の良し悪しをシルビアに見てもらったところ、Eランクハンターが持つレベルで悪くはないという。


「お待たせしました」

 振り返ると少し小柄のエルフの女性が立っていた。指導員のようだ。

「よろしくお願いします」

 案内に従い移動した先は練習用スペースらしく、数人が今も練習の真っ最中だ。その端っこにある初心者向けのスペースを使わせて貰えるらしい。15m程先に丸い的があるが、どうもここだけ的が近くなっていて、他を見ると倍ほどの距離がある。

「では、最初に弓の持ち方から覚えてくださいね」



 弓の持ち方に続き、足の向き。構え。引き方。狙い方。射方。など丁寧に教えてもらう。

「実際に射てみましょう。まずは構えてください」

 教わった通りに構えると、肘の向きや弓の角度など色々と直される。

「それでは矢を放ってください」

 静かに放つと、矢は的に向かって飛んで行き、丸い的の端っこに見事命中した。

 シルビアは、わーっと笑顔で小さく拍手している。


 指導を受けながら10本打ち終わると、指導は終了。あとは自由に射つように言われ女性は去っていった。


 今更だが、弓術入門をロードする。

 足の位置を決め、構えてゆっくり引く。じっくり的を狙い、矢を放つ。

 先程よりも少し中心寄りに当たった。

 それから数本射ると、中心は無理だがそれに近いところに矢が刺さる。

 当たるようになると、結構面白い。


 試しにシルビアに弓を渡してやってみてもらう。

 ほとんど構えずに、矢をセットして引いたと思った瞬間には放った。早撃ち? しかも、的の真ん中に命中している。連続して数本放つが全て真ん中を捉える。とにかく矢を手に取ってから放つまでが早い。1秒も掛かって無いだろう。5本射っても5秒掛からないって、いったいどうやって狙っているんだ?

 シルビアの腕は相当で、入門編をマスターした程度では全く歯が立たない事が分かった。





 数日のみの滞在で少し早い気がするが町を後にする。

「シルビア、歩きでいいか? サハナ村に着くのは遅くなるけど、せっかくのエルフ大陸だし色々と見ながらゆっくり行こう」

「ええ、いいわよ。私もエルフ大陸をゆっくり歩いたことがないし、なんだか楽しそう」


 町を出るときに門番に歩いて行くと言ったら神妙な顔つきをされた。

「歩いて行くのか…… それはやめといた方がいいな」

「え、何故ですか?」

「歩いて隣の村に行くには、ここから見える林とその向こうにある森を抜ける必要があるんだが、そこには危険な魔物が出没するらしいぞ」


「危険な魔物?」

「ああ、ゴーストだ」

「ゴースト? シルビア、知ってるか?」

「聞いたことがあるわね。なんか神出鬼没で、見たら死ぬって」

「ほう。それは穏やかじゃ無いな」


 門番が言うには、実際にはその魔物を見た者はいないという。ゴースト退治に出かけてゴーストの情報を持って帰って来た者はいないということらしい。ただ、戻って来ない方が圧倒的に多いと言う。

 つまり、ゴーストに出会わなければ無事に帰って来られるが、ゴーストに出会った場合は命を落とすため帰って来れない。そんな噂が広まるにつれて討伐に出る者もいなくなり、もう何十年もそこを通った者はいないらしい。


 しかし、見たら死ぬって、そこまで強い魔物が本当にいるのだろうか?

 どんな強者も絶対に逃げられないほどに一瞬で戦闘不能にできると言ったら、魔力流失マジックドレイン攻撃ぐらいか。その可能性が高いな。

 もしそうであれば俺たちは大丈夫そうだ。俺達は魔力を奪われても何ら問題なく戦闘が継続可能だ。



 林はそんなに木は密集しておらず、日の光が射して明るく、地面も適度に固く歩きやすい。最初こそ警戒したものの、ソナーで確認しても何の魔物もいないため、警戒する必要が無いと分かりどんどん進んで行った。

 大小様々な花なども咲いていて、シルビアも飽きることなく歩いている。

 キュイは例によってあっちへ行ったりこっちへ行ったりと好奇心旺盛だ。


 林を抜けると、今度は崖に沿って幅5mほどの広い獣道のようなものが続いている。元は人が整備したのであろう道だが、何十年も放置していたことで獣道のような様相となっている。

