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27 エルフ大陸

 翌朝、そのBランクハンターが目を覚ましたようで、お礼を言いに俺たちの前に現れた。

「命を救って頂きましてありがとう御座いました。しかも腕まで治して頂きまして感謝してもしきれません。聖女様、本当に有難うございました。ただ、お支払できるお金が無く、お礼を言うことしかできません」


「ついでに左足も治す?」

「え?」

「その左足」

「な、治るんですか? 治して頂けるんですか?」

「ええ問題ないわよ。ほんとは昨日の内に治そうかとも思ったんだけど、聞いてからじゃないとダメかなと思ってね」



 左足の義足を取る。かなり前に切断したとのことで、切断口は完全に塞がっている。

 切断口にシルビアが両手を当ててヒールを掛け始めた。


「アース、塞がっている切断口を切り落として」

 俺はナイフを取り出し、スパッと切り落とす。その間もヒールは継続している。ヒールを継続しているため流血は無い。

 男が自分の足を見ている中、足がどんどん再生して行く。ついには足の指の先まで綺麗に再生が終わった。

「はい、終わり」


 ……


「筋肉が付くまで暫くは歩くトレーニングをしてね」

 男は自分の足を見ている。足が動くのを、足の指が動くのを確かめるように。

「これでまたハンターとしてやっていける。村の助けになれる。聖女様、なんと感謝すればいいか、この御恩をどうやって返せばいいのか分かりません」

「そんな、別に構わないわ」





 聖女の噂を耳にした村人がシルビアの前に行列をなしている。病気や怪我をした人の行列であるが、まあ、重症者は居ないので、シルビアはパパッとさばいていく。


 その様子をヒーラーの娘が呆然と見ていた。

「シルビアさん、よく魔力が持ちますね。凄すぎです。本当に聖女様だったのですね」

 いや、違うと思うぞ。



     §



 今、俺達は朝日を浴びながら、森の奥を目指してを進んでいる。

 俺達の前には村の精鋭7名が歩いている。前衛は剣士4名、後衛はヒーラー3名の構成だと言う。ヒーラーの内2名が探査が出来るとのこと。


 昨夜、Bランクハンターの様子を見に来たそのパーティーメンバー達に、退治しようとした魔物のことを聞いてみた。

 聞くと、B級魔物のキラータイガーとのことで、ここらではほぼ見ることは無い魔物だという。

 通常、森を歩いて2日ほどのかなり奥深くまで行かなければ出会わないらしいが、今回は歩いて3時間ほどのところだったと言う。

 その時は、キラータイガー1体とほとんど出合い頭の戦闘となり、防戦一方の中、もう駄目かというところで二体目が現れ、その二体がいがみ合っているスキになんとか逃げだせたという。


 何れにせよ、ここまで近くにキラータイガーが2体も現れた事実は、今後の村への被害を考えると早急な討伐が必要だとのことだった。


 そこで、俺達が加勢する話になった訳だ。




 暫く進むと、ルナから情報が入る。

《キラータイガー2体まであと300mです》

 精鋭達からの発見の連絡がまだ無いことから、探査範囲はそれほど広くないことが分かる。


《キラータイガー2体まであと150mです》

 精鋭達からの連絡はまだ無い。

 150mというのはハンター犬でも感知できる距離になる。森の中では密集する木々が探査可能範囲に影響するのは事実であるが、相手がゴブリン程度ならいざ知らずキラータイガー相手にこの距離を探査出来ないのはかなり危険と言える。当時、出合い頭での戦闘になったのは探索範囲の狭さも要因の一つなのだろう。


