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21 キュイ2

 暫くするとキュイはすくっと立ち上がり、よたよたと歩き出した。向かう先は他の仔犬が集まっている所だ。

 俺達もキュイの後を追い、他の仔犬の輪に入るのを見届けた後、仔犬達の飼い主と世間話をしながらキュイを見守ることにした。


 で、今は他の仔犬に混ざってじゃれあっている。動作は他の仔犬と遜色ない。

 他の仔犬と同じく小さく吠えたりもしてる。

 スライムの順応性、恐るべし。まあ、AIのサポートがうまく機能しているのも有るのだろうけど。



 散々遊んだためか、部屋に帰るとキュイはベッドの上でグーグー寝始めた。

 俺と違い、寝る必要があるのだろう。

 寝ている時にピクピク動いたりしているので夢を見ることもできるようだ。

 なんか羨ましい。



 次の日、またもや公園に来てみた。

 シルビアはすっかりキュイが気に入ったようで、芝生に寝転がってじゃれ合っている。美人と仔犬、なんとも絵になる組み合わせだ。

 キュイの運動性能はどんな感じだろうか。昨日、他の仔犬と遊んでいるのを見た限りでは悪そうには見えなかったが。


 シルビアは、両手でキュイを持ち上げながら話しかけている。

「じぁあ、次はボールを投げて拾ってくる遊びでもしてみようか?」

 俺が即席で作った黄色いボールをシルビアに渡す。柔らか目で軽く、あまり遠くまで投げられない作りだ。


 シルビアは楽しそうな笑みを浮かべてボールをキュイに見せている。

「キュイ、これを投げるから取って来るのよ? いくわよー」

 そう言ってボールを近くに投げた後、シルビア自らがそのボールを追って走って行く。

「ほら、こっちよー」

 キュイもシルビアの後を追うように走る。走る様はまさに仔犬で、力が制限されているからかスピードは出ない。


 シルビアが拾ってもう一度投げる。

「キュイ、がんばれー」

 今度はキュイだけがボールを追い掛け走る。

 キュイはボールを加えてシルビアの所に戻って来た。もう遊び方が分かったようだ。かなり賢いようだ。

「やーん、キュイって賢ーい」

 ボールを拾ってきたキュイをシルビアが褒めながらなんかもみくちゃにしているが、キュイも喜んでいるようだ。


 少し山なりに投げると、キュイはそれを目で追い、地面に落ちる前にキャッチしようとするが、口や顔に跳ね返ってうまく捕れないようだ。

 そんなことを飽きること無くキャーキャー言いながら延々と繰り返している。

 キュイの体力に限界は無く、体も丈夫なようだ。コケようが転がろうが平気だし、例え怪我をしても自動修復もある。


 シルビアと遊んでいない時でも、公園内を楽しそうに駆け回っている。走るだけでも楽しいようだ。

 他にも土を掘ったり、草を噛んでみたりと好奇心は尽きないようだ。

 キュイが召喚されてからどの程度生きてきたかは不明だが、スライムから一転、自由に動けるようになり、見る物、聞く物が初めだらけで、思考することをようやく覚えたということだろう。キュイはまさに生まれたてと言うことだ。



 毎日、散歩したり、遊んだりしながらキュイは色々なことを覚えていく。

 海に入るのも好きなようで、砂浜まで来ると海を目指して一目散に駆け出す姿は微笑ましい。


 シルビアがキュイにいつも話しかけていることもあり、キュイはある程度俺たちの言葉を理解できるようになったようだ。

 そのため、俺もシルビアもキュイに対して普通に話し言葉を使っている。


 お座り、伏せ、待てなどの単語はもちろん、人間社会のルールにおいても理解出来ていそうなことも多く、かなり賢いようだ。

 好奇心も旺盛だし、仕草はどこからどう見ても犬にしか見えない。というか、本当にスライムか? 犬が召喚されてたんじゃないのか?

《その可能性はありますね》



     §



 あれから1ヶ月。体も一回り大きくなり順調に成犬に近づいている。

 そろそろこの町を出てエルフ大陸に向かうことにした。

 まずは国境の町に入りそこからエルフ大陸に渡ることになるのだが、ただ、地理的な制限からこの町から国境の町へ直接向かうことはできない。そのため一旦ルキエイに戻ってから向かうという選択肢しか無い。


 ルキエイにはゲートを使っての移動も可能だが、キュイを鍛えるために、あえて森の中を歩いてルキエイに向かうことに決めた。



 町のすぐ北側には森が広がっている。その森はルキエイの北側の森に続いているので、この森の中を東にずーっと進んでいくとルキエイの側まで行けることになる。


 町を後にし森に入った。キュイにとっては初めての町の外だ。キュイはキョロキョロといつものように好奇心旺盛のようだ。

 そんなキュイにシルビアが話しかけている。

「キュイは森って初めてよね? ここには魔物がいるから一緒にやっつけるわよ」


 森を進むと早速ゴブリンを発見した。

 戦闘を見せるために手加減しながら時間を掛けてゴブリンを仕留める。キュイの目を見ると何かを感じ取っているようだが、学習して最低でも自分の身ぐらいは守れるようになってほしいものだ。

