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カミサマが助けてくれないので復讐します  作者: つくたん
ミーニンガルド
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狂信者の理性

宣言する。猟矢の魔力が拡散した。見えぬ衝撃が周囲を走った。猟矢を中心にして、ぴんと空気が張りつめた。

その瞬間、ノーラが収斂していた魔法が消失した。それだけではない。ダルシーの持つ大剣も、バルセナの握る六尺棒も、ハーブロークが構える大槍も元のアクセサリーに立ち戻っていた。側に控える闇馬アムドゥシアスの姿もない。

「これは…」

猟矢は何をした。アルフが周囲を"観測"しようと、ゴーグルをつけた目で首を巡らせる。しかし何の変化もないように見える。否。違和感にすぐに気付いた。

アルフのゴーグルは魔力を観測し武具を鑑定し見定める。読み取った内容はアルフの視界にチャートとして表示される。そのゴーグルをつけているはずなのに、"観測"の結果が表示されないのだ。

「ティアマト?」

隣にあった気配がない。不思議に思ってアッシュヴィトが振り返る。しかし水神の姿はなかった。それどころか、水神を呼び出している間ずっと出現しているはずの石門がない。召喚を解除した覚えなどないのに、"インフェルノ"は指輪に戻っていた。

「…なん」

「"狂信者による理性"」

練り上げていた大魔法が消失した。そのことに目を見張るノーラに告げる。

"狂信者による理性"。それは、その場にあるすべての武具の発動を打ち消すという効果を持つ。それはまるで神を狂信する信者が理性を取り戻し正気に帰るように。武具という存在を狂信し依存する人々に理性を与えて武具の使用を放棄させるように。

それでもって、この場にあるすべての武具の発動を打ち消した。持っていた武器は装飾品に戻るし、練っていた大魔法も消失する。召喚していた神すら打ち消す。

「嘘でしょう…?」

魔法が消えた。また再び練って発動するだけの魔力は残っていない。命を対価にしても威力が足りない。愕然とノーラが呟く。これではどうやって仇を討てばよいのか。何もできない。何もできないというのか。仇を取ることもできないのか。一矢報いることすら。

否。だめでもやるしかない。ここで心折れて頭を垂れるなどノーラにはできなかった。たとえ届かなくてもやれることはやり尽くさねば後悔が残る。

「再臨せよ、終端の王と始源の神に成せし、遥けき時の彼方にて揺り籠で眠りし神の子よ」

だが、それすらも。

「ごめん。……"狂信者による理性"」

その必死の抵抗ですら、"歩み始める者"は踏みにじっていく。打ち消していく。残酷なほどはっきりと猟矢は言い放った。

その能力を思いついたのは今しがた。だが、元々の構想自体は頭のなかにあった。1日1度だけ使える"キャンセル"の力を、限定的でいいから何かしらで発動できないか。

そもそもこの世界の構造を聞いた時、素直な感想として猟矢は思ったのだ。あまりにも武具に頼りすぎていないだろうかと。武具は確かに便利だ。だがそれに依存しすぎている。猟矢とてそれに頼っている。あの手帳は素晴らしい。書いたことは整理され誤字は自動で直される。だがそれでは猟矢自身の文章能力が失われてしまう。推敲の技術が手帳によって奪われてしまう。

ただ火を起こすだけだってそうだ。卵型の武具を薪にかざすだけ。それだけで赤子でも火が起こせる。火打ち石を打ち合わせて火を起こすなどという概念はもう古いものだ。火打ち石という知恵は武具にとって変わられた。

そうして神は武具を通じて人間から知恵や力や技術を奪い取っているのではないか。邪推かもしれないが、そんな危惧さえしてしまう。だから目を覚まさせてやるのだ。武具に依存し狂信する者たちに、知恵と技術という理性を与える。


「面白い。だから生き飽きぬのよ」

そう呟いたのは神殿の最上階から事態を見守っていたナクアブルの口を借りてひとの言葉を話したナルド・リヴァイアであった。

その声はよく透った。神殿の最上階からの声など叫ばねば桟橋には届かない。だが不思議なことに、その小さな呟きは明確に桟橋まで届いた。

「人の子よ。このナルド・リヴァイア、我が蒼き力を貸そう」

手始めに万物を押し流し浄化する力を見せるとしよう。まるで両手を掲げるようにひれを広げ、青き海に呼びかける。くねる鱗が擦れ合う。この咆哮は。

「ちょっ……まず…!!」

この咆哮はナルド・リヴァイアが波を起こすためのもの。ナルド・リヴァイアはこの桟橋を海に飲み込む気だ。非常にまずい。

海竜の加護がある神殿に波は届かない。だがそこまで走る余裕はない。まずい、と思ったアッシュヴィトの視界に青い鱗がもうひとつ。ナルド・リヴァイアよりいくらか薄い鱗は番の雌竜ナルド・レヴィアのものだ。ぐるりと螺旋を描くように海中を泳いだナルド・レヴィアは自らの水の力でアッシュヴィトたちを泡の結界の中に閉じ込める。これで大海竜の大波は免れる。穏やかな金の目が一瞬猟矢を見た。

泡の結界が展開されたのを見届け、鱗を打ち鳴らし大波を伴ってナルド・リヴァイアは桟橋を飛び越える。大波で桟橋ごと飲み込む。ばきばきと木の桟橋がひしゃげて割れて端から崩壊していく。ミーニンガルド側から神殿側へと徐々に迫りくる崩壊を前に、ノーラはそっと目を閉じた。

「姉様…」

ずっと、あなたのそばに。


どぼん、と一人の女の身体が波に飲まれた。

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