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10 ポタメ

 今日はなんか面白い依頼が無いかと思い、ギルドにやって来た。この町の魔物討伐依頼は基本的に初心者用だし、魔物討伐以外の依頼が無いだろうかと、依頼掲示板を見るべくギルドの扉を開く。


 案内カウンターの横を通り過ぎようそした時に案内カウンターの女性から声を掛けられた。

「あの?」

「はい?」

 その女性は何か困っているような様子だ。

「もしかしてアースさんでしょうか?」

 なんで俺の事を知っているのだろうか。

「え、そうですけど」

 すると何故かほっとしたような顔つきに変わるのがわかった。


「ああ、やっぱりですか。ガレルさんが言ってた風貌そのままだったもので」

「ガレルが?」

「ええ、ガレルさんが探してましたよ。ここのところ毎日やってきてアースさんを見なかったかって問われていまして。ちょっとガレルさんと話をしてみて貰えないでしょうか?」

 ガレルの野郎、また喧嘩でもふっかけようとしているのか? 面倒だな。


「さん付けじゃなくアースって呼び捨てだったでしょ?」

「いえ、アースさんって、ちゃんとさん付けでしたよ。ガレルさんが誰かをそんな風に呼ぶのを私も初めて聞きましたので間違いありません。あちらの、いつもの椅子に座っています」

 受付の人が手で指し示す先を見るとガレルがいた。下を向いて大人しく座っているようだ。仕方が無いなと思いながらガレルの方に向かう。


「ガレル」

 そう呼ぶとガレルはびっくりしたように顔を上げた。

「アースさん!」

 おっと、ほんとにさん付けだ。拍子抜けだな。

「探してたって聞いたけど?」

 ガレルはさっと立ち上がった。

「はい! 俺、アースさんのおかげで目が覚めました。この町を出てもっと上を目指そうと思います」

 なんだよ、ちゃんと喋れるじゃないか。


「お、そうか。立ち直りが早いな」

「一言お礼が言いたくてアースさんをずっと探してました。あんな俺なんかにちゃんと向き合ってくれて、ありがとうございました」

「そんなに下手に出られるとなんか変な気分だな」

「それと無礼を働いたことをお詫びします。すみませんでした」

 なんか、別人に変わってないか? あの時、頭は狙わなかったよな?

《大丈夫です》


「ああ、俺は別に気にしていないから。そもそも、Cランクになったお前がなんでこの町でうだうだやってたんだ?」

 ガレルは一呼吸置いて返事をする。

「Cランクになった後、Bランクを目指そうと一旦は町を出たんですけど、パーティに入ってもうまくいかずに腐ってたんです」

「パーティでうまくやるのも試練の内だ。ガレルは才能あるんだしそこさえ乗り切れば一気に行けると思うぞ?」

 素直に頷いている。

「はい、もう一度チャレンジしてみようと思います」


「これからの事は考えたのか?」

 ガレルは少し離れた所に居る仲間をちらっと見た。

「はい。今の仲間の面倒を一ヶ月ほど見てから、ロウエスに行って修行をしようかと思っています」

「そうか、頑張れよ」

「はい。頑張ります」



「アースさんはこの町に何を?」

「まあ、旅の途中で立ち寄っただけだな。あと半月ほどはいる予定だけどな」

「そうなんですか。それで、今日は?」

「面白い依頼でもないかと思ってな」

「へー、アースさんってどんな依頼を受けるんですか? ここらの魔物じゃ物足りないですよね?」

 どんな依頼が有るのか俺が質問したいぐらいなんだが。


《アース、門番の依頼がありますよ》

【1番:Cランク依頼:門番(朝5時~夜7時 7日間) 日給1万エル 2名急募 限定条件:Cランク以上】


『シルビア? この門番でもいいか?』

『ええ、いいわよ』


「見たところ門番の依頼が出てるようだし、それを受けてみようかと思ってる」



 依頼窓口に並ぶと、直ぐに順番が回ってきた。

「1番の門番の依頼を俺たち二人で受けます」

 窓口の女性が俺たちをじっと見つめる。

「えっと、これはCランク以上限定ですが、よろしいですか?」

「はい、大丈夫です」


 女性は少し呆れ気味だ。

「…… んと、通常の依頼の場合は自分の1つ上のランクまで受けれますが、これは限定されていますのでDランクでは受けれません。必ずCランク以上である必要があります。よろしいですか?」

 なんかぶっきらぼうな喋り方になってきたな。

「はい、大丈夫です」

《ランクを疑われていますね》

 そのようだな。


「…… えーっと…… 分かりました。それでは登録しますので身分証をこの石板にお願いします。その際にランクを確認させて頂きますよ? それでは、お二人順番にお願いします」

