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カミサマが助けてくれないので復讐します  作者: つくたん
ラピス諸島・再
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幕間小話 都合の良いように

「それではお姉様、私はこれで」

「えぇノーラ、またね」

上司にあたるシャオリーに定時報告を済ませた彼女は、数歩離れたところに突っ立っているラクドウを見て眉を寄せた。

あの男、いつまでいるのだろう。ビルスキールニル侵略の戦利品のようにこちらに引き込んでから、奴はずっとシャオリーの側にいる。直接の部下である自分はこうして別行動を命じられているというのに。

シャオリーが提案した作戦のことは知っているしその意図も理解できる。ビルスキールニルの騎士を捕らえ手札にし、それを足がかりにビルスキールニル皇女の身柄を手中にする。神々と交感し意思疎通ができる皇女がパンデモニウムの手札となったなら世界にとって脅威となるだろう。すべてを凌駕する神の力を皇女は持っているのだから。皇女という強力な手札が手に入れば"破壊神"の創造など必要なくなるかもしれない。

それは理解しているし了解もしている。そう、この男は皇女を手に入れるための布石。パンデモニウム第2位、アークウィッチの深淵の魔女の承認も得ている作戦だ。

だがやはり面白くない。本当はあの日皆殺しにするはずだった。だがシャオリーはそれを曲げて博打に出た。それ自体は構わない。勝てばお咎めなし。だが、その博打に負けた場合、待っているのはオーダー級による命令違反の制裁だ。

この男はハイリスクハイリターンの綱渡りの象徴だ。シャオリーを姉と慕う彼女にとっては、シャオリーの身に制裁が降りかかることが気がかりだ。オーダー級による制裁は苛烈を極める。半殺しは当たり前。むしろ重傷を負わせてからが本番だ。

だがそれもこの男を今この場で始末すればなくなる。罰則は免れないが重傷は少なくともない。大事な姉分を損ないたくはない。

「お姉様、考えを改めてさっさと始末するが吉ですよ」

聞けばディーテ大陸の砦を始め、事あるごとに撤退しているという。確実に勝てる見込みが無い限り不確定要素が見えた瞬間にその場を放棄するその慎重さは時に臆病にも映る。

有利な場面になるまで何度も仕切り直し、確実に勝利できる戦いだけを狙う堅実さでここまで上り詰めたとはいえ、これ以上撤退を重ね時間をかけるようならばオーダー級から何を言われるか。

「忠告はしましたからね。それではお姉様、ご武運を」


「…話は終わったのか」

「えぇ」

"偽りの銀"の効果で都合の悪いことは聞こえないようになっている。聴覚を失うわけではない。鼓膜の振動を音として理解し言葉として認識し理解できなくなっているのだ。先程シャオリーが妹分と交わした会話も同様だ。何かを話していたことは理解できるが、その話を思い出そうとするとぼんやりと思惟にもやがかかったように忘れてしまう。思い出せないほど他愛もない話をしていたのだと"偽りの銀"で歪められた認知が差し込まれる。そうやってシャオリーはラクドウを染め上げた。

パンデモニウムはよくできた箱庭のような既存の世界を改める正義だと仕込んだ。神によって整然と整えられた箱庭を糺し、世界を人間の手に取り戻す。そのための集団だと教えている。

各地で起こしている破壊も略奪のことなど、不都合なことから目隠しをされたラクドウからは見えていない。革命を起こす我々と神の言いなりとなり操り人形同然の人間たちが衝突しているのだと認識している。させられている。パンデモニウムに都合の良いように、都合の悪いことは歪められている。

「既存の箱庭を壊さなきゃね」

「あぁ。…そうだな」

ぐっとラクドウが胸元を握る。そこにあるのは婚約者との愛の証である金の指輪だ。指輪をしていては剣の握りに影響するといって鎖を通して首から提げた。

「彼女のためにもね」

婚約者の名前はファイノレート・ビレイスといったか。斬って殺した人間のことなどあまり覚えていない。

彼女を手に掛けた張本人は目の前にいるというのに、ラクドウはその歪められた認識故に仇を仇と認識しない。本来仕えるべき主を仇と書き換えたせいだ。

神に仕えることを厭うて反発した皇女が国を滅ぼしたと刷り込んでやった。皇女の凶行を止めようとして彼女は殺された。神に通じる力を振るい国を滅ぼそうとした皇女の凶行を止めようとパンデモニウムはビルスキールニルに乗り込んだが何もかも間に合わなかった。唯一生き残ったラクドウを保護するのが精一杯だった。そう書き換えられている。

「頑張りましょう、お互いの目的のために」


「やぁ、ノーラ・クライシス」

「ネツァーラグ様」

白衣と白仮面を認め、彼女はその場で膝を折った。パンデモニウムの組織の下位であるレッター級などでは目を見て話すだけでもおごがましい。膝を折り跪かねばならない。

「楽にしていいよ、ほら、立って」

そもそもオーダー級は組織の階級にかかわらない。上も下もない完全に独立した地位だ。上下がないからこそカーディナル級にもレッター級にも等しく裁きを与えられる。オーダー級だからといってかしずかれる理由などない。

「それに君とて……だろう?」

ずるずると長いローブに隠しているそれはなんだ。そっとネツァーラグは彼女に微笑みかける。

服の留め具のように巧妙に見せかけたその銀は立派な武具だ。オーダー級にのみ与えられる。発動すればオーダー級の任務の執行に必要な白仮面と白衣が現れる。それをまとって任務を執行する。

そう、彼女はオーダー級である。普段はレッター級のひとりとして振る舞いつつ、必要になれば白をまとう。元々そうだったわけではない。オーダー級に必要な武具に適性があったため、ひっそりとオーダー級に引き抜かれた。このことは直接の上司であるシャオリーも知らない。

「それを使う時…そろそろ来ているんじゃないかい?」

オーダー級に必要な武具の適性。それは"偽りの銀"を始めとした精神操作系の武具のことである。パンデモニウムの意に反する不穏分子を洗脳し、都合の良く染め上げる。その武具の適性の有無でオーダー級は選ばれる。

「そうですね。…お姉様もいい加減考えを改めてほしいのですけど」

大事な姉分であるシャオリーを"再教育"するのは心が痛む。できればオーダー級が必要にならなければいいのだが。彼女はそう呟いた。

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