14 ステータス
今、俺達は10人ほどの行列に並んでいる。
ここは王都の神殿。この神殿では、各人の持つステータスを詳細に確認することができるらしい。自分の適正を確認したり進むべき道を決めるときに皆が訪れるという。
案内所で教えてもらった情報では、有料にも関わらず訪れる人は後を絶たず、列が途切れることは少ないらしい。待っている間も俺達の後ろに列が伸びていた。
ほどなくして俺たちの番になった。
鑑定料として二人分の2万エルを払い二人して中に入る。普通は一人ずつ入るらしいが二人一緒でも構わないとのこと。親同伴で子供が入るのがいい例だと教えてくれた。
部屋は8畳ほどで、中央に机ほどの大きさの台がある。床には複雑な紋様が描かれた魔法陣が刻まれており、台の向かい側に一人の老人が立っている。
「ようこそいらっしゃいました。本日は何を鑑定致しましょうか?」
ここではステータスだけでなく、食べ物でも武器でもなんでも鑑定ができる。
「俺達二人のステータスの鑑定をお願いします」
「それでは、お一人ずつ鑑定致しますので、中央まで進み石版に順番に手を置いてくだされ」
台を見ると天板部分が大きな石版になっている。
「コメントが必要であれば一緒に拝見させて頂くことになりますが、不要であれば後ろへ下がります。如何なされますかの?」
この老人は守秘契約しているため何を見ても口外することは無いという。信用して一緒に見て貰うことにした。と言っても、口外されて困ることも無いのだが。
まずは俺からだ。俺が手を置くと魔法陣が光りだす。光が消え、手を離すと石版に文字が浮かび上がった。
俺のステータスだ。
<ステータス>
・名前:アース
・種族:人間
・性別:男
・年齢:21歳
・職業:ハンターAランク
・レベル:38
・HP:76/76
・MP:38/38
・スキル:(なし)
・魔法:(なし)
と言っても、いつもルナに見せて貰っているステータスそのものだった。
ただ、種族は本来【人間/クウォーターエルフ】が正解なのだが、サブ種族までは鑑定出来ないのだろう。
シルビアも覗き込むが、えーって感じだ。
「私もステータスって良く知らないけど、今までに聞いてたのを考えても低いような気がする」
「やっぱり低いのか」
老人が唸っている。
「うーむ、レベルの割にHPもMPも低いが、数値的には驚くほどでは無い。しかし、スキルも魔法も無いのはちと気の毒じゃ。ただ、儂としてはこのステータスでAランクハンターってことの方が驚きじゃよ。お主はステータスに現れない何かを持っておるんじゃろう。ここの鑑定も万能じゃ無いってことじぁな」
なかなか鋭いな。
前衛ハンターのAランクの一般的な数値を教えてもらったところ、レベル52、HP2400、MP150とのこと。レベル38の剣士だと、HP1300、MP80ぐらいが平均らしい。仮にレベル38の魔法師なら、HP200、MP1000だという。
俺のHPだとハンターとして良くぞ生き残ってこれたなって感じか。
まあ、色々と教えて貰えたので、見てもらった甲斐は有ったと言えよう。
次はシルビアだ。
手を置き魔法陣が光りだす。光が消え、手を離すと先ほどと同じように石版に文字が浮かび上がった。
先ほどと違うのは、その文字の多さだ。
スキルや魔法がこれでもかと並んでいる。1ページに収まらないほどの量だ。
<ステータス>
・名前:シルビア
・種族:エルフ
・性別:女
・年齢:28歳
・職業:ハンターAランク
・レベル:52
・HP:509/509
・MP:88016/88016
・スキル:
剣術3
槍術1
弓術3
刺突2
体術2
回避2
動態視力1
魔法詠唱速度5
魔法速度5
HP高速回復2
MP高速回復5
隠密3
魔法陣1
鑑定0
隠蔽:0
魔法無詠唱
MP限界無効
・魔法:
火属性:火炎矢4
火属性:火炎玉3
火属性:火炎龍3
火属性:火流星1
火属性:爆破1
火属性:加熱1
火属性:火1
水属性:水1
風属性:真空切3
