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16 山賊の村2

 見回りは逃げるように離れていったかと思うと、すぐに数人で戻ってきた。全員剣を手にしている。その中の一人が大声を張り上げる。

「なぜ外にいる!? どうやって出た!? 手錠はどうした!?」

 質問ばっかりだな。

「普通に出ましたけど?」

 そんな訳無いか。


 山賊達は俺たちをじっと見ている。

「痛い目を見たく無ければ、まずはその木刀を捨てるんだな」

 そう言いながら、手にしている剣をチラつかせているが、俺達はそれに従う理由が無い。



「どうやら痛い目を見たいらしいな」

 その言葉と同時に俺たちは8人に囲まれた。

 どうも稽古の相手をしてくれるらしい。

『練習に丁度いいな。シルビア、俺を守りながら奴らを無力化してくれ。俺は奴らの攻撃を一切避けないから一発でも食らったり捕まったりしたらこのミッションは失敗な』

『うん、分かった』

『ルナも助言無しだ』

《分かりました》

『あー、そうそう、手加減を忘れるなよ?』

『ふふ』

 そう言って俺は木刀を鞘に戻す。


「兄ちゃんは諦めたようだが、嬢ちゃんの方はやる気みたいだぜ?」

「別に諦めた訳じゃない。俺はこの娘に守ってもらうから邪魔にならないよう木刀を仕舞っただけだ」

「ほー、嬢ちゃんが守るのか。これは恐れ入ったな。普通、逆だろ。わはは」


 一人がシルビアに向けて剣を振るう。

 難なく木刀で受け流し直後に腹を突く。避けないのは、それをすると俺に当たるのが分かっているからだ。

 そいつは腹を押さえてのたうち回っている。シルビアの突きは一級品だ。年季が違うからな。


「てめえら、油断するんじゃねえ! 全員でかかれ!」

 一斉に襲ってくる。当然俺も標的になるが、棒立ちのまま成り行きを見守る。

 シルビアは俺の周りを器用に回りながら木刀でばったばったと倒していく。


 長年後衛で戦闘を見てきた御蔭だろうか状況判断が完璧だ。

 俺に危険が迫ることが全く無い。

 ただ、ちょっとやり過ぎてないか? まあ、やり過ぎた場合でもヒールで治せるので問題無いのだろうが。


 あっという間に一人を残して全員気絶という状況だ。その一人もかなりの手負いだが、なんとか意識を保っているが立ち上がれないようで座り込んだままだ。


 シルビアは徐ろに数メートル離れたそいつの側に行き、木刀の切っ先を見せつける。

「降参でいい?」


 シルビアが俺から離れる隙を狙っていたのか、建屋の陰から出てきた別の男に俺は捕まってしまった。

 俺の喉に刃物を当てながら男が叫ぶ。

「そこまでだ!」

 その男の声に振り返るシルビア。

「あっ」

『ミッション失敗だな』

 刃物が当てられている俺を見て、シルビアは悔しそうな顔をしている。

『……』


 俺は山賊に向かって警告してやる。

「シルビアが怒ると怖いかもしれないぞ」

 怒ったところを見たことが無いけど。


 シルビアは山賊をキッと睨み、怒っている感じではあるがちょっと可愛すぎて迫力に欠けるようだ。

 俺の警告とシルビアの態度に対し、男は鼻で笑う。

「ふん! この状況で一体何ができると言うん―― ぐわっ」

 男が言い終わる前に顔面にファイヤーアローが着弾した。

 煙が立ち上る顔を両手で押さえながら転げ回っているのを見ると、やりすぎのようにも思える。治してあげるように後からシルビアに言っておこう。


 シルビアが俺の元に駆け寄ってきた。

「アースごめーん。油断しちゃった」

「まあ、油断大敵ってことだな」

「うん」

 ちょっとションボリ顔だ。



 そんな話をしていると、少し離れた所から声がした。

「見事だ!」