 業を煮やしたシルビアが声を掛ける。

「ちょっと止まって」

 進行を止めた一行は一斉に振り向きシルビアを見る。

「どうされました?」

「キラータイガーはもう目の前よ」


 シルビアの指示で少し進むと遠くにキラータイガーを見ることが出来た。そこにはいがみ合うように2体が居た。

 精鋭の一人が呟く。

「2体か…… これは絶対無理だ」

 他の者も同じ意見らしく大きく頷いた後、俺達に顔を向ける。

「2体は無理です。ここは一旦出直しましょう」


 その言葉にシルビアが口を開く。

「私が出るわ」

 精鋭達はその意味が理解出来なかったようで一瞬固まった。

「え? 聖女様がお一人でという意味でしょうか?」

「うん」


 ……


「それはさすがに――」

「キラータイガーぐらい訳ないわ」


「1体では無く、2体なのですよ?」

 シルビアは少し微笑むと、そのままキラータイガーに向かって走り出した。

 精鋭達は、口をパクパクしながらシルビアの後ろ姿を目で追っている。


 いがみ合っていた2体は、シルビアを視界に捉えると標的をシルビアに切り替えたようだ。


 2体のキラータイガーが、シルビアに襲いかかる。

 精鋭達が青い顔をしながら見守る中、シルビアは舞うような動きであっという間に二体を沈めた。

 シルビアがこちらに向かって手を振っているのを見て、精鋭達は俺とキュイと共に走り寄る。


「聖女様……」

 精鋭達は横たわるキラータイガー2体を呆然と見つめている。

 シルビアは精鋭達に回収するよう指示する。

「私達の取り分は要らないから、全部あなた達で分けてね」

 キラータイガーを見ると、毛皮を傷付けないように配慮しながら綺麗に仕留めてあるのが分かった。



 村へ戻る道中も、村へ戻ってからも聖女様の話題で持ちきりだ。

 今回は、俺の出番は全く無しだった。ただ、応援していただけ。護衛にも見えない俺は皆には何者に映っていたのだろうか。やっぱ、助手かな。



 村を後にし、その後は大した事件もなくエルフ大陸へと足を進めて行った。



     §



 国境の町に到着。

 国境と言うぐらいなので殺伐とした雰囲気かと思っていたが、意外にもお祭りのような光景で、しかも綺麗な町で広さもそれなりにある。地図を見てみると、国境がメインなのは間違い無さそうであるが、それだけでなく普通に町としても機能しているようだ。ただ、国境付近だけは色とりどりの店が密集していてかなりの賑わいになっている。

 出国する人は多そうだが、エルフ大陸から来たであろうエルフの姿も目立っている。

 

