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19 誕生の草原の住人

 今泊まっているのは、海の側に建っている立派なホテル、いわゆるオーシャンビューホテルの一室だ。部屋のグレードはそれなりだが、それでも、しっかりと海が見れて眺めはいいと思う。

 既に朝になっており、シルビアはぐっすり眠れたようで、朝食の時間に間に合わないんじゃ無いかという時間まで寝ていた。

 魚がふんだんに使われた料理を朝から堪能して今部屋に戻ってきたところだ。


 かねてからの懸案だった通信機能をいよいよ改良する。現時点ではシルビアとルナの通信は音声のみをやり取り出来るのだが、これを改良してシルビアにもルナの映像を見られるようにする。

 映像という大量の情報を処理できるよう今に至るまでコツコツと改良を進めてきたが、ようやく実用化の目処が立ったと言うことだ。

 早速、通信機能のアップデートを実行した。


「これで、映像を送ることができるようになったはずだ。ルナ、シルビアの目の前に何か表示してみてくれ」

《そうですね、それでは丸い玉を表示してみます》

 水色のガラス玉のようなものがシルビアの目の前に浮かんだ。

「シルビア、どうだ? 見えるか?」

「うん、見えるわ。透き通った綺麗な水色の玉よね。浮いていて不思議」

 俺が見ているものと同じものが見えているようだ。シルビアの目線を確認してみると、俺に見えている位置と同じところを見ている。


《大丈夫そうですね。それでは次に表示位置が正確になるように調整を行いますね》

 こんどは真っ白な小さい点が表示される。

《シルビア、その点を指で触ってください》

 シルビアは、言われるままに人差し指を当てる。

 俺が見えている点よりも若干ずれた位置をシルビアが触ったように俺には見えた。

「触ってもすり抜けるわ」

《映像ですので、それで正解です》


 ルナがやっているのは、シルビアから見て正確な位置に表示できるようにするための微調整、いわゆるキャリブレーションを行っている。ルナが点を空中に表示し、シルビアに触ってもらう。それを数回繰り返し表示位置の補正が行われた。

 その後、部屋にある椅子や枕など、同じ色、同じ形、同じ大きさの物を表示してシルビアから見て同じになるよう色形大きさの誤差調整も行われた。


《調整が終わりました。それでは私を表示します》

 シルビアの前にルナが現れる。20cmほどの妖精のような姿。透き通った細長い羽。その羽を小刻みに動かし浮かびながらシルビアに向かって手を振っている。

「わあ、可愛い。ルナなの?」

《はい、ルナです。改めてよろしくね、シルビア》

「うん、こちらこそよろしくね、ルナ」



 シルビアは俺とルナを交互に見ている。

「アースからはこうやってルナがいつも見えていたのね。アースがたまに何も無いところを見ながらルナに話しかけていたから、なんか不思議な感じがしてたんだけど、やっと分かったわ」