 その後も、ゴブリンとオークを俺とシルビアが交代で仕留めていった。



《キラーウルフを発見しました》

 珍しい魔物の登場だ。

 キュイに見せるには打って付けの魔物だ。ここはじっくりとキラーウルフの動きを見せよう。

 俺は素手で相手をしてキラーウルフの動きをキュイに学習させることにした。


 キラーウルフはこちらを認識したとたん全速力で向かって来る。真っ直ぐ突っ込んでくると見せかけて直前で方向を変え、俺の横から飛んで来る。それを躱しながら手で軽い一撃を加える。

 牙をむき出しにして俺を捉えようと再度襲いかかってくるが、その攻撃を躱して再度軽く一撃を加える。そんな攻防を繰り返しキュイの目に焼き付ける。


 最後にはキラーウルフは疲れきった様子を見せて何処かへ逃げていった。

 魔物が逃げるを初めて見た気がするが、逃げるのも作戦の一つなので、キュイにはいい勉強になったと思う。


 森を数日進みキュイが十分学習した頃合いを見計らって、いよいよ戦闘訓練に入る。

 模擬戦だ。

 まずは俺がキュイの相手をする。キュイも模擬戦だと言うことを分かっているようで、やる気を見せている。

 模擬戦が始まると、キュイなりにキラーウルフの動きを真似しだした。まだまだ体格的に仔犬感が抜けておらず、短い手足で可愛いというか和んでしまうのはご愛嬌だ。ただ、エナの巡回がちゃんと出来ているため、力の解放が半分ほどではあるにも関わらず動きはなかなか速い。



 こんなことを繰り返しながらルキエイに向かっているため、進むスピードは遅く、ルキエイに着くのはまだ一ヶ月以上掛かると思われる。

 夜は基本的には移動せず、野宿することにしている。シルビアとキュイはいつも寄り添って寝ていて、俺は見張りだ。


 元々好奇心旺盛なキュイは、戦闘というものをどんどん覚えていく。特に模擬戦の時のキュイは楽しそうだ。

 キラーウルフは遭遇することが稀なので、発見した時は学習効果を高めるよう存分に有効利用し、その御蔭でキラーウルフの動きを完全に学習するまでになった。



 旅程を半分近く消化し、力の開放も7割を超えてきている。まあ、体格の方は成犬まであと2ヶ月近くかかるのだが。


 そろそろ武器を装備させようと思う。キュイは賢く、武器を装備しても人に危害を加えるなどの危険性は全く無いだろう。

 犬の武器と言えば牙だろうが、キラーウルフを参考に爪にも装備することにした。なるべく頑丈なのがいいだろうと、早速、爪と牙の材質の検討に入る。

 エナの巡回が問題無くできていることから、武器にエナを流すことを前提に考えて良いだろう。



 武器となる戦闘用の爪と牙を実装した。材質は俺の刀と同じだ。

 普段はこの戦闘用の爪と牙は完全に隠れていて見えない。隠れているというより正確には異空間に仕舞ってあるというのが正しい。戦闘時に意識して出すことが可能で、他人からは爪が伸びたように見えるだろう。爪の伸ばし具合も制御可能だ。

 実装後の模擬戦で確認したところ、予想通りキュイは爪と牙にエナを流すことができ、切れ味抜群で十分使えることを確認した。後は実戦あるのみだ。



《ゴブリンです》

「来たな。キュイ、実戦だ。ゴブリンを倒してくれ」

「キュイ、頑張ってー」

 キュイがゴブリン目掛けて突っ込んで行く。

 ゴブリンが繰り出した剣を軽やかに躱し、直後に戦闘用の爪で首への攻撃で即座に仕留めた。


「なんと、ゴブリンなんか相手にならないってことか」

「わー、キュイ凄ーい」

 シルビアは戻ってきたキュイをもみくちゃにしながら自分のことのように喜んでいる。


 その後の戦闘は全てキュイがこなし、ゴブリンはおろか、オークやキラーウルフなんかも全く危なげなく仕留めて行った。

 途中からは戦闘用の牙と爪を封印して、通常の牙と爪だけで戦うよう指示したところ、最初こそ苦戦していたもののどんどん上達していき、なんなく仕留められるまでになった。通常の爪でも長さは無いもののエナを流すことで強度と切れ味は有るため、持ち前のスピードにより手数を増やすことで対応したようだ。



 これまででキュイのことがだいぶ分かった。

 正確はおとなしく、吠えることはまず無い。

 好奇心旺盛で、知らないものがあると猫みたいにすぐ近寄って確認する趣味がある。

 好奇心のせいか最近は俺たちと離れて行動することも多く、周りを探検しながら駆け回っている。ルナがリンクしているので居場所が分からなくなることは無いのだが、耳がいいのか、呼べばすぐに戻ってくる。

 夜はおとなしくしているが、それもそのはず、ほとんどの時間を寝て過ごしており、これは町に居た時でもそうで、おとなしいと思った時はだいたい寝ていた。


 また、聴覚の他、嗅覚も非常に優れているが、これはキュイが元々持っていた能力なのだろう。

 ソナーのような機能は無いが、嗅覚、聴覚で探査が可能なようだ。

 視覚、味覚も普通に問題ないと思われる。



 ルナはキュイの考えがおおよそ理解できるようになったらしい。

 まあ、キュイは俺たちの言葉をある程度理解できるようなので、指示には困らないが、キュイの要望などは分からない。この問題をルナが解消できそうだ。



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