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2 旅の始まり2

 部屋の様子を一通り見終えると、シルビアは荷物をテーブルの上に置いた。荷物と言っても少し大きめの可愛らしいポシェット1つだけだ。この世界では亜空間を利用したマジックバッグが一般的で、この大きさでもタンス1コ分は楽に入る。


「シャワー使うけど先でいい?」

 俺は担いでいたリュックを床に降ろしながら答える。

「いいぞ。俺はどうせ使わないから」


 シャワールームに向かいかけたシルビアは不思議そうな顔をしてこちらを見ている。

「え? 使わないの?」

「ああ、いつもクリーニング機能だな。そっちの方が綺麗になるし。シルビアもクリーニングしてやろうか?」

「なにそれ? 綺麗になるならちょっとやって貰おうかしら」

 じゃあ、という事で、シルビアの頭に手を置き、クリーニング実行。同時に俺自身にも実行する。


シルビアが驚いたような表情をしている。

「え、何これ」

「どうだ?」

 シルビアは不思議がる表情で腕を撫でたり、長い髪を触ったりしている。

「なんかシャワーした以上にサッパリした感じがする。肌も髪もサラサラになってるし」

「大丈夫そうだな」

「確かにこれならシャワーはいらなさそう。と言うかシャワーよりいいわね」

 シルビアはご満悦のようだ。



「じゃあ、ちょっと部屋着に着替えるわね。恥ずかしいので、あまり見ないでね」

 そう言ってマジックバッグからなにやらごそごそと着替えを取り出し始めた。

「ああ、わかった」

 と生返事をして俺は後ろを向いた。


 ……


 あまりって言ったな…… 絶対見るなでは無くあまりって。少しは見てもいいって意味か。それとも少しは見ろって意味かも。もしくは――

《言葉の綾です》

 はい。



「着替えたよー」

 白いVネックのTシャツにグレーのスウェットで、可愛らしい部屋着だ。そのまま外をぶらつけるかは微妙だが、シルビアなら大丈夫だろう。まあ、美人は何着ても似合うってことだ。

「似合ってるな」

「ありがと。アースは着替えないの?」

「俺はこのままだな」


 俺の言っている意味が分からなかったようで、一瞬固まったように見えた。

「えー、そうなの?」

「んーと…… そう言われてみると着替えるって概念を無くしていたな。というか、そもそも部屋着というものを持っていないし」


 ……


 信じられないって顔をしている。

「じゃ、じゃあ明日買いにいこうよ」

「んー、そうだな。そうするか」

 それは面倒だなと思いながらも、人としてここは断るところじゃ無いのだろう。



 シルビアは脱いだ服を片付け始めた。

「アース? なんか服も綺麗になってるんだけど…… シワも無いし……」

「さっきクリーニングしたときに服も一緒に掛けたからな」

 感心したように綺麗になった服を広げて眺めては畳んでいる。

「凄いね。これだと洗濯もいらないわね。下着も新品みたいになってるわ。ほら?」

 白か。

「って見せなくていいから」

 そう言いながらも目を離せないのはシルビアの魔法なのだろう。





「ねえアース?」

「え?」

「そう言えば旅の目的ってあるの? 観光とか?」

 あと何カ所かの町を巡った後、シルビアの故郷であるエルフ大陸に行く予定にしているのだが、決まっているのはそれだけだ。そのことはシルビアも知っているので、その意味やその後のことを聞いているのだろう。


「まあ、観光ってのもあるけど、魔物の現状がどうなっているのかを知りたいっていう方が大きいかな。大きな町だと情報もあるだろうし、一ヶ月ぐらい居るといろいろ見えてくるんじゃないかと思ってな」

「ふーん。知ってどうするの?」

「最終的には魔物の領域を縮小したいと思ってる」

 小さく首を傾げるシルビア。

「魔物の領域の縮小って?」


「シルビアが知っているかどうかは分からないが、このまま行くと、この大陸は後400年で魔物に占領されてしまうんだよ。人類が住める土地が無くなってしまうってことだ。つまり人類は滅亡してしまうんだ」


