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カミサマが助けてくれないので復讐します  作者: つくたん
ミーニンガルド
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引波

「と、いうわけで、だ」

不意にハーブロークが口を開いた。

すべて終わった。ナルド・リヴァイアに桟橋ごと押し流されたノーラは抵抗することなく波に飲み込まれた。ナルド・リヴァイア自ら牙にかけたわけではないので確証はないが、あの荒波渦巻く海に落ちて生身で生き残るとは思えない。浮かび上がるため抵抗もしないだろう。ノーラは死んだといっていい。

そこから領主ナクアブルの屋敷に招かれ、談話室に通された。今は、意識と知識を抜き取られた巫女を医者が診ている。その結果待ちだ。

巫女は一体どうなったのだろう。どうなるのだろう。不安が満ちる空間を打ち破るように不意にハーブロークが口を開いた。

「改めて自己紹介しておこうか。俺はハーブローク・ヴィル・アドニル」

ベルベニ族ではないが、恋人であるバルセナに倣ってベルベニ族の名乗りを用いている。無造作に後ろに流した髪は鷹の尾羽根と同じ色をしていて、確かにベルベニ族のものではない。ベルベニ族ならば鮮やかな色を持つ。

「あのクソみたいな双子の呪いを解いてくれてありがとうな」

「ドウイタシマシテ」

アッシュヴィトに小さく頭を下げる。彼女が従える水神のおかげで呪いが解けた。呪いを解いてくれたアッシュヴィトにもだが、感謝したいのはダルシーにもだ。おかげで愛しい恋人が復讐という暗い道に走るのを止められた。代わりにとどめを刺してくれたダルシーには感謝しておきたいところだ。

「……それはどうも」

普段よりダルシーが素っ気ない。嫌っているというより呆れているという風体だ。なにせこのハーブロークという男、領主ナクアブルの屋敷に招かれてからというものやたらバルセナにくっついている。バルセナもまんざらではなさそうで、べたべたとくっついてくるハーブロークを払い除けも引き剥がしもしない。

4年も人間らしい恋人同士の触れ合いがなかったのでその反動なのだろうが、見ているだけで胸焼けがしてくる。

まったくこいつらは。これからこんな光景を毎日見せられるのかと思うと気が重い。はぁ、とダルシーが溜息を吐くと同時に、がちゃりと樫の扉が開いた。ナクアブルと、それに連れられた女医が談話室に入ってきた。診察が終わったのだ。

「さて…ラピス諸島が巫女、ヴェイン様の容態ですが」

女医の表情が明るくない。相当深刻なのだろう。ごくりと固唾を飲んで続きを待つ。

曰く。外傷はまったく見受けられない。栄養失調などもない。着ているものも悪い素材ではなく、むしろ巫女という地位にふさわしく少しばかり高級なもの。つまり人質ながらもそれなりに大事に扱われていたらしい。暴力を振るわれたり乱暴なことをされていたといったようなことはない。

身体は問題ない。だが問題は精神の方だ。パンデモニウムによってなされた意識と知識の抜き取り。これが厄介だ。どんな武具をもってしても治せはしないだろう。それをなした武具を破壊し、抜き取られた意識と知識を奪還しない限り元には戻らない。

「デモ、サツヤにはあのチカラがあるよ」

まだ回数は復活していないが、"キャンセル"の能力がある。すべての事象を打ち消す力だ。それがあればヴェインは元に戻るのではないだろうか。

縋るようなアッシュヴィトの視線に猟矢は緩く首を振る。確かに"キャンセル"はできるかもしれない。元に戻るかもしれない。だが、あの力は事象の否定ではない。事象の先送りだ。仮にここで"キャンセル"してヴェインの意識と知識を取り戻したとしても、再び同じ運命が回ってくる。それがいつになるかわからないが、運命の帳尻を合わせるために2度目が必ず訪れる。つまり"キャンセル"することは猟矢自身の手でヴェインから意識と知識を奪い取ることと同義であるといえる。

「それにねぇ、それはできないんだ!」

猟矢にしか聞こえない声が聞こえてくる。道化の声だ。この重苦しい雰囲気にそぐわない道化の声は軽快に告げる。この状況を面白がっているかのように。

"キャンセル"するにはあまりにも運命が隔たっているというのだ。抜き取られたことを"キャンセル"すれば意識と知識が戻るというなら、今パンデモニウムの手元にあるヴェインの意識と知識はどうなる。同じものが別の場所に同時に存在することになる。ひとりの意識が並列に別の場所に存在することはありえない。だからその"キャンセル"は無効となる。

ではそのヴェインの意識と知識を抜き取った武具の存在を消せばいいと思うだろう。だがそれはそれで問題が立ちはだかる。猟矢はその武具が何かを知らない。知らないものは"キャンセル"できない。術者である猟矢がはっきりと"それ"と認識したものしか対象にならない。

つまり、どうあがいても不可能なのだ。直接パンデモニウムの拠点に乗り込み、それをなした武具を破壊しない限りは。それ以外の手段はない。結局はそこに帰結する。

「そっか……そうナンダ…」

希望が打ち砕かれた顔でアッシュヴィトは呟く。もしかすれば、と思っていたのだが。落ち込んだ様子のアッシュヴィトに、良い知らせもあるのよ、とナクアブルが告げた。

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