風属性:潜水2
風属性:風1
地属性:重力魔法封殺4
地属性:体術魔法4
地属性:衝撃2
地属性:水泳1
地属性:重力0
地属性:緑化0
闇属性:攻撃力上昇2
闇属性:攻撃力低下1
闇属性:防御力上昇2
闇属性:防御力低下1
光属性:速度上昇2
光属性:速度低下0
光属性:照明2
光属性:状態異常回復5
光属性:治癒7
光属性:探査2
何と言うか、これを見てしまうと俺のステータスはゴミだな。
「アースよりレベルが高いって変じゃ無い? なんか私のが嘘っぽくて嫌だわー」
老人はまたもや唸っている。
「うーむ、これまた違う驚きじゃ。スキルと魔法の多さもさることながら、魔力量が常人の域を遥かに超えておる。儂はこれほどの数値を見たことが無い。いや、それどころか、聞いたことすら無い」
老人によると、魔力量は同レベルAランク魔法師の40倍、一般的なSランク魔法師と比べても20倍はあるらしい。
後衛Aランクハンターのレベル58の一般的な数値を教えてもらったところ、HP500、MP2200とのこと。
凄いぞシルビア。
§
ルキエイでの滞在ももうすぐ1ヶ月だ。
「次の町へは、ゲートを使わずに外を行ってみるか」
ゲートを使うと確かに速く移動できるが、ゲートで行ける場所だけを巡ると言うのは観光の域を出ることは無い。町と町の間には道もあれば、村や集落も存在する。小さい村や集落はゲートなんてものは存在しないという。この世界の本当の姿はそう言う所に有る気がする。
「いいわよ。歩いて行く? それとも、ヴィークでも買う?」
何か聞きなれない単語が出てきた。
「ヴィーク? ヴィークって何だ?」
「え? ヴィークはヴィークよ。ほら普通に町の中を走っているでしょ? えっと、ルナ?」
早々に説明を諦めたようで、物知り博士の出番だ。
《アースが自動車って言ってる物のことですよ》
「おお、あれはヴィークって言うのか」
この世界の乗り物は重力制御の魔法陣が仕込まれていて、空中に浮いて走るため非常に乗り心地がいい。それに、車であろうとマジックバッグに仕舞うことが可能だ。車を一つ持っていれば、歩くのに飽きたら車に乗り、車に飽きたら歩くということが可能だ。
「ヴィークか…… そうだな、それならバイクはどうだ? バイクでも二人乗りできるだろ?」
「バイクって乗ったことがないけど、なんか楽しくなさそうじゃない?」
シルビアはあまり乗り気じゃ無さそうだ。
「え、そうかなぁ? 俺にはヴィークよりも楽しそうに思えるけどな」
「うーん……」
渋っていたシルビアだがハッと顔を上げる。
「あれ? そう言えばアースって運転免許無いんだよね?」
「そう言えばそうだった」
生前は持っていたが、この世界では取ってなかった。ヴィークやバイクを購入するには免許が必要らしい。
「シルビアは持ってるのか?」
「一応あるわよ。免許取ってから運転したこと無いけど」
ということですぐさま王都に試験を受けに行った。
試験としては、前世の運転免許試験ほど難しくは無く、動かして、曲がれて、簡単な交通ルールが分かっていれば良いだけだ。交通ルールの筆記試験ではルナの助言も有って、筆記、実技共に一発合格。拍子抜けするほど短時間で簡単に運転免許をとれた。
あと、バイクの免許という概念は無いらしい。
免許を取得したその足で取り敢えずカーショップを訪れてみた。
バイクショップというものは無く、カーショップでバイクも売っている。もちろん、ヴィークも売っていて、他にもトラックやバスなんかも売っている。
いろいろ見てみるがなんかカッコ悪いバイクばっかりだ。
この世界では、単純に一人乗りの車をバイクと呼ぶらしい。中には縦に二人乗れるものもあり、これもバイクと呼ぶらしい。屋根もドアも付いていて、座席には当然のように背もたれがそれぞれ付いている。
タイヤが付いている訳じゃ無いので四輪と二輪などの違いは無く、二人が横に並んで座れるか否かで区別しているだけのようだ。形が細長なだけでそれ以外は構造も含めて同じだ。