 いきなり重い話になってシルビアも戸惑っているようだ。

「滅亡? …… 400年っていったら、もうすぐじゃない。知らなかったわ…… エルフ大陸も?」

「それは分からない。この大陸だけなのか、この大陸占領後にエルフ大陸にも広がるのか、予想は出来ない」

 シルビアは驚きを隠せない。

「そんな……」


「だから魔物の領域がどんどん拡大されている現状を止めないとダメなんだ。それには、国の近辺の魔物を倒すだけでなく、もっと北側に居るもっと強い魔物を倒す必要があるんだ」

 シルビアは不安そうな顔で黙って聞いている。滅亡するって話を冷静に聞ける人はいないだろう。


「最終目標は大陸の最北端に居ると言われている魔物のボスを倒すことだけど、できるかどうかは分からない。そこまで辿り着けるかどうかも分からないけどな」

「最北端…… そのボスを倒すと滅亡しないの?」

「確かじゃないけど、最低でも滅亡時期をもっと先に延ばすことはできるはずだ。うまくすれば、拡大を止められるだけでなく、縮小方向に持って行けると考えている。ただ、ボスを倒すためには今のままだと全然ダメで、もっともっと強くならないとなダメだろうな」


「今のままじゃダメって、アースでも手に負えないってこと?」

「もちろんだ。A級程度の魔物に手こずっているようじゃダメだな」


 ……


「そうなのね…… 私も強くならないとダメね」

「ああそうだな。黙ってても400年後には強さを求められるだろうしな」

 シルビアは右手の掌をじっと見て、握った。

「強くなれるかしら」

「強くなる意思があれば大丈夫さ」

「そうかな……」

「まあ、数年間ぐらいは状況が急変することは無いだろうから、今はそう深く考えずに旅を楽しみながら強くなる方法を考えて行けばいいと思ってるけどな」

「そっか」

「ああ、まだ時間はある」



 暫く何かを考えていたシルビアだが、何か答えが出たのだろう吹っ切れたように顔を上げた。

「そうよね。アースもいるしきっと大丈夫よ。ちょっと安心したら眠くなっちゃった」

 そう言ってシルビアはベッドに横になったあと、こちらを見ている。

「アースは寝ないの?」

「いつもは寝転ぶだけで眠ることは無いな」


「じゃー、眠なくてもいいからここにいっしょに寝ころんで?」

 ああそうだった。今日から二人で寝るんだ。こんな美人の横に俺が寝ていいのだろうか、なんか緊張しそう。って、そんな機能は無かったか。

「それじゃあ、おじゃまします」

 そう言って、俺はシルビアの横に滑り込む。

「ふふ」


 ダブルベッドなので、二人で寝ても余裕だ。

 寝転んだとたんシルビアがぴたっとくっついてきた。

「くっつかれるとなんか幸せな気分だ」

「私も幸せ」

「体がサイボーグなのが少し残念だけどな」

「ふふ。いいじゃない、私も同じようなものだし」



 眠さで目を閉じかけたシルビアだが、何かを思い出したように目を開ける。

「そう言えばアースって、この町は初めてって言ってたよね?」

「ああ、初めて来た」

「今日不思議に思ったんだけど、宿を探す時に全然迷ってなかったし、道を知ってたのはなんで?」

 あーなるほど。そう見えてたのか。確かに最後は宿だけを回っていたしな。

「するどいな」

「え? もしかして前にも来たことがあるの?」

「いやいや、そうじゃない。ほんとに初めてだ」

「だったら……」

 何やら真剣に考え込んでいる。


「それはな――」

「待って言わないで、こう見えてもクイズは得意なのよ」

 クイズって……


「来たこと無いけど道を知っている…… …… 分かったわ」

「えっ」

「夢ね、夢で見たのね? だから道を知ってたんでしょ?」

「予知夢って! そんな特技持ってないし」


「だったら、匂いね。匂いで探り当てられるんでしょ?」

