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18 海底ダンジョン

 綺麗な海底だ。砂を巻き上げないよう注意しながら海底を散歩する。

《この岩の向こう側に洞窟のような空間が広がっていますよ》

 海底洞窟か。それは是非見てみたいな。

 入り口が無いかと探してみたところ、人が普通に通れそうな穴が空いている。

《ここから入れそうです》

 入ってみるとルナの言う通り直ぐに広くなった。


『真っ暗ね。アースが何処に居るのかも分からないわ』

 完全に真っ暗のようだ。暗闇の中、不安そうな顔をしているシルビアの手を取る。

 俺には暗視があるので問題無いが、ただ、色までは判別できる訳ではない。

『魔法で明るくできるか?』

『確か海中でも使えたはず。やってみるわね』

 魔法は成功し洞窟内を明るく照らす。シルビアにも周りの様子が見えるようになったようだ。

『出来た―― 綺麗……』


 これなら俺も色がはっきり見える。

 景色は鍾乳洞のようだ。洞窟の岩肌は白が目立っているが、赤や緑の自然が作った支柱が何本も立っていて、その綺麗さは幻想的だ。

《ソナーで確認したところ奥行きは100mほどですね》

 突き当りまで進むと行き止まりかと思いきや、小さな穴が開いていてさらに奥に繋がっているようだ。

《この穴から先が見えません。ダンジョンの始まりだと思います》

『え、海底にダンジョンがあるのか?』



 海底ダンジョンを少し覗いてみることにした。


 入り口の穴をくぐると、意外と広い通路が続いていた。幅は3m,高さは2mほどだ。壁は発光していて地上のダンジョンと同じようだ。違いは、海水で満たされている点ぐらいだろう。

『魔法の灯りはもう無くても大丈夫そうだ』

 シルビアに魔法を解除してもらったが、問題なくダンジョン内が照らされている。

 綺麗な壁に加え、砂一つ落ちていない綺麗な底面からしても只の洞窟で無いことは明らかだ。


 暫く進んで行みるが綺麗な壁が続くだけで全く代わり映えしない。


 通常、ダンジョンの一階には魔物が出現しないのが定説ではあるが、海底ダンジョンもそうだとは言い切れない。そもそも、階層構造になっているかも怪しいところだ。いきなり魔物が襲ってくる可能性を考えて、剣を準備しておくことにしよう。