 そう言って男が三人こちらに近づいてきた。一人は初老で偉そう、あと二人は壮年でどちらもかなり体格がいい。

 まだ座り込んでいる手負いの男が情けなさそうに言葉を発する。

「お、親方」

 初老の男が親方か。山賊の長ってことだな。



 手負いの男の横まで来ると、親方は言葉を続ける。

「それにしてもお嬢さんの腕は見事だ。その剣術に加えて魔法まで使えるとはな。流石にうちの若い奴らには荷が重過ぎたようだ」

「そうね。ちょっと手応えが無かったわね」

 単に褒めに来た訳じゃないだろうことは察しがつく。


「ただ、ここまでヤラれると黙ってる訳にはいかないし、ただで済ますほど俺たちは甘くはないんでな」

 親方はやんわりと脅しにかかっているようだ。

 俺はシルビアと親方の間にすっと入る。

「何が言いたい?」

 俺が出てきたのをみて若干鼻で笑ったように見えた。


「どうだろう、この男らと勝負してみないか?」

 そう言って横の男達を指し示し、話を続ける。

「こいつらの腕は確かで、この村でのナンバーワンとナンバーツーだ。名前をドナートとモイセイ言う。もしこの男らに勝てたなら俺たちの完敗だ。見逃してやろう」

「負けた場合は?」

「帰す訳にはいかないってことだ」


 ……


 俺が少し考えていると、親方は話を続けた。

「まあ、そうだな。2対2の勝負と言うことで、この村での一般的な勝ち抜き戦にするか、先に2勝した方が勝ちっていう簡単明瞭なルールだ。審判は俺がやろう」

 勝手に話が進む。


 どのみち見逃す気は無いのだろう。ここは勝負することを前提に考えた方が良さげか。

 勝ち抜き戦での対戦順を考えるとシルビアが先鋒で、俺が次鋒ってところか。いや、副将と大将か。

『シルビアが先に出るってことになるが、受けていいか?』

『うん。もちろんいいわよ。私一人で2勝するわよ』

 やる気満々だな。承諾とするか。

「いいだろう」


「よし決まりだ」

 親方はニヤリとして、さらに続ける。

「そう言えば名前を聞いてなかったな。こちらはさっきも言ったが、ドナートとモイセイだ」

「俺はアース、この娘はシルビアだ」


 親方は一つ頷く。

「では、そちらが希望する対戦相手を指名してくれ」

 指名?

「対戦相手の順番をこちらが決めらるのか?」

「一応、客人だからな。決めるが良い」

 少なからず礼儀は有るってことか。


『シルビア、どっちと対戦する?』

『んー、強い方にしようかしら』

『そうか、分かった。木刀でも問題無いと思うけど、念のためレイピアで行ってくれ』

『うん、分かった』


 作戦会議を終えて、対戦相手を告げる。

「なら、ドナートを指名する」

「ほう、強い方を先に指名するとは自信家だな。ドナート、ご指名だぞ。対戦相手を指名しろ!」

 なっ!

「ちょっと待て! そっちも対戦相手を選べるのか?」

「ああ、もちろんだ」

「それは変だろ。それだと先に指名する方が逆に旨味が無いじゃないか。俺たちは客人なんだろ? そう言うことならそっちが先に指名するのが礼儀じゃないのか?」

 まあ、俺達ならどちらが出ても体制に影響はないのだが、なんか癪に障る。


 そんな事はお構いなしにドナートが口を開く。

「対戦相手にはアースを指名する」

 シルビアが叫ぶ。

「それはダメーーーっ! それだと――」

 それを遮るように親方が言い放つ。

「この村のルールだ! 他の所ではどうか知らんがこれがこの村での一般的な勝ち抜き戦だ。承諾したからには従って貰おう」

 そういう事か。微妙に嵌められたな。

 シルビアが小声でぶつぶつ言っている。

「アースが先だったら私に順番が回って来ないじゃない……」



「それでは、始めるとする。両者前へ」

 俺とドナートは前に出る。俺は木刀、ドナートは剣を持っている。

 おいおい、これも変とか思わないのか?