「…… そんな高級な鼻は持ってないって」

「えーー そんなー」


 ……


「じゃあ、何?」

「地図を覚えてるんだ。前にも話したけど俺の頭には人工知能が有って何でも覚えられるんだよ」

「え…… そんなことって…… 大外れって…… それじゃあ私はクイズ王になれないってことね」


 ……


 そもそも、そんなの目指して無いだろ。


 その後、ルナのことを説明した。

 反応を見る限り、シルビアが理解したかどうかは微妙なところだ。

「早い内にルナを紹介できるようにするよ」

「うん」



「アース?」

「ん?」

「なんでもない。おやすみ。ふふ」

「おやすみ、シルビア」

 そう言うとシルビアはすぐに眠りについたようだ。



《シルビアって可愛いですね》

 ああ、とびっきりだな。

 ヤキモチ焼くなよ?

《その機能はありませんので大丈夫です》

 そうか。まあ、何が大丈夫なのかは知らんが。

《それに私とアースの絆はそう簡単に切れませんよ》

 絆って…… どっちかって言うと配線だろ。

《それより、早く私を紹介して下さいね》

 そうだな。今日はルナを紹介する方法を考えてみるか。



     §



 朝日が部屋に届くようになったころ、シルビアが目を覚ましたようだ。綺麗な目をパチパチさせている。

「アース、おはよ。ふふ」

「おはよ、シルビア。よく眠れたか?」

「うん、アースが横にいてくれるだけで安心だもの。ぐっすり眠れたわ」



 ベッドでごろごろしながら話をして今日の予定を決める。


 今日はギルドに行ってみることにした。この町では防具が普段着っぽいということもあり、二人して防具に着替える。

 俺の防具はCランクハンターが身につけそうな安物の見た目だ。ただ、これは自作したもので性能は見た目以上のものを持っていると思っている。


 シルビアは、高ランクハンターらしい防具を持っているにも関わらず、俺に合わせて低ランクハンター用のものを着ている。

 シルビアの防具は昔Dランク時に買ったものだと言っていた。と言うことは体に合っていない安物か?

 防具を付けたシルビアをルナにスキャンしてもらうと、やっぱり合っていないのが分かる。どこかブカブカだったり、微妙にキツかったりだ。特にブーツが合って無さそうだ。


「シルビア、その装備って体にイマイチ合って無いだろ? 装備を作り直してみないか?」

 シルビアは着込んだ防具をじっと見ている。

「防具屋に行くってこと?」

「いや、今ここで作り直そう」


「え…… そんなことができるの? 調整するってこと?」

「まあ、そんなところだ。装備を外して、ここに全部並べてくれるか?」

「うん。ブーツとかも?」

「ああ全部だ」

「インナーと下着もよね?」

「そう…… それはいいから」



 シルビアは装備を外し目の前に並べる。

「これで全部よ」

「よし、ちょっと待っていてくれよ」

 シルビア自身と防具を再度スキャンし、体にフィットするように防具を脳内で設計しなおす。もちろん材質も変える。


「準備ができたので作り直すぞ」

 異空間にある作業エリアに防具一式をルナに転送してもらうと、シルビアの防具が目の前から消える。

「え! 防具が消えちゃったけど?」

「ああ、今作り直している。もうちょっと待っていてくれ」

 と言ってる間に出来上がり、目の前に防具が再び現れた。

 見た目はほぼ同じだが、元のよりも軽く、逆に強度は上がっているはずだ。構造は俺の防具と同じにしてある。防御力を落とすことなく可動部を多く取れるよう改良に改良を重ねた現時点での最強構造だ。

「できたぞ。ちょっと装備してみてくれるか?」



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