篝火集会
そして招かれたのはラピス諸島領主が城の一角。各地の領主の元に繋がる通信武具がずらりと円卓に並んでいた。それに対面するようにラピス諸島の領主とアッシュヴィトが座っていた。
「ドーモ、ラクドウ。サツヤはコッチおいで」
その場に膝をつくラクドウに片手を挙げて返したアッシュヴィトはその手で自分の隣の空席を指す。連れられるまま戸惑いがちに着席した時、聞き慣れたユグギルの声がした。
「さて、揃ったようだの」
キロ島から戻ってきたユグギルはそのままエルジュに帰ったという。ラピス諸島に寄ったところで何もすることはないからだ。エルジュの頭として巣に帰るのは当然。この話し合いが終わればラピス諸島への襲撃の際に支援として派遣していたバハムクランのメンバーたちを戻すつもりだ。
「自己紹介は省略としよう。…ラクドウ・ビルスキールニル・フィルセット、貴殿の見聞きしたことを聞かせてはもらえんだろうか」
「御意」
まず真っ先に槍玉に挙げられたのは"破壊神"とやらのことだった。各国を脅すためのはったりや狂言ではないのか。狂言の類ではなく実際に作成されているのかという疑問だ。神に並ぶなどというそれは本当なのか。そして創造するというが手法は果たしてどのように。
それらの問いにラクドウは丁寧に答えていく。"破壊神"は狂言などではなく、実際に創造されているということ。そしてその手法が神を侮辱するひどくおぞましいものだということ。
人間も亜人も家畜も関係なく、それどころか武具で召喚した神に連なる獣たちまで。まるで粘土をこねて作る塑像のように、布の端切れを針と糸で繋ぎ合わせるパッチワークのように、木切れを積み重ねた積み木のように。まるで子供の遊びか何かのような狂気でもってひどく残酷に無残に凄惨に作られている。
ビルスキールニル人を皆殺しにしたのはやはり失敗だった、何人か生かして捕らえればいい"素材"となったものを。培養ポッドの前で研究者たちが交わすぼやきを聞いて吐き気がしたのをぼんやりと覚えている。
「キミが"素材"にならなくてヨカッタヨ。…その点はシャオリーに感謝カナ」
研究のためビルスキールニル人であるラクドウを引き渡せと要請されたことだろう。シャオリーは自身の作戦のためにそれを断ったに違いない。結果としてラクドウが犠牲にならずに済んだという点ではシャオリーに感謝すべきかもしれない。
「そもそも俺が捕らわれなければ不必要だった話です。…それで」
"破壊神"の創造は順調なのか難航しているのかは研究に携わっていないラクドウにはわからない。"破壊神"とてシャオリーに連れられ遠巻きに見ただけだ。
だがとりあえず言えることは、一朝一夕に完成するものではないということだ。そして、その間にパンデモニウムはラピス諸島の巫女の説得をしようとしている。
「巫女が抵抗したそうで…雷神の力を一時的に召喚したと聞きます」
神そのものではなく、神の力を召喚する。その魔術式を用いて"深淵の魔女"に一撃食らわせたと。その制裁としてラピス諸島が襲撃されたのは皆の知る通りだ。
「少なくとも、ラピス諸島が襲撃される以前は話し合いによる説得だったようでした」
まだ当の目的である"破壊神"の創造がままならぬ状況だから時間的な猶予があった。だから最初は平和的に温和に話し合いでということなのだろう。時には脅しを交えつつも比較的温厚に。暴力にも訴えず。
"破壊神"の完成のめどが立ち時間が切羽詰まれば、自分のように洗脳武具を用いて言うことを聞かせるかもしれない。そうなるのが一番まずい。
「ではそれまでに巫女を奪還せねばなるまいの」
"破壊神"とやらの完成を遅らせることも重要だ。完成が遅れれば遅れるほど、巫女を洗脳し強引に意のままにするまでの猶予も増える。猶予があればその分奪還までの準備時間も伸びる。
「ふむふむ、なるほどなるほど。あいあいわかったわかった」
頷いたのはミーニンガルドの領主だった。
何やらうんうんとひとり納得した風情の女は鈴を転がすような声で言った。
「なるほどなるほど。今の当代の海の竜の王、海竜王が嬉々として喜ぶことですね」
言葉を繰り返し表現が重複するのは彼女の喋りの癖だ。要約すると、ミーニンガルドの海を守る神がこの事態を喜んでいるということだ。
3つの大陸に囲まれたナルド海には番の神が棲むといわれている。海を神格化し、海流を竜と見立て、そこに神の存在を見出した。その信仰はいつしか具象化し、神話に肉付けされるようにして本当に竜が棲むようになった。
時化や嵐を具現化した荒ぶりの雄竜、穏やかな凪を具現化したちはやぶる雌竜の神だ。2匹の竜が海を泳ぐことで波が起き、海流が発生するようになった。
そしてその雄竜はミーニンガルドあたりの海域に棲むという。おかげでミーニンガルドの海は常に波が荒く、船を寄せ付けない。そのせいでエルジュと同じように海に面するというのに貿易都市として発展できなかった歴史を持つ。
その雄竜の意思を読み取り代弁するというのが歴代のミーニンガルドの領主の役目であった。今この話も雄竜に伝えられている。反応は上々だった。
「よきかなよきかな。ナルド海の竜の王、海竜王ナルド・リヴァイアが嬉々として喜ぶならこの我も受け入れて賛成しましょう。……うんうん?」
雄竜が何かを伝えてきたらしい。しばらくそれと会話した彼女曰く、猟矢をこちらによこしてほしいということだった。つまり猟矢をミーニンガルドに連れていき、我と対面させよというのが雄竜の要求だった。
「我も自身の神輿である旗印を見て見定めてみたいと希望し望んでいたところ。まさかよもや拒否し断る理由や言い分など存在はしませんでしょう?」