 などと考えていると、シルビアが一人の男に声を掛けられている。

「お嬢さん、エルフ大陸からでしょ? 観光? ガイドを用意しましょうか?」

 エルフ大陸からの観光客を相手に商売を行っているようだ。

「いらないわ。私はこれからエルフ大陸に戻るとこなんだもの」

「なんだ、そうか。じゃあ、またね」

 その男はシルビアから離れたかと思うと、すぐさま別のエルフに声を掛けている。


「ここではいつも同じように声を掛けられるの、ちょっと煩わしいわね」

「フードを被っとけばいいんじゃないか?」

「そうね。そうするわ」



 エルフ大陸との間には海があり、そこに架かっている長大な橋を渡る必要がある。橋の長さは約31km。

 ゲートもあるらしいが、一般人は使用することが出来ないらしい。

 とにかく橋を渡ろう。ここで足踏みする理由は無い。

「橋は歩いて渡るのか?」

「まさか! シャトルバスが出ているわよ。あとは、個人のヴィークやマイクロバスとかでも普通に通れるわね。まあ、中には歩いて渡るチャレンジャーもいるらしいけど」


 出国は簡単だ。町の門を出るのと大差無く、身分証をかざすだけだった。出国門を出た後、俺達はそこに待機しているシャトルバスへと乗り込み発車を待つ。

「初めてフィンプラスの国外に出たな」

 シルビアがキョトンとしている。

「初めてじゃないわよ」

「シルビアはそうかもしれないが、俺は初めてだよ」

「ふふ、知らなかったのね。履歴を見ればわかるから」

 最新の履歴にはフィンプラスから出国と書き込まれている。

 その前に町や村の入出履歴が並んでいるが、それらに混じって確かに出国や入国の文字もある。

 なるほど、最前線基地から出たり入ったりも出国と入国になっていたようだ。他にもロウエスも同じようだ。


 時間になったのかいくつかの席が空席のままバスが動き出した。橋の先にはエルフ大陸が薄っすらと見えている。



     §



 バスが到着したのは数台のバスが停められる程度の広さを持つ停留所だ。ここはもうエルフ大陸だ。

 停留所の向こう側には大きく広さの有る建屋が建っていおり、バスを降りた人達はすぐ近くにある入口を通って建屋に入って行く。

 建屋は透明な壁が使われているため、中の様子はバスからも問題無く視認できる。


 さながら空港のロビーと言った感じで、多くの人で賑わっている。

 俺たちもバスを降り、流れに沿って入口に向かう。

 入口の前には衛兵らしきエルフが2名いるが、特に何のチェックも行っていないようだ。この入口を通るのに資格などは不要ということだろう。トラブルが無い限りはその衛兵の出番は無いということか。

 建屋に入るとエルフ大陸側の国境が待っている。

 ここはまだエルフの国に入った訳では無いが、後は国境の門を通るだけだ。


 一応入国審査が有るらしいが、犯罪者とかで無ければ審査に引っかかることは無いらしい。ただ、エルフ大陸はその昔閉鎖的だったこともあり、その名残で検問に時間を掛ける嫌いがある。特に、初めて入国する者には時間をかけるようだ。そのため検問所の前には長い行列ができているが、そのほとんどは観光客や商人だと言う。



 俺達も検問の順番待ち行列に並ぶ。

「2時間待ちだってよ」

「うん。すごい人よね。エルフの国にみんな何しにくるのかしらね」

 ほんとに何しに来てるんだか。何かのアトラクションと間違えて並んでるんじゃないのか?

 本来、シルビアはエルフ専用のガラ空きの入国門から入れるのだが、俺に付き合ってこうして一緒に並んでいる。



 並んでいる間は何もすることが無く、シルビアとただ喋っていただけだがそれもようやく終わりを迎える。

 検問所では衛兵らしき数名のエルフが睨みを効かせている。犯罪者への対策だろう。


 そんな事を考えてると更に睨まれたので、慌てて石版に身分証をかざした。


 検問所の審査官が俺をじっと見ながらエルフ大陸に入る目的を聞いてくる。

 サハナ村に行くと答えると、さらにその理由を聞かれたので、シルビアの実家に行くと答えた。シルビアの実家はサハナ村というところにあると聞いている。


 隣に居るシルビアの連れだと理解してくれたようで、審査官はシルビアを少し見た後、再度身分証をかざすよう促した。思っていたよりも意外とあっさりだった。

 まあ、シルビアが居なかったらもっと時間が掛かったのだろうと思う。


 検問所の先にある入国門を通り、ついにエルフの国に入った。

 身分証の履歴を確認すると入国の文字があった。



 門の先は一つの町で、ここも国境の町と呼ばれているようだ。ゲートハウスも当然のように有り、いくつかのゲートも有るらしい。

 既に、この町の地図とエルフ大陸の地図を購入している。

 購入といってもルナがポタメにダウンロードしたものだ。エルフ大陸の地図が目の前に表示され、その地図には主要な町など大きめの村が記載されている。ズームしていくとこの町の地図が映し出された。

「意外と大きな町だな」


「ねえアース? そう言えば、なんでエルフ大陸に来ようと思ったの?」

「ああ、言ってなかったか。理由って程じゃ無いんだけど、エルフ大陸に俺の製作者が居るんじゃないかと思ってな」

「え、そうなの?」

「ほら、俺ってクォーターエルフだろ? 耳も少しエルフ耳だし。まあ、設定だけどな。でも、わざわざそう言う設定がされているってことは、それがヒントなんじゃないかと思ってね。思い過ごしかもしれないけどな」

「エルフ耳が謎解きの鍵ってことね。面白いわね」

「だから、このエルフ大陸では製作者を探してエルフの村を渡り歩こうと思っている。と言っても、見つかればラッキーかなっていうぐらいの感じなんだけどね」


 少し歩くと国境の雰囲気も薄れ、町並みもフィンプラスの一般的な町に近いものへと変わっていったが、人はそれなりに多く大きめの町であることを伺わせる。

「国境から離れても結構な賑わいだな」

「そうよね。入国したほとんどの人がこの町で何泊かするらしいから、それも関係しているのかもね」

 それに習って、俺達も数泊してみることにした。



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