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カミサマが助けてくれないので復讐します  作者: つくたん
ラピス諸島・再
61/88

打ち勝つ

"呪縛刀"は斬りつけた箇所の動きを封じる。影を剣で刺し貫けば、その呪縛は全身に及ぶ。呪縛はとても強固で神すらもその地に縫い止める。

影を刺し貫かれたアッシュヴィトとそれに従う神は呪縛のせいで声ひとつ出すことができない。どんなに叫ぼうとしても喉で詰まったような息を漏らすしかできない。

やめてくれと叫びたかった。叫べなかった。アッシュヴィトは焦りと絶望に表情を染める。身を挺して庇うことも助命を懇願することもできなかった。ビルスキールニルが滅びたあの日と同じように。

あの時もまた、こうして彼女に動きを封じられた状態で、目の前で親友が死んだ。動けない状態で必死にどうにかしようとあがくさまを嘲笑されながら。何が皇女だ。無能で無力で脆弱な人間めと嘲られながら。

「ヴィト! くそっ…」

どうやら手足を斬りつけられた自分たちとは違って、アッシュヴィトとそれに追従する神は微動だにできないようだ。声すら出せないということを察して猟矢が叫ぶ。

舌が動いてよかった。動きを封じられたのが四肢だけでよかったと猟矢は幸運に感謝した。

「行動停止を"キャンセル"!」

"帰りの輪"による保障だ。1日ひとつ物事を"キャンセル"する。猟矢にしか扱えない、武具でも魔術でもない特殊な能力。

後で必ず同じ運命が回ってくるという代償はあるが、後のことは後で考えよう。後につけが回ってこようとも、ともかくもこの状況を打破しないといけない。今動かなければ、全員死ぬ。

「はいはい! 了解了解! 大ピンチだもんねぇ!」

おどけた道化の声が聞こえて、猟矢の左手首に装着されている銀の腕輪が一瞬光る。ぱしん、と音がして四肢の重圧が消えた。地面に突き刺さった双剣がひとりでに抜けた。

「っとぉ!!」

大剣によって首が切り落とされる寸前で自由を取り戻したアルフは髪の毛ひとすじを犠牲に断頭の一撃を避けた。がつん、と大剣が地面を噛む。

身体の自由を取り戻せばこちらのもの。再び緑樹の母神は能力を行使する。落ちないように蔦の冠で留めた外套の隙間から腕を出し、木の根の下肢を持つ緑樹の母神は先程断ち切られた蔦の種子に働きかける。もう一度芽吹けと囁く。

樹の属性は希望の象徴だ。芽吹く新芽が明日への希望と見立てられ、成長を示唆する象徴として扱われる。だがその反面、土の下では根が複雑に絡む。よって束縛を象徴するものともされる。つまり、拘束という行為において樹の属性は最も優秀なのだ。それを示すかのように蔦が伸びる。意思を持つかのように真っ直ぐ対象に向かって。

「また蔦?」

そんなもの、とシャオリーが鼻で笑った。そんなものはさっき斬った。"呪縛刀"は手元になくとも、この変哲もないただのダガー一振りで斬れる。あまりカーディナルをなめてもらっては困る。

腕に絡もうとする蔦にダガーを振るう。しかし茎の中ほどまでしか切れ目が入らなかった。ずいぶん硬い。まるで大木に鉈を振り下ろすような手応えだった。

植物はその成長段階で傷つけられればより強く生育する。麦踏みの要領だ。害するものに傷つけられまいとしてより丈夫な根と茎を作る。断ち切られてしまったのなら、刃物程度では斬れない強さとしなやかさを持てばいい。母神はそう囁いて種子を芽吹かせた。

その丈夫さに気を取られた隙に蔦が足を絡める。しまった、と舌打ちする頃にはもう遅い。そこから手に絡みつき武器を取り上げる。ざわざわと蠢くように成長する蔦が何重にも拘束を強めていく。

「シャオリー!」

同じように拘束されたラクドウが叫ぶ。膂力で引きちぎろうにも太くしなやかな蔦はびくともしない。

ぎりりと歯噛みするラクドウがシャオリーに向けるのは心配。アッシュヴィトに向けるのは憎悪。それを見やったネツァーラグは蔦に拘束されたまま白けた溜息を吐いた。

「はぁ…つまらない劇だね。冒険活劇の逆転劇なんて」

悲劇の喜劇かと思えば単なる冒険活劇だった。とんだ舞台に引き上げられたものだ。

この瞬間にもう何もかもがどうでもよくなってしまった。心底どうでもいい。そんな声を出してネツァーラグは持っていた武具を手首の振りだけで放り投げた。かつん、と地面に落ちる銀。

どういう仕組みかはわからないが、"キャンセル"と叫んだ少年のせいでつまらない劇に成り下がってしまった。こんなつまらない劇は早々に畳むに限る。舞台に固執して壇上に立っていてもろくなことにはならない。

だが最後に残った小劇は楽しむとしよう。そら、亡国の皇女よ拾うがいい。その"偽りの銀"を。そして打ち砕けばいい。その瞬間騎士の認知は正されて喜劇が起こる。

いったいどうなるだろうか。本来仕えるべき主を仇と取り違えさせられた忠義の騎士は。生真面目に律儀に自責に捕らわれて絶望してくれるだろうか。

それが見たいがためにネツァーラグは"偽りの銀"を捨てた。捨てるなんて何を考えているのかと隣で喚くシャオリーの存在は黙殺する。

「ラウフェイ、あれ拾って!!」

「御意」

そんな意図には気付かず、破棄された"偽りの銀"を蔦が絡め取って拾い上げる。うまく葉に引っ掛けて持ち上げ、アッシュヴィトの足元に投げてよこす。

これを打ち砕けばラクドウはアッシュヴィトの元に戻る。それを邪魔する者はいない。アッシュヴィトがレイピアを一振りさえすれば。

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