 まあ、状況によっては途中で刀を出すか。


 親方がルールを再度説明する。

「勝ち抜き戦とし、先に2勝したチームを勝ちとする。対戦相手が降参するか、気絶するか、死ぬかすれば勝ちと判定する。なお、対戦者以外のチームメンバーが降参を認めると、その時点でチームとして負けを認めたものとする」

「おいおい、殺すのも有りなのか?」

「もちろんだ。この村のルールだ。俺たちの戦いは甘くないってことだ」


 ……


 全部この村のルールか。

 なるほど、意図が分かったぞ。

 つまり、弱いと思っている俺を死ぬ寸前まで追い込み、シルビアに降参を言わせる作戦だな。

 この分だと、俺が降参って言っても聞こえない振りをする作戦だろう。

 途中で武器を変えるのも無しだって言われそうだ。

 殺すのも有りというルールの中、厄介なのは相手の技量がどれほどのものか分からないってことだが、それは相手も一緒だろう。

 最初は慎重に行くか。

 そんな事を考えながら、木刀を構えた。


「始め!」

 ドナートがニヤリとしてから剣で切り込んでくる。本気で半殺しを狙っているようで、なかなかのスピードだ。

 それを軽く躱す。

「なっ」

 避けられるとは思っていなかったのだろう、ドナートは体制を崩しながら目を見開いて驚いている。


 さらにスピードを上げて切り込んでくるが、これも躱し、隙だらけの腹に木刀を叩き込んだ。

 ドナートが吹っ飛ぶ。

 あれ? 体格の割には踏ん張りが効かないようだ。油断してたからだろうとは思うが、もう少し抑えてやるか。

 ドナートを見ると、冷静さを取り戻したのが分かる。これからってことか。


 今度はジリジリと近寄って来る。

 ドナートが俺の間合いに入ったので、攻撃を仕掛けた。

 ドナートが剣で受けるが、俺の木刀の方が威力がある。剣を僅かに弾き返し、それで出来た隙に木刀を滑らせる。右脇腹に向かって木刀を薙ぎ払うように一撃を御見舞すると、またしても、ドナートが大きく吹っ飛び転がる。 

 剣のスピードは速いようだが、ただそれだけだな。


 親方が鬼の形相で叫んだ。

「ドナーーート! 何をやっている! 遊ぶのもいいかげんにしろ! 負けることは許さんぞ! 死にたいのか!」

 その言葉にドナートは立ち上がり、俺を睨みつけている。

 その目は血走っているようだ。

「俺を本気で起こらせたな」

「え、本気じゃ無かったってことか?」


 ドナートは何やらブツブツ言い始めた。もしや、魔法の詠唱か?

 そう思った矢先、ドナートが叫んだ。

「奥義、過大重力オーバープレス!」

 その声が聞こえたと同時に、ドンッという音と共に俺の周りの地面が円形状に数cm沈み込んだ。

「わはははは、これでお前はお終いだ! 地面に這いつくばって潰れてしまえーっ! 俺を怒らせたことを後悔しながら死ぬんだな!」


 ……


「ん?」

 別に何も起こらないし。魔法だから効かなかったてことだろう。

「え?」

 ドナートは俺を不思議そうに見ている。


「な、何故、立っている!」

「さあ、何でかね」

「そんな馬鹿なーっ!」

 俺は歩いてドナートに近づいていく。

「来るな―っ! くっそーもう一度だ! 過大重力オーバープレス!」

 詠唱短縮?

《同じ魔法を続けて撃つ時は再度の詠唱は不要なのです》

 またもやドンッという音が鳴り俺の周りの地面が円形状に数cm沈みこんだ。


 歩みを止めずゆっくりドナートに向かう。

 ドナートはまたもやブツブツ言っている。今度はファイヤーアローが飛んできた。

 気にせず向かう。

 ファイヤーボールが飛んできた。

 気にせず向かう。


 ドナートは手足を震えさせ、怯えとも思える顔をしている。

「有り得ない! 有り得ない! 有り得ない!」

 さっきの冷静さはもはや無さそうだ。



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