11 門番
ポタメショップの店員が話を続ける。
「アースさんの魔力を認識出来なかったため、ポタメと魔力のシンクロは出来ませんでした。申し訳ありません」
詳しく聞いたところ、極稀に先天的もしくは後天的に魔力を使えない人がいるとのこと。
魔力が有っても制御できない魔力制御機能不全という病気らしい。
まあ、俺の場合は病気というのはちょっと違うと思うのだが、特に訂正せずに話の続きを聞く。
その病気だと念話はできないが音声で電話は使えるし、魔力での操作はが出来なくてもポタメを手で操作すれば問題無く使えるとのこと。ただし、音声通話の場合は、周りの音も拾ってしまうので、自分も相手も若干聞きづらくなる欠点があるという。
まあ、使えるのであればシンクロ出来なくても俺は一向に構わない。
また、最近のゲームは複雑で速い操作を求めるため魔力での操作が必須らしく、これも申し訳なさそうに言っていた。
あー、ゲームしてみたかったなぁ。
店を出た後、早速ポタメを弄ってみる。まずはルナの希望でニュース動画を見てみた。
生前のテレビと同じだ。リアルタイムの動画の他、文字ニュースなんかもある。
今後の暇つぶしにいいかもと思い暫く色々といじって見たが、俺は直ぐに飽きてしまった。
それでもルナが喜んでいるので良しとしよう。
その足でギルドに行き、ポタメの登録を行った。シルビアも登録ポタメの更新を行った。
ポタメと身分証を石板に置くだけで、一瞬で登録が完了する。
窓口にはちょうど先程の女性だったというのもあり、早速の登録ってことでかなり恐縮されてしまった。
ポタメは基本的には異空間に置いておき、異空間でも受信できるよう、またルナが操作できるよう機能を制作した。
早速情報収集を開始したようだ。たぶん24時間使い続けるんだろう。
念話もどきが出来る機能を作ってみようかと思ったが、それはまた今度でいい。どうせ電話はほとんど使わないだろうし音声通話があれば十分だ。
§
朝5時前、俺たちは門の前にいる。
昨夜に引き継ぎもしたし、依頼票に記載されている門番のマニュアルにも全て目を通したので門番の仕事内容はバッチリだ。戸惑うことはまず無いだろう。
「じゃあ、開門の準備を始めるか」
「そうね、まずは…… えっと、何だったかしら」
「んーと」
……
《初日はギルドの担当者が来るのを待つんですよ》
「あ、そうだったな」
「うん、そうだったわね。あはは」
……
俺たちが話をしながら待っていると、ギルドの職員らしき男が到着し挨拶をしてきた。
「おはようございます」
「「おはようございます」」
「アースさんと、シルビアさんですね」
「はい」
「ギルド職員のマティスと申します。本日はよろしくお願い致します」
「よろしくお願いします」
マティスさんは、かなり年配の紳士で、ギルドの制服を綺麗に着こなしている。
「初日だけになりますが、仕事内容を把握されているか確認させて頂きます。ちなみに、これまで門番の経験は御座いますか?」
「いえ、二人共始めてです」
「承知しました。手順を間違われた場合はその都度指摘させて頂きますのでご承知下さい」
「分かりました」
「それでは手順に従って開門をお願い致します」
俺たちは頷く。
《これから開門の準備をします。まずは二人で一緒に建屋の周りを点検して下さい。建屋自体に異常がないか、周りに不審物や不審者などがいないかを目視で確認して下さい。屋根の上も確認もして下さい》
俺たちは建屋の周りを一周し、備え付けのハシゴで屋根部分も確認する。
「建屋の異常なし。不審者もなし」
《シルビア、建屋の鍵を開けて下さい》
シルビアがルナから鍵を受け取り、建屋を解錠する。
《二人で建屋内の点検を行って下さい》
ルナの指示に従い、1つずつチェックしていく。
《アース、建屋から石版を出して門の横に設置して下さい》
俺は石版を重力操作で包み、門の横に運ぶ。
《二人で石版の点検を行って下さい》
これもルナの指示に従いチェックする。
《シルビア、建屋から槍を出して装備して下さい》
シルビアが建屋から2本の槍を持ちだして、1本を俺に渡す。
《それぞれ槍の点検を行って下さい》
槍の破損などが無いのを確認する。
《二人で門の点検を行って下さい》
門に破損などが無いのを二人で確認する。
《それでは門のロックを外し開門してください》
シルビアがルナから門の鍵を受け取りロックを外し、二人で扉を大きく開く。
《門を固定して下さい》
扉が勝手に閉まらないように固定する。
《門の外側の点検を行って下さい。門自体に異常がないか、不審者などがいないかを目視で確認して下さい》
門のチェックはともかく、不審者がいないかどうかについては壁自体が透明なので門を開ける前から一目瞭然だ。
「門に異常なし。不審者もなし」
《シルビア、点検で異常が無かったことと、開門したことをギルドに連絡して下さい》
シルビアがポタメでギルドに連絡する。
《以上で完了です》
「よし開門完了だ。バッチリだな」
「うん、バッチリね」
《二人共、私に頼り過ぎでは無いですか?》
『気のせいだな』
『そうね、気のせいよ』
ギルド職員のマティスさんの方を見ると、関心したように大きく頷いている。