『ルナ、剣を出してくれ』


 ……


『ルナ、どうした。剣を出してくれ』


《出来ません》

『え? 出来ないってどういう意味だ?』

《水中のように物質密度の高い場所に異空間から物を移動させることは出来ません。基本的には周りが空気程度の低密度の場所に限られます》

 ああ、前に聞いたことが有るな。忘れていた。たしか、そこまでの空間干渉はできないということだったか。


『それはまずいな』

『もし魔物が出たら素手で戦うってことよね?』

『そうなるな』

 シルビアは少し考えると、ボクサーのようにファイティングポーズを取る。

『私は素手でも大丈夫よ。アースに体術を教わったし、体術魔法もあるし。任せて』


 いやいや、練習すらしたこと無いし、水中だと踏ん張りもきかないだろうし、どう考えても無理だろ。そもそも体術だけだととどめが刺せないし。

 とは言っても、今はそれ以外に方法が無さそうだ。それに、剣が有っても水中での剣術は練習していないので、どこまで使えるかは未知数だ。

『ああ、頼む。俺も力一杯戦うよ』

『うん、がんばろう』


 そんなことを話しているとルナから警告が伝えられる。

《奥から何かが来ます》

『ついに魔物か』

 目視できるとこまで近づいた。見た目は30cmぐらいの魚のようだ。

 身構えてみたが、その魚は俺たちの横をすーっと通りすぎて後方に泳いでいった。

《ただの魚でしたね。魔物じゃありません》

 シルビアはファイティングポーズを取っていた。

『なんか残念』


 ……


 魔物が出たときを考えるとやっぱり武器が無いのは心許ない。

 危なそうだったら逃げればいいと安直に考えていたが、水中タイプの魔物が相手だと水中でのスピードはどうやっても負けるだろう。絶対に逃げ切れない。

『ちょっと考えたんだが、やっぱり水中の魔物相手に素手だと分が悪いと思う。一旦出直そう』

《私もアースの案に賛成です》

『うん、分かった。出直しましょう』



 出直そうとした矢先、またしてもルナから警告が伝えられる。

《奥から何かが来ます》

『今度こそ魔物か』

 目視できるとこまで近づくとまたもや魚だ。

 その魚は俺たちの横を通りすぎて後方に泳いでいった。

《さっき会った魚でした》

『確かに似ていたな』

《似ていたのではなくさっきの魚でした》

『え?』


 後方に去っていった魚がなんで前から来たんだ?

 いやな予感がする。

 暫くこの場に留まることにする。1分ほど待った。

《奥からさっきの魚が来ます》

『……』

 その魚は俺たちの横を通りすぎて後方に泳いでいった。

《同じですね》

『やられた』

『やられたって?』

『あの魚は同じ所をループしている。たぶん俺達も既にそのループの中にいる。トラップに掛かってしまったようだ』


 取り敢えず元の入口に向かって泳いでみることにした。

 距離にして50mほど戻り入口が有っただろう所まで来たが、予想通り入口は無くダンジョンの壁が続いているだけだった。



 いくらループしていても、入口が有ったということは出口も有るはずだ。

 たぶんループの終点と始点がくっついているのだろう。ゲートみたいな物を使っているのだろうか。

『ルナ、入って来たとこが分からないか? 入って来た時の壁の形を覚えているか?』

《壁の形は覚えていますが、ここの壁は絶えず微妙に変化しているようですので、もはやその壁は有りません》


『このままだとどうなるの?』

『一生、ここに住むことになるな。 …… 壁をなんとかして壊すってのはどうだ?』

《前に入ったダンジョンもそうでしたが、ダンジョン自体が異空間に属している可能性が高いです。壁を突き抜けたとしても外に出られる保証はありません。最悪は異空間に放り出されることになります。その場合の未来は予測不可能です》


