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カミサマが助けてくれないので復讐します  作者: つくたん
ラピス諸島・再
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万魔が歌う

「やぁ」

「やぁ」

一音ぶれることなく揃った声で声をかけられた。

姉と慕うシャオリーの世話をしなくてはいけないのに。かけられた声を煩わしく思いながら彼女は振り返った。

そこにいたのはまったく容姿が同じ双子。まるで鏡写しのようにどちらか片方を複写したかのような。それぞれの右肩と左肩にはカーディナル級の証である入れ墨が彫られていた。

「あら…端役のレッター級に何か御用でしょうか」

彼女はパンデモニウムの中でも下っ端のレッター級。対するあちらはカーディナル級。上官に無礼があってはいけない。表面を繕いながら彼女はふたりのカーディナル級に問うた。

「"呪殺"の様子はどうだい?」

「"呪殺"の様子はどうだい?」

揃った声は揃った動作でシャオリーの調子を尋ねる。オーダーであるネツァーラグに命令違反の制裁を受けたシャオリーはその回復のためしばらく寝込んでいる。

「ようやく自分の過ちを認めてくださいましたよ。…それで?」

まさかシャオリーの様子伺いだけが用事ではないだろう。さっさと本題に移ってほしい。シャオリーの看護があるというのに。

「お伺いを立てようかと思ってね」

「お伺いを立てようかと思ってね」

曰く。"破壊神"を創造するための研究の一環としてナルド海の荒ぶる雄竜が必要という狂気の研究者(ラットゥン・アップル)たちの要請に応えて彼らふたりはミーニンガルドに赴かねばならないのだという。

だがディーテ大陸の担当はシャオリーである。その成果は奮わないが、とにかくディーテ大陸の支配に関してはシャオリーの領分だ。だからミーニンガルドに赴く前にシャオリーにそのことを伝えておこうと思ったのだと双子は語った。

「姉様は好きにしろと仰ると思いますが…わかりました、伝えておきますね」

今は回復に忙しく構っている暇がないから好きにしろ。そう言うだろう。

よろしく頼むよと双子の言葉に彼女は微笑んで頷く。どうかご武運をと言い添えて頭を下げた。


「ということがありましたの、姉様」

「…そう」

あの雄竜をどうにかできるとは思えないが。あの雄竜は荒ぶる海そのものだ。時化という概念を信仰で受肉させたもので、そのあたりにいる動物などとは違う。神そのものではないが、神に近いものだ。人間に扱えるものではない。怒りの津波で返り討ちにされて終わるだろう。ミーニンガルドもついでに流されるだろうが。

「伝えてくれてありがとう、少し眠るわ」

「はい、おやすみなさいませ、姉様」

まだ怪我が痛むのだと言ったシャオリーは目を閉じた。

まるで母親があやすように頭を撫でた彼女は、それでは子守唄代わりに聞いてくださいませ、と最近日課となった口上を述べる。

眠りに落ちていくシャオリーの思惟に浸透するように、まるで歌うように口上をそらんじていく。

「パンデモニウムの命令は絶対。逆らってはいけない。言われるままに動け。思考など捨てろ。命令を忠実に実行せよ。余計な口を挟むな。意見など要らぬのだ……」

それはまるで呪いのように浸透していく。精神を染め上げていく。

これがオーダー級の顔を持つ彼女の役目だ。シャオリーを忠実な人形に仕立て上げることこそが。無意識に刷り込み思想を染め上げ思いのままにする。

「ずぅっと、私のそばにいてくださいね、姉様」

勝手に手を離れてはいけませんよ。うっそりと彼女は笑った。


「反パンデモニウム同盟か」

いずれ各地の敵対勢力が結託すると思っていたが、ついにまとまり始めたか。

この動きは想定の範囲内だった。ディーテ大陸は反骨精神が強い。だから同盟のひとつやふたつ結ばれるだろうとは思っていた。むしろ同盟が組まれるのが遅いと感じていたほどだ。

おそらく、ディーテ大陸はその同盟を機に各地を取り込み始めるだろう。まず最初にラピス諸島が加わったように。各地に散在する反抗勢力と結託を始める。そして全世界とパンデモニウムという構図を描こうとするはずだ。

それが完成する前に"破壊神"を作り終えなくてはならない。構図ができてからでは遅い。一刻も早く"破壊神"を作り上げなくては。そしてラピス諸島の巫女に"破壊神"を御せる制御装置である武具を制作させる。それができてから初めて世界と敵対するパンデモニウムの構図が描ける。

そう考えればあまり時間もない。巫女の抵抗の制裁としてラピス諸島を襲撃したが、ディーテ大陸の反抗勢力が手を貸したらしくうまい成果は挙げられなかった。警戒しているだろうから再度の襲撃は早計に過ぎる。ラピス諸島を焦土と化し母親を人質に取れば巫女も言うことを聞いてくれるかもしれなかったが。

いっそ強引に洗脳すれば早いのだが、そうすると繊細な武具作りの技術に何の影響が出るかわからない。そこを押し切るほど切羽詰まってはないが、このまま粘り強く言葉で説得するには時間が足りない。

「…どうする、"デューク"ロシュフォル・ザンクトガレン?」

深淵の魔女は玉座に問うた。パンデモニウムを統べる玉座は中身が窺い知れぬよう薄布がかけられている。

玉座に座す影は深淵の魔女の問いに感情もなく答えた。

「世界を手に入れろ」

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