「素晴らしいですね。指摘することが全くありませんでした。普通なら手順を間違えたり、戸惑ったり、依頼票を確認しながらで時間が掛かる人が多いんですよ? 慣れている人でもギルド職員が見ていると焦ったりしてますね。ところがお二方はテキパキと迷うことなく堂々と行ってらっしゃる。関心致しました」
「まあ、この程度なら問題無いですよ」
「Aランクにもなるとこうも違うものなんですね。さすがAランクと言うべきでしょうか」
「はは」
「夜の閉門時には再度確認させて頂きますのでご承知下さい。お二方なら全く問題は無いと考えていますが、規則ですのでその際はまたお付き合いお願い致します」
「はい、分かりました」
「それでは、私はこれで一旦引き上げます。ご存知でしょうが、お昼にはお弁当が届きますので受け取ってください。もちろん代金は不要です。何か不明点など御座いましたらギルドに連絡をお願い致します。それでは失礼致します」
「はい。お疲れ様でした」
早速、出門するハンターのパーティが来たようだ。
身分証のチェックは主にシルビアが行うことにしている。俺は石板の横に立っているだけだ。
「石板に身分証をかざしてから通ってねー」
《シルビア、石版が光った時の色も確認してくださいね》
『あ、そうね』
《まあ、私も見てますけどね》
『うん、ルナもよろしくね』
ハンター達は手慣れた感じで身分証をかざして出門して行く。石板と身分証はその度に白く光る。
「初めて見る門番だな」
「臨時の門番よ。よろしくね」
「すげー美人だな」
「ふふ、ありがと」
無言で通り過ぎたハンター達からも「綺麗」「可愛い」「ちょー美人」など、シルビアを絶賛する声がいくつも聞こえてくる。
俺もそう思う。と、その度に心の中で頷いた。
その後も、ハンター達はひっきりなしに通って行った。
7時くらいになると数えるほどになり、8時には通る人はほぼ無い状態だ。
「この時間までか」
「そうみたいね」
槍なんて初めて持ったな。
槍を改めて見てみると意外と長い。エナも流せるようだ。少しくらいは使えないと困るかもしれない。
そういえば槍術の入門書があったはずだ。ルナ、パッケージ化してロードしてくれ。
《ロードしました》
一瞬で槍術を覚えた。まあ、入門書を元にしているので初心者レベルだが。
槍をクルクル回してみる。縦に回したり、横に回したり。意外と面白いな。
「アースって、槍も使えるの?」
「ああ、ついさっき覚えた」
「えー、私にも教えて」
シルビアはロードなんて芸当は出来ないため、入門書を元に俺が手取り足取り教えることになる。
「エナを流せるか?」
「んーと、大丈夫、できたわ」
門番は朝と夕方以外は基本的に暇なので、あまった時間をシルビアの槍の練習に当てることにした。
少しずつだが、シルビアは器用に覚えていくようだ。いろいろと才能があるのだろう。最終日に槍同士で模擬戦ができるまでになることを目標にした。
そうこうしている内に、昼食の弁当が届けられた。
弁当はバスケットに入っていて、パンとおかずのセットだった。
建屋の前にある椅子に二人並んで座って食べる。
「あら、意外と美味しいわね」
「ほんとだ」
食事する時は門から離れることになるため普通は交代で食べるらしいが、俺たちは二人で食事することを選んだ。
結果的にその間は門番が不在のようになってしまうが、ルナが人の接近を監視しているので落ち度は無い。
それに、俺たちは腹が減ることは無いので交代で食べるくらいなら弁当は断ってもいいと考えている。
食事を終えた後は、槍の練習を行いつつ門番を務める。
《そろそろハンター達が戻って来ますよ》
「お、もうそんな時間か」
「続きはまた明日ね」
槍の練習を終了し、門の前に立つと、暫くしてひよっこハンター達が戻ってくるのが見えた。
疲れたような顔つきの者や、まだまだ元気な者、怪我をしている者など、特に成果を上げた者は自信に満ちたような顔つきになっているようだ。
そんなひよっこハンター達にシルビアが声をかける。
「おつかれさまー」
ひよっこ達は石板に身分証をかざして通っていくのだが、黙って通る者や、獲物を自慢する者、軽口をたたく者など、出発時の雰囲気とはいろいろと違うのが分かる。
なかなか面白いな。
どんどん戻って来ていたが、夕方6時半を堺にピタッと止まった。
もうすぐ夜7時の閉門ということで、みんなそれに合わせて戻って来るのだろう。
《マティスさんが来たようですよ》
「アースさん、シルビアさん、ご苦労さまです」
「マティスさん、おつかれさまです」
「それでは7時になりましたので閉門をお願いします」
「はい、分かりました」
《アース、シルビア、あと一組がこちらに向かっています。急いでいるようですが到着までにあと11分かかります》
『11分遅刻か』
『アース、待ってあげようよ』
『ああ、待ってあげたいな』
「マティスさん? 11分閉門を遅らせるってのは可能ですか?」
「基本的には時間厳守ですので承諾致し兼ねます…… 何故11分遅らせたいのでしょうか?」
「あと一組こちらに向かっている途中だと思うんですよ」
マティスさんは少し困惑気味だ。
「なぜ分かるのでしょうか?」
「まあ、Aランクハンターの感でとでも言っておきます」
「感ですか……」
「はい」




