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カミサマが助けてくれないので復讐します  作者: つくたん
ミーニンガルド
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賢鷹、舞い降りる

「ヴィト、あの双子を海に突き落として!」

「え? え、あぁ、うん!」

対抗できる手段がひとつだけある。そのためには踏まなければいけない手順がある。そのためにバルセナはアッシュヴィトに請う。正確には、アッシュヴィトを通して水神にだ。

あの双子の死体を海に突き落とし、その死体を海流で引き裂けと。海竜ナルド・リヴァイアにそれをなすよう命令せよと。

「…っ、ティアマト!!」

「了とした、我が愛しき主」

呪縛の呪いのせいで水神ティアマトも動けない。だが、声は出せる。声が出せれば十分だ。水神として、眷属の海竜に命令を発行できる。

眷属の海竜の番よ。波で桟橋を洗い、その高波でふたつの死体をさらえ。水底に引き込み、海流で引き裂け。闇より暗い水底に沈めてしまえ。

どぽん、と波が立った。波濤は桟橋に転がったままあの死体をさらう。海中に落ち、沈みゆく双子の身体をナルド・リヴァイアとナルド・レヴィアの牙が裂く。食いちぎり、噛み潰す。海水に赤色が混じった。

その牙に引っかかった銀色。躊躇なくナルド・リヴァイアはその武具を噛み砕く。倒錯の呪いをもたらした武具を。ばきん、と銀が砕けた。

その途端、頭上を飛ぶ鷹の身体が閃光に包まれた。まばゆい光に怯んでシャオリーが足を止める。一瞬の閃光。そして桟橋にひとりの男が現れた。

「ふぃー…」

鷹の尾羽根と同じ色をした髪を後ろに流した図体のでかい男だ。鍛え上げられた筋肉がずっしりとした印象を与える。猛禽のような金色の瞳が真っ直ぐシャオリーとノーラを見据えた。

ハーブローク・アドニル。この男こそが倒錯の呪いによって鷹に姿を変えられたバルセナの恋人である。武具が砕けたことで呪いが解け、本来のひとの姿を取り戻した。

「この状況でまともに動けるのは俺だけってのも…病み上がりにさせるにはきつくねぇか?」

「それでしたら皆さんと同じように呪縛にとらわれて動けなくなってしまって構いませんよ」

ねぇ、と目潰しのような閃光から立ち直ったノーラがシャオリーに指示をする。いびつな返事をしたシャオリーは再び剣を構えた。

「やってしまいましょう、姉様」

「そう、ね。そう、する、わ」

まるで人形のように直線的な動きで剣を振りかぶる。交錯する寸前、双剣の一撃を重厚な槍が押さえ込んだ。まるで夜闇のように黒い大槍は盾のように剣を受け止めた。

「やれやれ、そんな動きでこの俺が斬れるかよ」

あまりにも単純な軌道。簡単に受け止められる。背後からの突然の登場と不意打ちでなければバルセナたちとて難なく避けられていただろう。

渾身の踏み込みを右手だけの振りで払ったハーブロークは首に下がった無骨な鎖を左手で握る。トップには黒とも紫ともつかぬ色の鉱石が飾られていた。

「闇に在りては闇なる光」

魔法陣が展開する。魔力とともに紡がれる文言は複雑な手続きを口頭で済ませるもの。すなわち、異界に棲む生物を喚び出し使役するための詠唱。

「震えろ。……闇馬"アムドゥシアス"」

来い、と喚び出したのは影を切り取ったような漆黒の一角獣であった。額にある角は禍々しく湾曲し、まるで剣のように薄く鋭い。4枚の被膜の翼は、まるでたった今生まれた子馬のように粘液で濡れている。

その大きさは足だけで長身のハーブロークをはるかに超える。巨大な体躯を持つ巨大な一角獣は、高らかにいなないて地を蹴った。風を切るように駆け、頭を振り剣のような角を振りかざす。まるで漆黒の衣装に身を包んだ騎士が剣を振り上げるように。

「っ……!」

それをすんでのところで避ける。だが操られ意思を失い、迫り来る角を反射で避けただけのシャオリーには次の一撃に対応できなかった。闇馬アムドゥシアスの巨大な体躯に隠れて突き出された槍の一撃に。

「姉様!!」

絶叫がした。重く鋭い槍がシャオリーの体躯を捉えた。

「…なめ、ない、で。私は、パンデモ、ニウム、が、カーディ、ナル……」

"呪殺"の名は伊達ではない。双剣で重い一撃をどうにか受け止めた。ぎりりと拮抗させて食いしばる。だが細く華奢な女性の体では屈強な男性の力は受け止められない。

「見上げた根性だ」

いつも頭上から見ていた。だからシャオリーの実力は知っている。どういう動きの癖があるかも。

女性の全力と男性の片手間の力。ほんの少し力の入れ方をずらせば、簡単にバランスは崩れる。拮抗する刃の角度を変える。バランスを崩してよろめいたシャオリーの腹を蹴った。がくりと膝をついた横っ面をさらに引っ叩く。思わず取り落とした双剣を重厚な槍で突いて叩き割った。

これで猟矢たちの身体を戒める呪縛の呪いは解けた。動けるようになった途端、動けるようになった途端、ダルシーは氷剣"ラグラス"を振り上げた。桟橋を濡らす海水に干渉してシャオリーの足元を凍らせる。足ごと凍りつき、動けない絶好の好機。それを猟矢の弓が狙う。狙いはシャオリーではない。その背後にいるノーラだ。

「相容れないというものはつらいですね」

下手に動けない。動けば矢で射抜かれ槍で貫かれ六尺棒で叩きのめされ大剣で切り刻まれ水神に殺される。それをするための手順はすでに"観測"されていて対抗する術などない。

非常に困った。こういう絶対的不利な時、シャオリーは迷わず撤退を選ぶがそれすらさせてもらえはしないだろう。転移武具を持っているシャオリーとは少し距離があり、2人まとめて移動するには転移魔法の効果範囲が足りない。ちなみにノーラにそれを起動する適性はない。

さて、どうするか。その拮抗を破ったのは傍観に徹していた偉大なる海竜であった。

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