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15 山賊の村1

 スロットルを回して走り出す。パワー的にも十分そうだ。

 加速、減速、旋回するたびにGがかかる。シルビアがその度にキャーキャー言っている。

 

「シルビア、大丈夫かーー?」

「おもしろーーーいっ!」

「だろー? ヴィークよりも面白いだろー?」

「ほんとだわー」



 シルビアにも運転させてみたが…… 

「コケるんだけど……」

 乗れないようだ。

「運転出来なくてもいいの。アースの後ろに乗れるから」

 だそうだ。

 運動神経が良いシルビアだが、暫く練習してみても全く乗れそうな感じがしなかった。この世界では昔から魔法に頼り切っているため、この辺りの能力が無いのかもしれない。

 練習を積めば乗れるとは思うが、前世で言うところの一輪車が難しいと言うのと同じ感じなのだろう。



 町の近くを走り回っていると、遠くから2人乗りバイクに乗った若い男女がこちらを見ている。

 こちらが少し停車していると、その2人がバイクで近寄ってきた。

「それはいったい何なんだ?」

「一応バイクだけど」

「それがバイク? 椅子も無いし、2人乗り用でも無さそうだし。走ってる時は、傾いたり上下に跳ねたりしてバイクには見えないな」

「ああ、これはそういう乗り物なんだよ。それに、これでもちゃんと2人乗り用なんだぞ」


 後部座席の女がシルビアをじっとみている。シルビアは相変わらず俺の背中に抱きついたままだ。

「あたしもそのバイクがいい」

 女の声に答えるように男が頷く。

「ちょっと乗らせてくれないか?」

 まあ、そう来るだろうと思っていた。予想通りだ。

「ああ、構わないけど、少し難しいかもしれないぞ?」



 バイクを前に、男に操作方法を教える。

「このスロットルを回すとスピードが上がり、スロットルを戻してこのブレーキレバーを握るとブレーキがかかる。あとは、バランスをとって走るだけだ。走り出したら足はここにのせる」

 使い方を教えるために少し実演してみせた。


 その男がシートに跨がり座ってみる。

「おー、なかなか座り心地はいいな。足で踏ん張ってないと倒れるようだけど、かなり新鮮な感覚だな」

 スロットルを回すと動き始めるが、直ぐにバイクは倒れ込み、足で支える。勢いをつけると派手に転けたりと、何回もチャレンジするが、結局乗れなかった。

 かなりの傷を作りながら男は残念そうな顔をしている。

「残念だが、俺には無理そうだ」

 その言葉に女は不服そうな顔をする。

「えー、そのバイクがいいよー」

 シルビアが抱きついて後ろに乗っていたのがよっぽど羨ましかったようだ。



     §



 ルキエイの町を去り次の町に向かっている。

 真っ直ぐで平坦な道、遥か彼方まで見通せる平地に、見えるものと言えば左右に聳える山以外何も無い。

 俺とシルビアとルナはどうでもいいような話をしながら、音も無くバイクをひたすら走らせる。

「ルナ、スピードはどの程度出ている?」

《時速120kmほどですね》


 普通の人々は、ゲートかバスを使うところだろう。道を不用心に歩く人の姿は全くおらず、たまに動物を見かける程度だ。

 ルキエイの近くには数個の村が有ったが、30kmも離れると村さえも無い。

 ただただ道が続いているだけだ。

 ある意味、のどかな風景だ。


 暫く進んだ後、停車してバイクの調子を確認してみる。魔力タンクを見てみると、約半分ほど減っているとの表示が出ていた。

 シルビアに魔力マナの補充を頼んでみた。魔力の注ぎ口に手を当てて充填を始める。魔力タンクへの充填は初めてだと言っていたが、ポタメへ充填とするのと同じらしく、すぐにコツを掴んだようだ。一気に充填しようとするとタンクが熱くなり破裂の危険を感じたので、熱さを見ながら充填スピードを調整してもらった。


「ルナ、ここに来るまでに何キロ走った?」

《おおよそ100kmですね》

 「魔力タンク約半分の使用量で100kmということは、満タンでの航続距離は200kmほどか」

《そうですね》


 燃費がいいのか悪いのかは分からないが、航続距離は意外と短いようだ。

 ただ、シルビアが適度なタイミングで充填すれば、短い航続距離でも全く問題は無いだろう。

 あと、ここに来る途中で最高速度を計測したところ、時速180kmを叩き出した。小さい割にはなかなか優秀だ。ただ、その時に車体がガタガタ震えていたし、タンクも相当熱くなっていたようだ。それから考えると、時速120kmぐらいまでがベストなんだろうと思う。





 ずっとバイクと言うのも飽きるので、バイクを異空間に仕舞って徒歩に切り替えた。

 道には砂利が敷き詰められている。俺のバイクもそうだが、バスやヴィークは浮上して進むため道路は舗装されている必要は無く、砂利道で十分だ。本来は砂利すら不要だが雑草対策か何かなのだろう。

 ただ、砂利道は歩くのには適しておらず、俺達は道の横の砂利が無いところを進んでいく。


 道端では花が咲いていたり、小動物を見かけたりする。ルナにそれらの名前や特徴などを教わりながら散歩気分で歩いている。

 あとは、山が見えるのと、平坦な道がずっと先まで続いているのが見えるだけだ。人は全く見かけない。自然の静けさの中、俺達以外は生き残っていないのではと思ってしまうほどだ。



