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カミサマが助けてくれないので復讐します  作者: つくたん
キロ島
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災いの胎動

あぁ災いだ。災いだ。禍をもたらすものよ。

どくん、どくんと胎動が聞こえる。災禍の種は確かに息づいている。水槽の中、おびただしい数の杭に身体を拘束されて。

毒沼の底から湧き出る悪臭のように、ごぼりと培養液が泡を立てる。杭に戒められた幾つもの眼球が虚ろに宙空を見ている。鎖で絡め取られ吊るされたそれは万魔の悪意(パンデモニウム)が擁する破壊の具現。神を凌ぐ力として生み出そうとしている狂気の凶器だ。

「状況は」

「不安が多々残るね。肉体組織の結合の定着が緩すぎる」

培養液の中でなければ生きることができない哀れな生物。あらゆる生き物を繋ぎ合わせ合成したそれは、外気に晒せばすぐに細胞組織が崩壊して自壊する。培養液の中で、杭を打って物理的に繋ぎ止めなければ崩れ落ちてしまう。

「竜族が絶滅したのはきついな。あれをベースにすれば多少ましになったものを」

「当時の担当は誰だ? 今は"呪殺"だが前任は」

「その頃に相打ちして死んでる」

そんなことを言い合いながら実験資料を眺める。あれが足りないこれが足りない、代替案はないのかと模索し会議する。

「おーい、新鮮なシャフ族が手に入ったぞ」

「南方遠征の土産か。ありがたい」

竜族ほどではないが、あの強靭な肉体を構成する細胞はほしい。竜族の代用になれる。さっそく解剖しようじゃないか。おぞましいことを平然と言い放ち、断末魔響く中、鼻歌を歌いながらメスを手に取った。

「あぁまったく、ノンナを見習ってほしいなぁ。あいつは肉も角も皮も骨も全部使い道があるのに、人間ときたら」


パンデモニウムには、強さに応じて階級に分かれる。頂点のデューク。そして次点のアークウィッチ。これは階級というよりは個を示す二つ名だ。どちらも1人しかいない。そこに就く者の異名がそのまま階級になってしまったものだ。

なので階級らしい階級はその下にあらわれる。幹部級に相当するのはカーディナル。その下にレッターという階級がつく。レッター級の強さには幅があり、その中でも最強格をシグナル・レッターと呼ぶ。

さらにはそれらの階級とは独立した存在として、パンデモニウムの秩序の番人であるオーダーがある。階級に関係なく権力を振るう秩序の剣だ。それが本来のパンデモニウムの内部関係であった。

そこに加えて、新たに新設されたのが彼らという集団だ。腐った林檎(ラットゥン・アップル)の名を与えられた彼らは狂気の研究者たちだ。"破壊神"の創造のため彼らは手段を選ばない。人間を解剖しその肉体に動物の器官を繋ぎ合わせることだって平気でやる。その逆もだ。

あの水槽の中に浮かぶ無数の目の肉塊が彼らの研究の産物だ。ありとあらゆる生物の特徴を持たせるため、手当たり次第にありとあらゆる生物を合成している。時には縫合手術で物理的に繋ぎ止め、時には武具で強引にかけ合わせて。

おぞましい狂気にめまいさえする。こんなもののために魔術が生み出され、武具を開発したわけではない。ビルスキールニルとラピス島の契約も。キロ島が過ちのために買ってしまった火の神の怒りも。こんなもののためにあるわけではない。

自分が彼らの要求通りに動いてしまったら、神が世界に与えたものに仇で返してしまうこととなる。神の寵愛でもってこの世界は存在しているというのに。こんな不遜極まりないことをすればどうなるか。

「不安かしら?」

畏怖に竦む巫女を見て、シャオリーはそう訊ねた。

こんなことをすれば神の怒りを買う。神の意に沿って武具を生み出す巫女として加担はできない。巫女がそう訴え役目を果たそうとしないと聞いて来てみれば。

まったく。今の状況をわかっているのだろうか。パンデモニウムにはオーダーという役目の人間がいることを。意思を歪め認識を狂わせて意のままにすることだってできるのだ。何処ぞの落道の騎士のように。今はまだその必要がないからされていないだけで。やろうと思えばいつだってできる。状況が差し迫っていないからやらないだけ。自発的に協力してもらうよう悠長に説得しているだけで今は済まされている。

心を操り意識を歪めてしまえば、武具造りの繊細な技術にどういう影響が出るか読めない。だから強硬手段は見送られているというだけ。

「こんなこと神が許すはずがないわ」

「神? 神ですって?」

何が神か。神など存在しやしない。いたとしても地上に目は向けてくれない。神はいつだって助けてはくれないのだ。神への信心を捨てたシャオリーは神の代行者たる巫女に冷たく言い放つ。

もし仮に神が存在し地上に目を向けているなら。こんな行為は見過ごさないだろう。生命というものを好き勝手に弄り回すようなことなど。

「神の裁きが下る? 結構よ。今すぐ落としてみればいい」

許さないというのなら今すぐ罰を与えてみるがいい。だが現実は罰などないではないか。神なとというものは結局まやかしなのだ。

神は悪を許さないというが、万魔の悪徳たるパンデモニウムが健在であることが神の不在を証明している。だから何をしたって構わない。神への忠誠など裏切ってしまえ。

「早々に見切りをつけておいた方がいいわよ」

縋っても助けてくれはしない。ひたすら救済を求めて祈った過去もあったが、最後まで神の救済はなかった。それをきっかけにシャオリーは神を捨てた。自らを救うのは自分だけしかない。

「神様が助けてくれないから復讐の道に走った皇女と同じようにね」

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