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カミサマが助けてくれないので復讐します  作者: つくたん
ミーニンガルド
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カミサマが助けてくれないので復讐します

吉日。フィントリランドの王城でそれはなされた。

「ビルスキールニル皇女、アッシュヴィト・ビルスキールニル・リーズベルトの名において」

いつもの砕けた片言ではない、きちんとした発音で宣言したアッシュヴィトは壇上に登る。一段高く据えられた壇上には机が置いてあり、その上にはインク瓶とペンが備え付けられている。そして同盟の条約全文を記した書状も。この書状にそれぞれ領主にあたる人物が署名をし、そして同盟は締結となる。

羽根ペンを手に取ったアッシュヴィトは書状に名を書きつける。普段の軽薄さからは想像もできないほど綺麗な筆跡で署名し、ペンを置いて壇上から降りる。

「我が続こう。ゴルグ領主、ディノ・ゴルグ・アルベルティーナ。同盟に署名する」

厳かに宣言した後、機工都市ゴルグの領主は壇上に上がる。力強いながらも繊細な筆跡で書状にサインをした。

「あいあい。それではなれば我も続きましょう。ミーニンガルド領主ナクアブル・ミーニンガルド・ヤチェ。偉大なる海竜王ナルド・リヴァイアの名を添えましょう」

ゴルグの領主と入れ違いで壇上に登ったミーニンガルド領主は流麗な墨痕を書状に残す。そのままペンをインク瓶に挿すことなく、そのまま次に手渡した。

「…む」

「ほらほら。受け取り受領したまえや」

鷹揚に笑ったミーニンガルド領主はペンを無骨な手に押し付けた。くすくすと笑い、そして風のようにするりと壇上から降りた。

「……クロークヘイズ領主。グレイグ・クロークヘイズ・グレイフ」

手渡される際に触れた手が妙に熱い。などと私情に浮かれている場合ではない。ただでさえ無口なクロークヘイズ領主は普段よりも口元を引き締めて署名する。次に手渡すことなくペンをインク瓶に挿した。

「なんだ、あそこの恋路はまだ実らんのか」

どこからか聞こえたぼやいた声は無言で睨みつけて黙らせた。

気を取り直して、と小さなスルタン族のエルジュ領主が壇上の上に据えられた踏み台に登る。踏み台がなければ机に手が届かないのは少し厄介だと自らの身長を少し恨んだ。

「エルジュ領主。己が名はユトリロ・エルジュ・ベヘムト。条文、相違も異議もなし」

小さなスルタン族の手にはペンも少し大きい。だが堂々とした筆跡でしっかりと名を連ねる。

よっこいしょ、と大仰にぼやいて踏み台から降りるエルジュ領主と入れ違って、フィントリランド領主である女王が壇上に登る。

「バーシア・フィントリランド・ルーシャ。我はフィントリランドが領主。同盟に署名する」

真っ赤な口紅で彩られた唇でそう告げてフィントリランド領主は書状にゆったりとした筆跡を残す。たっぷりとインクをつけたせいで墨痕がわずかに滲んだ。

「ラピス諸島領主アルクス・ラピス・サイト。同盟に加わります」

まだ彼女の娘であるラピス諸島の巫女は自我を取り戻さない。今はミーニンガルドに身柄を預けているが、この同盟の締結式が済めばラピス諸島に送還される。

それだけではない。先日の襲撃の復興も残っている。その苦難に手を伸ばしたのがここにいる面々だ。ゴルグは優秀な技術者を派遣して建築物の復旧に手を貸したし、フィントリランドは豊富な農作資源を無償で提供した。エルジュは義援金を送ったし、ミーニンガルドやクロークヘイズからも支援物資が届いた。

その恩に報いるため、そして娘のため、ラピス諸島領主はこの場に参列した。

「以上7都市国家による相互防衛同盟を結成する」

応、と一同が頷いた。それらをゆっくり見回したアッシュヴィトはひとつ頷いて大きく息を吸った。

「それでは保証人、前へ!」

呼ばれ、猟矢はそろそろと壇上に上がった。緊張した面持ちでペンを手に取る。叩き込まれた手順通りに署名欄に名前を書く。ふぅ、と息を吐いてペンを置いて壇上から降りた。

全員の署名が終わったのを見届け、アッシュヴィトはよく通る声で凛として言い放った。

「…それでは、これをもって相互防衛同盟"コーラカル"を締結する!」


ディーテ大陸の相互防衛同盟"コーラカル"の結成の報道は瞬く間に世界を駆け巡った。

"コーラカル"とは鐘を意味する。鐘というものは時間の区切りを示すもの。つまり、パンデモニウムの支配という時代を終わらせ新たな時代の到来を示唆する。鐘の名を持つそれはパンデモニウムへの反撃の狼煙だ。

それらに対し、各国は立場を表明する。成り行きを見守るとキロ島領主は中立の立場を示し、ベルミア大陸の諸国は傍観しつつもパンデモニウムに恭順を示す声明を発表。南西の果てにあるクレイラ島は対応を検討するとの回答を発して問題を先送りにした。

新たな同盟の結成に多少なりとも世界は動揺した。傍観する者。恐々とする者。嬉々とする者。様々な反応が入り交じる。

しかし、肝心のパンデモニウムの反応は沈黙。まったくの無視であった。それはまるで、その程度など歯牙にもかけないといったように。その程度で揺らぎはしないと言いたげに。

その沈黙の回答がパンデモニウムの空恐ろしさを示唆する。強大さと恐怖を象徴するようであった。


これは終わりではない。始まりなのだ。

神が助けてくれないがために行う復讐のための。

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