 俺は言われた通り身分証をかざす。

 その女性は石板に表示されていく様子を冷めた目で見ている。


「えーっとですね…… え?」

 窓口の女性が一瞬目を見開いたのが分かった。

「え、Aランク……」

 続いて、シルビアもかざす。


「こ、こちらのお方も、Aランク…… こ、こここ、これは失礼しました」

「受けられるってことでいいでしょうか?」

「も、もちろんです。こ、こちらが依頼票になります」

「はい」


 依頼票を受け取り、立ち去ろうとしたが女性は何か言いたそうにしている。

「あ、あ、あの……」

「はい?」

「え、えーと、ア、アース様はポタメのご登録が無いようなのですが…… えっと……」

 ポタメと言うのは、スマホみたいなものだ。俺は持っていないがシルビアは持っている。

 ポタメを登録しているのが普通らしく、門番などギルドと連絡を取り合う必要がある依頼の場合は登録が必須らしい。シルビアは元々登録してあるとのこと。


「俺とシルビアは常にいっしょにいますので、シルビアが登録しているポタメで俺とも連絡は取れます。それだとダメでしょうか?」

「そ、そうですね。それで大丈夫だと思います。申し訳ありませんでした」

「いえ、謝るようなことじゃ無いと思います。ポタメを買ったら登録しときます」

「あ、有難うございます!」


 門番の依頼については、今日の夜7時に引き継ぎを行うとの説明を受けた後に窓口を後にした。


 ガレルが近寄ってきた。

「アースさんってAランクだったんすか? さっきの窓口での会話を聞いてしまいました」

「まあ、そういうことだ」

 ガレルは、はぁと溜息のように息をはいた。

「そりゃ勝てるわけないか…… 俺も無謀なことをしたもんだ」

「ガレルだったら頑張ればAランクになれると思うぞ。道のりは厳しいけどへこたれるなよ?」

「はい。そうなれるよう頑張ります」

 俺は満足気に頷いていた。



     §



 ポタメショップに来てみた。

 俺はポタメなんか要らないと考えたのだが、ルナがどうしても欲しいと言うし、シルビアも最新式に買い替えようかなと言うし、受付で毎回同じ話をするのも確かに面倒なので、まあ、渋々ポタメを買いにやって来た訳だ。


 生前は俺もスマホを持っていたが、使い道は電話、時計、財布ぐらいであり今現在はルナが居るのと身分証が財布になっているのでその必要性を感じられない。タブレットは結構使い倒していたのだが、これも今現在は必要性を感じられない。

 そんな訳で購入にはあまり興味が無いが、どんなポタメが有るのかは結構気になっていたので、見るのは楽しかもと思っている。



 少し見ていると女性の店員が近づいてきた。

「いらっしゃいませ。ご購入をご検討でしょうか?」

「ええ、俺が新規購入で、こっちの女性が買い替えです」

 説明によると、ポタメの大きさはいろいろあるが今は掌サイズが主流らしい。

 形は似たり寄ったりだが、色や柄が異なっているものがある。見た感じはどれも生前で見たスマホに似ているので驚きはさほど無い。


「ポタメには精密な魔法陣が組み込まれていまして、その魔法陣の性能によっても値段が違うんです」

 魔法陣でここまで複雑なことが出来るとは思ってもいなかった。魔法陣と言えば、炎を出したり結界を張ったりトラップを発動したりと単一の事を行うイメージが強いのだが、ミクロレベルで複雑に入り組ませることでCPUのようなものを実現しているのだろう。


「ゲームをするなら高機能版がお勧めですよ」

 店員は値段の高い高機能版を押してくるが、そもそもゲームなんてする気はない。


 動力源は魔力で、一般的な若者の使い方であれば二ヶ月以上は魔力の補充無しで使えるとのこと。24時間使い続けても20日は持つと言う。

 魔力の補充は、自宅にある汎用魔力補充器で補充する他、自分の魔力での補充も可能とのこと。

「ゲーム中に魔力が切れないようにするには、こまめに補充するのがいいですね」

 いや、ゲームしないから。


 俺は魔力の補充は出来ないのでシルビアにお願いすることになる。シルビアが自分のポタメに補充する時に俺の分も補充してもらうことにしよう。

 どうせ買うならと、高機能版を選択。値段はかなり高めで11万エルだ。シルビアも同じ物の色違いを購入した。

「これならゲームはバッチリですよ」

 店員は満面の笑みでそう言った。


 ……


 ポタメで何ができるかはダウンロードするアプリによるらしいが、俺はまず使わないのでルナが主にニュースや地図などの情報収集系を使うことになるだろう。


 料金は月額千エルで、それに加えて通信料として1時間100エルの従量課金制とのこと。もし24時間使い続けると月額7万3千エルってことだ。


 支払い方法は口座からの自動引き落としの一択だ。

 ハンターになるとギルドに口座が無条件で作られる。もちろん俺にも口座が作られているが使ったことは無い。貰った報酬は現金のまま身分証に直接入るため今まで全く気にしていなかった。

「アースは口座は使ってないの?」

「ああ、使ったことが無いな。使う理由が無かったしな」


 報酬を受け取る時も身分証渡しと口座振り込みのどちらかを選べるらしい。

 身分証の中の設定項目を見ると確かに身分証渡しにチェックが入っている。口座の方の残高の項目を見ると当然の如く0エルだ。

 ポタメショップでも口座への入金はできるとのことで、取り敢えず100万エルを入金してみた。

 口座残高が100万エルの表示に変わった。

 ポタメの月額料金はギルドの口座からの自動引き落としになるので、滞納にならないよう今後の報酬の受け取りを口座振り込みに設定変更した。



「次にポタメを同期シンクロさせます」

 シンクロを行うことで、持ち主はそのポタメで念話が可能になり、さらにポタメに触れずともポタメを操作することが可能になるらしい。つまり自分専用のポタメになるってことだ。

 シルビアが先にシンクロを行う。なんかよく分からない装置にポタメを置いて、その装置にシルビアが手を置く。少しするとシンクロが完了したと言っている。簡単な作業だ。


 次に俺も同じことを行う。

 シルビアよりも長く手を置いていたが、店員から手を離すよう言われた。シンクロが完了したのかと思ったが、神妙な顔した店員が重い口を開く。

「シンクロできませんでした」



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