 ダンジョンが死ぬと入口が見えるようになるだろうが、何年かかるか検討もつかない。

 海水を抜くのはどうだろうか? ルナの答えは壁から供給される量で調整されるだろうとのこと。

 逆に水圧を高めてみるのはどうだろうか? ルナの答えは壁に吸収される量で調整されるだろうとのこと。

 まあ、海水が減ったり増えたりしてもループが解除される保証は無い。


 とにかくループの出口と入口の境目を探すか。

 入口から俺達が泳いだ距離の何処かにループへの繋ぎ目が有ったはずだ。

『ここに来るまでに境目らしきものは有ったか?』

《見つけることはできませんでした》



『また魚でも入って来てくれれば入口が分かるかもしれないのにね』


『その手があるな』

『でもいつ入ってくるか分からないよ?』

『ルナのドローンを入口から通せばいい』


 俺達が入口を入ってから泳いだ距離は50mほどなので、50mの長さの紐を入口から這わせれば繋ぎ目が分かるはずだ。

 早速、50mのロープを制作した。

 水中だとそのロープを出現させられないので俺達が潜りはじめた海面に出現させ、そこからルナが引っ張って行きダンジョンに侵入して行く。

 俺達は入口から50m先となる場所でロープが到着するのを待つ。


 待っているとロープがこっちに向かって来るのが見えた。

《這わせ終えました》

 目の前にあるロープの先端から入口方向に泳いでいくと、ロープが途中で切れていた。いや、その先が消えていると言うのが正しいか。

『ここが境目だな。入口から何mだ?』

《見えているロープが45mですので、5mの場所ですね》

『入ってすぐだったって事か』


 ただ、その周りを調べてみても、それと分かる仕掛けが見当たらない。

 入口が分かったが出る方法が思いつかない。

 ここに扉は有る。しかしその扉は見えないってとこか。

『取り敢えず一歩前進ってことだな』


『ロープを入口方向に引き戻せるか?』

《戻せません》

『完全な一方通行ってことか』

 ロープが戻れるのなら、それに捕まっていれば俺たちも戻れるかと思ったのだが。



 取り敢えず水の中も飽きてきたので、水の無い空間を作ろうという話になった。

『ダンジョン内を空気で一杯にするのはどうだろう。ルナ、ループ一周は何mぐらいだ?』

《目印が無いので何とも言えませんが、魚に会う間隔と、魚の泳ぐスピードから計算すると一周300mほどだと思います》

『一杯にするには時間がかかりそうだな』

《ダンジョンが空気を全て吸収してしまうことも考えられます》

『確かにな』

 現に、シルビアが吐き出している空気は、天井に到達したと同時に吸収されているようで消滅している。

『水が無くなったら魚がかわいそう』

『それもそうか』


 結局、俺の土操作で部屋を作ることになった。

『ルナ、何処かの山からでも土を持ってきてくれ』

 俺の手から土がドバドバと出てそれを俺とシルビアを囲うように球状にしいてく。球状になり俺たちを覆っていくが、球が転がらないようにダンジョンの高さに合わせて縦長にして上下で固定する。

『よし、今度は空気を出してくれ』

 すぐさま手から空気が出る。

 底部分に小さな穴を開けて水を排出する。空気で満タンになると小さいながらも部屋が出来上がった。

 椅子も土で作って向かい合って座る。


「ようやく落ち着ける空間が出来たな」

 俺とシルビアにクリーニングを掛けて完全に乾かすと、久しぶりに水から出た気分になった。

「これからどうするの?」

「そうだな…… いい案がでるまで何日もこの部屋に居ることになるかもな」

「私はそれでもいいけどね。ふふ」


 暫く考えていると、底に穴が開いた。

 え?

《ダンジョンの床に触れている部分がダンジョンに吸収されてしまいましたね》

「土まで食うのかこのダンジョンは」

 ここには空気があるので、直ぐに水が入ってくることは無いが、あまり気持ちのいいものではない。

 すぐさまルナに土を補充してもらい穴を塞ぐ。


 だが、またもや吸収されていくようだ。その度に土を補充する。

 土を出す側からどんどん吸収されるようだ。ダンジョンもムキになっているのか?

 どこまで吸収できるかやってみるか。

 土をどんどんと運び入れる。ダンジョンもその度に吸収する。


 ひたすら行っているとついに吸収しなくなった。合計20トンぐらいは運び入れただろうか。

「まいったってことか?」

 よし、もう少し土を広げてみるか。

 吸収が止まった中、さらに土を広げてみた。やはり吸収しないようだな。


 そんなことを思っているとルナから報告が入る。

《ループが消えたようです。入口が開放されましたので、今なら戻ることができます》

 部屋の底に少し穴を開け、そこからドローンを泳がして行きロープの様子を見てみる。

 確かにロープの消えていた部分が入口に向かって見えている。

「アース、どういうことかしら?」

「まあ、状況から見て出ていってくれってことだろうな」


 仕方が無い、出ていってやるか。

 空気を抜いて再び水中に戻る。球体の土を解除し、土の山に戻した。ロープも回収した。

 周りを見ると土だらけだ。砂一粒も無かったのが今や散らかり放題な感じ。

 まあ、掃除してやるか。土を手で触り吸い取り、ルナが元の山に戻す。

 ほぼ綺麗になったと思ったら、床から土がもこもこっと出てきた。


 ……


『これも回収してくれってことか』

《そのようですね》

 やれやれと思いながらも回収する。


 結局、運び入れた土を全部回収させられたようだ。よっぽど土が嫌だったんだろう。

 全て回収したが、入口は開放されたままだった。

 さっきの魚は一足先に脱出したようで、遅ればせながら俺達も入口をくぐりループダンジョンからの脱出を果たした。

 俺たちが地上に戻ると数年経っていた、なんてことは無かったのは言うまでも無いだろう。



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