プロローグ
虚しくなって傘をさした。
雨が降っているわけではなく、かといって日差しが強いわけでもなく、ただ傘をさして、人の視線をさけた。
息苦しい。なぜぼくは、こんな場所で息をしているのだろう。
雨が降っている。ぼくは傘を差さずに雨に身を委ねる。
この公園には常日頃からこどもがいない。閉鎖的で暗いふんいきを醸し出すさびた遊具と、帰るべき家がない人、そしてベンチに座ってるぼくしかこの公園にはない。“まとも”な人を寄せ付けない、そんな空気がする。だからぼくはきっと、多分まともではないのだ。
携帯が、ポケットの中で振動する。
『件名:なし 本文:今日も帰りが遅くなるから、冷蔵庫のおかずをあっためて食べて。』
母からのメール。ぼくはそれをゴミ箱に捨てる。決して母に恨みがあるわけではなく、単なる自己満足に過ぎない行為だ。不思議と心が軽くなる。冷蔵庫のおかずはおそらく冷凍食品だろう。ぼくは冷凍食品の、機械的な味が苦手だ。
虚しくなったが傘はあいにくもっていない。今日の天気予報はあくまで曇りで、雨が降るとは聞いていない。
ぼくは真面目だ。真面目だが、勉強はまるで駄目。ただ、地味なだけかもしれない。その証拠に、友達とよべる人はいない。今は9月24日の午後2時。まともな高校生なら学校にいる時間帯だ。もう一度言っておくがぼくは真面目だ。不良という言葉には擦りもしない。
ただ、時々惨めになるのだ。自分そのものが。何を目標に生きているわけでもなくただただ生きているのは無意味な気がしてたまらなくなる。遊べる友達もなし、部活に所属しているわけでもなし、志が高いわけでもなし。そんなぼくが生きているのは母の迷惑になるのではないか。ぼくを育てるためのお金を、朝早くから夜遅くまで稼いでくる母の努力を、ぼくはないがしろにしている。
こんな奴、いっそ….
頬が濡れているのは多分雨が降っているからだろう。
考えることが嫌になって土をみる。これ以上、考えることはよそう。やめようと思うのに、考えが気持ちを先行してくる。
雨が急に止んだが、雨音はまだ続いている。
顔を上げると、人口的な青が、ぼくを包み込んでいた。
果てしなく青空に近いあお。
「風邪ひくよ。」
陽の光を当てたような少女の笑顔。少女は傘をぼくにおしつけると
いつのまにか少女は姿を消していた。
ぼくの雨は止んだが、雨はみずたまりに模様をのこす。
そのときは何も考えられなかった。考えるべきことが、みつからなかった。