《道から外れて1kmほどの処に小さな村がありますよ。地図には載っていない村のようです》

 こんなところに村があるとはちょっと驚きだが、日も落ちそうだし、そこで一泊させてもらうのもいいだろう。



 門の前まで来たが既に閉まっていた。日も落ちており時間外で無理そうだ。そう思い引き返そうとしたところ門の覗き穴が開き、男の声でこちらに話しかけてきた。

「お前たちは一体何者だ?」

「ただの通りすがりです。一泊させて貰えないかと思ったんですが」

「この場所をどうやって知った?」

「偶然見つけました」

「ちょっと待ってろ」

 一旦覗き穴が閉じる。


 村は大きめの石を3mほど積んだ塀で囲まれていて、中をうかがい知ることは出来ないが、待っている時間を利用してルナのてんとう虫型ドローンで中を覗いて見た。

 なんだか普通の村では無さそうだ。山賊とかのアジトのようにも見える。

 武器を奪われると厄介なので取り敢えず二人の武器を異空間に仕舞う。まあ、取られてもルナがドローンで回収できるとは思うが。代わりにそこらのゴブリンから手に入れた錆びついた剣をクリーニングして腰にぶら下げ直した。


 数分すると扉がギシギシと音を出しながら少し開いた。

「よし、入れ」

 数人にジロジロ見守られながら村に足を踏み入れる。

「すげー美人さんが一緒じゃねーか」

 そんな声も聞こえる。



 一人の男が俺達の前に来た。村長という感じでは無さそうだ。

「ここの決まりで、知らない奴はこの手錠をはめて貰うのが決まりだ。なーに、怪しい奴じゃないと分かったら直ぐに外すので心配するな」

 それに従い、俺とシルビアは手を後ろにして手錠を掛けられた。

 男たちはニヤリとしている。

「一応、武器も預からせて貰う。手錠を外す時に返すから暫くの間預かるだけだ」

 思っていた通り武器も取られた。

「泊まるとこを探してたんだって?」

「はい、そうです」

「まあ、任せとけ。おい誰か、こいつらを部屋に案内してやれ」


 手錠を掛けられたまま3分ほど歩き、小さな小屋の前で止まった。

 その小屋の扉の鍵を開けて中に入る。中は暗かったが、扉付近にあるスイッチを男が操作すると少し薄暗い灯りが点いた。

 そこには地下へと続く階段があるだけだ。小屋は地下への入口だったようだ。

 階段を降りると奥に続く廊下と部屋が3つ並んでいるのが分かる。コンクリートむき出しで飾り気は全く無い。


 俺たちは一番奥の部屋らしい。部屋はそれぞれ壁で区切られているが、廊下に面する部分には壁が無く、代わりに鉄格子になっている。つまり牢屋だな。

 鉄格子の一部が開閉できるようになっていて、それを開けると俺たちは乱暴に放り込まれた。

「手錠を外してくれる約束はどうなった?」

「ああ、そうだったな。安心しろ、お前たちは怪しい奴に認定されたから手錠は外さなくていいぞ。わはは」

 そいつらは、鉄格子の扉に鍵を掛けると、そのまま去っていき、ほどなくして灯りが消された。地下なので窓も無く、完全に真っ暗だ。


「ここは山賊か、盗賊のアジトで決定だな」

「そうみたいね」

 誰も来なくなったのを見計らって、まずは俺たちの手錠を外す。手錠を外すのは簡単だ。ルナが手錠を異空間に送り込むだけだ。

 手錠は記念に貰っておくことにする。


 真っ暗だが俺には暗視があるので問題無い。ただ、シルビアはそうはいかない。

 シルビアが魔法ライトで灯りを点けようとしたが、魔法が発動しないらしい。

「魔力封じの結界か」

 灯りを点けるには入口のスイッチを操作する必要があるということだ。


 ルナが扉の鍵穴をスキャンしそれに合った合鍵を作り出して解錠した。入口に有るスイッチを入れてから再び部屋に戻ってきた。魔力結界を解除するスイッチも有るかと探してみたが、それは見当たらなかった。

 ちなみに、牢屋はこの部屋を除いて2つ有るが、他に捕らわれている者はいないようだった。念のためルナがソナーで確認して見たが他に隠し部屋なども無く間違いないようだ。


「なんだか汚いわね、この部屋」

「そうだな。取り敢えずこの部屋を綺麗にするか」

 掃除機モドキを取り出して部屋をクリーニングしていく。

「わー、ピカピカ」

 部屋が綺麗になったのを確認したシルビアは、敷物を取り出し広げた。

「取り敢えず寝るか? 布団も無いし、なんか野宿と変わらなかったな」

「そうね」





 夜が明けた頃、他の部屋の横を通り過ぎて地上への階段を上り外への扉を前にする。当然のように鍵がかかっているが、内側にも鍵穴があるので開けるのは簡単だった。


 外にでると既に明るく、天気も良くて清々しい朝だ。

 俺たちは木刀を取り出し、もはや日課となっている剣の稽古を行う。





 建屋の前で暫く稽古をしていると不意にルナが告げる。

《誰かが近づいてきますよ》

 俺たちの様子を見に来たのか、日常的な見回りなのかは分からないが一人の男ががやって来た。男は俺たちを見つけると意表を突かれたように驚いている。

「な、なんだお前ら!」

「え? 昨日の夜に宿を貸して貰った通りすがりですが」



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