 そう言われると、確かにルナを見て話していた。傍から見るとさぞかし奇妙に見えたのだろう。

「ああそうだったな。遅くなってごめん」

「ううん、いいのよ」



「これでようやく俺が見ているルナの映像をシルビアにも見せられるってことだ」

「うん。なんか楽しそう。アースはいつもどんなのを見てるの?」


「俺がよく表示して貰う映像は、ルナが覚えている本が多いかな」

「本?」

「ああ、ルナは王都の図書館の蔵書を全て暗記しているから、俺が何かを作る時に色々な資料を見せて貰っている」

「へー」


「例えば、シルビアの腕輪を作る時も参考に腕輪のカタログを表示して貰ったし、最近はポタメで収集したニュース映像なども見せて貰ってる」

「いろいろ出来るのね」


「後、この町に来る道中に、ルナが花や小動物の説明をしていたのを覚えているだろ?」

「うん」

「その時、俺は写真付きで説明を聞いていたんだよ」

「あー、そうだったの? ちょっとずるい」

「まあ、今後はシルビアも写真付きだってことさ」

「うん」

 映像が共有できると言うことは、言葉だけで伝えるよりも遥かに正確に伝えることが可能になるということだ。


「他には、ルナがドローンを飛ばして、そのドローンから見える景色を映すとかかな」

「それって、私も見れるってこと?」

「ああ、見れるぞ」

「ドローンって、どこでも映せるの?」

「ああ、俺が行ったことのある場所ならっていう制限はあるけどな」


 シルビアは少し考えてから、はっとして俺を見た。

「アースの故郷が見てみたい。アースが目覚めたっていう草原」

 いい選択だ。最初のデモンストレーションとしてはうってつけだろう。

「それはいいかも」

「遠いよ?」

「遠さは関係ないから大丈夫だ。それほど立派な場所じゃ無いけどな」



 誕生の草原にてんとう虫型ドローンを飛ばす。

 俺とシルビアの間にテレビのような四角いモニターが表示され、そこに誕生の草原が映し出された。

 以前と変わらず何もなく長閑な風景だ。

「ここがアースの故郷なのね」

「ああ、草原と山しか無いんだ」


 短い草が一面に生えているのを一通り映し出した後、周りの山もぐるっと一周映し出した。

「へー、でも綺麗な所ね。アースってここに住んでたのよね。私も行ってみたいなー」

「住んでたと言っても一週間ほどだけどな」

「動物とかは住んでないの?」


「居るのはスライムぐらいだな」

 ドローンの映像がすかさずスライムを映し出す。

「あ、ほんとに居た」

 シルビアはスライムがもぞもぞと動く様子を興味深く見ている。

「こんな感じで、他に何もないんだよ。すぐに飽きそうだろ?」

「アースと一緒なら飽きない自信があるわ」


 次にモニターに表示されたクレーターを見て、俺はそれを指差して言う。

「ほら、クレータとかが有ってちょっと荒れているところも有るんだ」

 クレータは前のまま変わっていない。埋めておけば良かったのにといつも思う。

「アースが開けたの?」

「いや、このクレータは俺が目覚めたときからあったんだ」

「ふーん」


 ドローンの向きを小屋に向け進める。

「あれが寝泊まりしていた小屋だ」

 小屋を見つめるシルビア。

「なんか、可愛い小屋ね。中も見れる?」

「ああ、もちろんだ。って言っても中には何も無いんだけどね」

 ドローンをさらに進めて小屋の中に移動すると、床に1体のスライムがいた。


 シルビアの目の輝きが大きくなった。

「あ、スライムがいる。ここで暮らしているのかな?」

 この草原には何匹かのスライムがいる。その内の一匹が小屋に紛れ込んだのだろう。

「俺が居たときは部屋にスライム居なかったし、入ってくる様子もなかったけどな」

「えーー? じゃあ、アースが居た時はどこか旅に出てたんじゃない?」

「……そうなのか」


 スライムの様子をドローンで見ていると、なぜかドローンの方に移動してくる。

《近づいてきますね》

 反対側にドローンを移動させてみるとスライムも方向を変えてドローンに近づいてくる。

「虫と思っているんじゃないのか?」

 誕生の草原のスライムは、草に付いた虫を起用に取り込んで食べていたのを俺は見ている。そのことから、てんとう虫型ドローンを虫と間違えているに違いない。

 スライムの近くにドローンを着地させてみる。

 スライムはドローンの横まで来ると何もせずじっとしている。ドローンを虫だと思っているのなら取り込むだろうと思ったのだが、ただ単にその横から動かなくなった。


 ドローンを少し離すと、スライムも少し移動し近づく。近づくだけで何もしない。

「ドローンに興味を示すけど、ただそれだけだな。普通のスライムじゃ無いのか?」

《どうでしょう。私には分かりません》

 シルビアはその様子を楽しそうな顔をしながら黙って見ている。


「異空間に取り込めるか?」

《生物は取り込めません》

「それでも試しにやってみてくれ」

《あれ? 取り込めちゃいましたけど》

 シルビアはちょっと残念そうに俺の方を見た。

「消えちゃった」


「ルナ、取り込めたということは生き物ではないということか?」

《はい、解析した結果、人工物ですね》

「へっ?」

 シルビアはキョトンとしている。俺もキョトンとしたかもしれない。

「え? 何? 人工物って?」


「…… ここへ出してくれ」

 俺達の目の前にスライムが出現する。

 シルビアは驚いている。

「あー、スライム。さっきのスライムってことよね?」

「…… ああ、そうだ」

 どうみても普通のスライムだ。これが人工物ってどう言う事だ?



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