《この先、崖沿いにこの道を進んで行くと森の入口があります。その森の中を下りながら進み、森を抜けたところがこの崖の下になりますね》


「逆に言うと、この崖を降りると早いってことか」

 崖の下を覗いてみるが、垂直の断崖絶壁でかなりの高さだ。

《崖の下までは300mほどありますね》

 ここを降りるのはちょっと無理だな。


 森の入口が見えた頃、キュイが立ち止まり鼻をひくひくさせて警戒しだした。

「どうしたキュイ」

《何か感じ取ったようですね。敵だと感じているようです》

「ゴーストか? ルナはどうだ? ソナーに何か映っていないか?」

《特にありません》

 ソナーに映って無いということは心配する必要は無さそうか。


 そう思うもつかの間、キュイが機敏な動きで何かを避けた。

「キュイ!」

 キュイを見ると身構えており、明らかに戦闘態勢だ。

 またもやキュイが機敏な動きで何かを避ける。

 そこから一転、キュイが何も無い空中に向かって飛びかかる。が、何かに弾かれ大きく後退する。

「え?」

 体を反転させて着地した後、またもや飛びかかる。

 見えないが何かと戦っている。


「ルナ、なんだ?」

《分かりません。そこには何も無いとしか言えません》

「何も無い? いや、しかし現に俺たちの目の前でキュイが戦っている」

 キュイが回避行動後、何も無い空間に向かって爪を立てて襲いかかる。爪で何かを捉えたのだろうガキッという音が響き渡り、大きく弾かれる。

「やっぱり何かいる! シルビアも警戒しろ!」

「ええ」


 キュイが戦っている中、俺はその何かの一撃を喰らい崖とは反対側にふっ飛ばされた。

 なっ!

「ルナ、見えたか?」

《見えません》

 どう言う事だ?


 キュイは一転シルビアの前に勢い良く飛び出した。その瞬間、その何かの一撃がキュイを直撃した。キュイは崖方向に吹っ飛ばれそのすぐ後ろのシルビアもろとも崖の下へ落下していく。

「きゃーー!」

「シルビアー!」


 俺はシルビアとキュイを追って崖の下へ向かおうとするが、その何かの攻撃でさらに遠くにふっ飛ばされる。

「くそっ! ルナ、どうだ?」

《全く見えません。攻撃を受けた時の衝撃波が一瞬分かる程度です》

 そう言っている内に次の一撃を受け、またもやふっ飛ばされる。

「シルビアは?!」

《大丈夫です。無傷で既に崖の下に到着しています》

「キュイは?!」

《キュイも大丈夫です。自動修復によって問題はありません》


 そうか、取り敢えず安心した。


 その後も何回も襲われているが、どこから攻撃が来るのか全く予想ができない。衝撃波が分かった時には既に吹っ飛んでいるのだから防御のしようが無く、耐える以外に術は無い。

 相手の攻撃は打撃のみのようだが、その衝撃はかなり重い。一般の人間なら即死レベル、高ランクのハンターでも直撃を数発食らうとアウトだろう。自動修復のある俺だからなんとか耐えているが、永久に耐えられる訳ではない。


 シルビアは攻撃されて無いだろうか。

『シルビア、大丈夫か?』

『うん、平気。キュイも大丈夫みたい。アースはどう?』

『まだ攻撃を食らっている』

『え、大丈夫なの?』

『ああ、問題無い。問題は無いが、まだ少し掛かりそうだ。そこで待っていてくれ』

『うん分かった』


 そんなやり取りをしている間も攻撃を受け続けていた。顔面なんかも容赦なく狙ってくる。自動修復によりその都度瞬時に再生されているが、その分エナが少しずつ減ってきている。

 しかも敵は一体では無く数体いる感じだ。そこまで分かっていても敵の姿が見えないのでどうすることも出来ない。俺をサッカーボールかなんかと勘違いしてるんじゃないか、と思えるくらいヤラれたい放題だ。


 ひたすら耐えていると、攻撃はパタリと止まった。

 俺を倒せないと判断したのだろうか? それとも魔力切れだろうか?


 ようやくシルビアを追える。そう思い崖の下を覗くが、やっぱり高い。壁にもほとんど凸凹は無く、降りれるとは思えない。

 飛び降りるしか手は無さそうだ。



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