反撃と攻撃と進撃
目の前が神殿で助かった。気を失ったラクドウを半ば引きずりながら神殿の一室に運び込み、ベッドに寝かせて今に至る。
"偽りの銀"を破壊した反動で昏倒しているが、身体には何の影響もないのでそのうち目を覚ますだろう。
それはそのこととして。キィ、と鷹が鳴いた。
「わかってるわ、ハーブローク」
ラクドウの件は一件落着。だが安堵してはいけない。まだパンデモニウムによる制裁の侵略は続いている。
さっさと撃滅してしまわなければならない。各所でパンデモニウムとラピス島が保有する兵、そしてバハムクランから派遣されたメンバーによる戦闘が勃発している。それらに加わり、終わらせなければ。
「さっさと行くわよ。アルフ、観測して。……アルフ?」
「……え? あ…あぁ」
ぼんやりと思考に沈んでいる様子のアルフを窺う。はっとしてアルフはゴーグル越しに窓から身を乗り出しあたりを見渡す。魔力の反応の大小と多少で戦闘を察知する。ぐるりと見回したアルフは、うん、と頷いた。
「どこも戦闘中。数が多くて観測しきれねぇよ」
「役立たず」
「うるせぇ。師匠とは違って広範囲には向かねぇの」
精度を犠牲に観測範囲を増やしてみたらまったく役に立たない結果になった。ともかくもここから一番近いパンデモニウムの気配は東の通りだ。指差した先、確かにパンデモニウムの魔力を感じる。
「それじゃ、さっさと片付けていきましょう。…ヴィトはどうする?」
「あー…ココにいてもイイカナ?」
ラクドウの側にいてやりたい。目が覚めた時、真っ先に目がつくように。
アッシュヴィトが出なくとも島に残存する兵力でパンデモニウムは撃退できるはずだ。自分よりはるかに強い猟矢もいる。
言うアッシュヴィトにバルセナが頷く。それならば引っ込んでいてもらおう。それなら行ってくるわね、と言い置いて部屋を出た。
「アルフ、聞いてもいい? さっきから何を考え事してるの?」
「あ? あぁ…。…いや」
歯切れの悪い答えだ。少し苛立ちながらバルセナは再度同じ質問を繰り返す。このラピス島の状況下で考え事をするとはどういうつもりだ。目の前の破壊と略奪よりも優先するべきことなのか。
猟矢のように、謎の既視感にでも襲われているのか。あれは毎度答えが出ないというが。
「いやぁ、アルフェンドってどっかで聞いた覚えがあるなって」
シャオリーが名乗っていた姓だ。正確には、ネツァーラグがシャオリーを指してそう呼んだ。
アルフェンドという名、何処かで聞いた記憶があるのだが思い出せない。こういう曖昧なことがあるから名乗りの時には地域名を併記してほしいのだ。そうすれば何処の誰かはっきりわかる。
「わからないことは"観測士"として許せない性分なんだよ」
思い出せない以上、考えてもどうしようもないのだが。記憶の片隅にしまって後で調べるとしよう。
「ユグギルに聞けば?」
「それは負けた気がする」
知識と知恵の番人のスルタン族たるユグギルに答えを求めるのはなんだか負けた気がする。小さなプライドだ。問題を解く時、巻末に付属されている正解を覗き見るようなずるさを感じる。
なのでアルフが自らユグギルに知識を求めに行くことはあまりない。出向く時は、自分で得た知識が正解かどうかを確かめる時だけだ。
そんなアルフを眺め、ダルシーは嘆息した。ど忘れって時に恐ろしい、と。
「っと、西W3にE6!」
「姉様」
だから言ったじゃないですか。万魔を構成する要素級の少女は呟く。
命令違反などせず、最初から素直に皆殺しにすればよかったものを。余計な知恵を巡らせるからこうなるのだ。
「ノーラ…?」
何の用だ。シャオリーはゆるゆると彼女の方を見た。姉と呼ばれているが血はつながっていない。単純に年上だからそう呼ばれているだけのこと。戦火の中、ふたり生き残ったからだ。
ネツァーラグによる制裁の罰則を受けたばかりで体の節々が痛い。静かに休息を取らせてほしいというのに。
「無茶した姉様に説教ですよ。子守唄代わりに聞いてくださいな」
どうしても妹分として一言文句を言いたいのだ。ゆっくり眠りに落ちながら聞いてほしい。
そう、とシャオリーは目を閉じた。たゆたう意識に彼女の声が流れ込んでくる。
「パンデモニウムの命令は絶対なんですから、逆らってはいけないんですよ」
「カーディナルだから大目に見られただけで、これがレッターなら首をはねられていましたよ」
「姉様? 姉様、眠ったのですか?」
「そうですか…おやすみなさいませ、姉様。ところで……」
「私がオーダーだとご存知でしたか?」
「今、"教育"して差し上げますね」