細長であっても倒れることは無く、カーブでも重力制御で横Gを気にせず傾くこと無く曲がれるみたい。はっきり言って、そんなの全然バイクとは言えないな。
当然の如く気に入ったものは無く、どうしようかと思っていたがいい案が閃いた。
「このバイクにしよう」
「え、やっぱりバイクにするの?」
「ああ、ちょっと考えが有ってな」
二人乗りでしかも山も走れる馬力のあるバイクを購入。一般的なバイクよりも値が張ったが、ヴィークよりは若干安い。
購入した際、操作性の向上と盗難防止も兼ねて普通は魔力をシンクロさせるのだが、例によって俺には無用のものだ。
バイクに二人で乗って店を後にした。乗り心地は悪くは無いが、全く面白みが無い。シルビアの言う通りだ。
門を出て町から少し離れたところでバイクを降り、一旦バイクを異空間収納庫に入れる。
「ルナ、バイクの構造は解析できたか?」
《できました》
その言葉と同時に再びバイクが現れる。
何をするかと言うと、このバイクを解体するのだ。
シルビアが不思議そうに見てる中、俺はルナの指示に従ってバイクを丁寧に分解していく。
解体が進むに連れ、目の前に取り外されたパーツが並んでいき、ついには解体が終了した。
パーツの数は思っていたより少なく、そのため解体する時間も少なくて済んだ。
「あらー、新車だったのに見る影も無いわね」
「まあ、見てろって。この中の必要な部品だけを使って、俺が思っているバイクを作り上げるんだ」
「ふーん」
意味が分からないって顔をしている。
前世のオフロードバイクの形をイメージし構造を設計。
その骨組みに、購入したバイクから取り外した重力魔法陣ユニット、コントローラ、魔力タンクを組み合わせていく。さらに、自作のハンドル、シートなどを取り付け組み上げていく。
異空間の中で組み上げても良かったのだが、シルビアにその過程を見せてあげようと少し面倒な方法を取っている。
重力魔法陣ユニットは、前輪後輪に当たる部分にそれぞれ分けて配置。構造的に横Gには対応しないので曲がる時には車体を傾ける必要がある。シートは二人が乗れる大きさになっている。
タイヤが無いので泥除けも当然無い。骨組みがむき出しのままだが、取り敢えずはいいだろう。
「できたぞ」
「なんか変わった形してるね。元の面影が全然無いし、しかも座席も無いけど? これで本当に完成なの?」
この世界のバイクしか知らないシルビアには俺の前世のバイクは奇妙な形に見えるらしい。
バイクにまたがり座ってみる。シートの座り心地はいい感じだ。
スタータースイッチを入れるとバイクが浮上する。足が何とか着くぐらいで浮上が止まる。高さはバッチリで、安定感も良さげだ。
スロットルを回して少し走ってみる。スピード、加速、ブレーキともに問題なさそうだ。ただ、エンジン音がしないのは少し違和感がある。
段差があると上下に揺れるし、大きな段差は超えられない。まあ、この辺は前世のバイクと同じだ。
そんな様子をシルビアが感心したように見ていた。
バイクをシルビアの前に停めて声を掛ける。
「シルビア! 試運転に行こうか?」
シルビアは少し考えてから少し首を傾げた。
「私はどうすればいいの?」
どうすればって、一緒に行くに決まっているんだけど。
「後ろに乗ってくれ」
「え? 後ろって? どこ?」
「ここだよ、ここ。ここに俺と同じように座るんだ」
そう言って、俺はシートの後ろを叩いた。
「そうなの?」
シルビアは不思議そうな顔をしながらもバイクにまたがって座った。足の置き場所も教えた。
「これでいいのかしら?」
「ああ、それでいい」
シルビアの両手を掴み、俺のお腹にまわす。
「しっかり掴まってろよ!」
ようやく乗り方を理解したのか、シルビアの腕に力が入ったのがわかる。
「こうやってくっついていればいいのね? ふふ」
密着具合いが、掴まってるというよりは、もはや抱きついてるみたいだが……
まあ、落ちるよりはマシだし、そのうち加減がわかるだろう。




