力を持ちて何に使うか
そういえば、とアルフが口を開いた。
「アブマイリの祭りでもらった武具って結局なんだったんだ?」
竜族の谷での騒動、そこからディーテ大陸の同盟と話が飛んでいってすっかり忘れてしまっていた。移動の合間にちらっと話された記憶はあるが、詳しい話はよく聞いていない。
「あぁ、えーと……」
あの時受けた説明いわく。あの武具は術者の魔力の限界を引き上げる。魔力を水、術者を器に例えての説明を思い出しながら猟矢はたどたどしくも説明を始めた。
器の大小には個人差がある。ある人はコップ程度しか、ある人は桶。またある人はスプーンですくえるほどのごく少量。深さと広さ、容量などなど個人差がある。その器にはそれに合う量の魔力しか備わらない。桶には桶一杯の水しか入らない。
その器に入った水、つまり術者に備わった魔力を使って武具を起動する。水を用いて水車を回すイメージだ。注ぐ水が適切であれば水車は回る。足りなければ水車は回転しないし、水量が過剰であれば歯車は壊れ濁流に流される。そのバランスでもって術者と武具の適性は決まる。
猟矢に与えられたものは、その器の容量を無限に拡大し水を無限に湧き立たせる。それによってもたらされる過剰な水量に耐えられるよう水車の歯車すら強化する。
つまり、これを用いれば火打ち石代わりの便利用品程度の弱小な武具でも国ひとつ焦土に変える炎を発するということだ。術者と武具の能力を無限に拡大する。
「ほー、成程なぁ。まったくジョーダンじゃない能力だな」
説明を受けたアルフは肩を竦める。ダルシーが言った通りだ。使い方を誤れば世界が滅ぶ。猟矢の性格からしてそんなことはしないだろうが、もし悪しき心を持つ人間に渡ったらと考えると寒気がする。
だが、とアルフはふと思い至った。武具の能力を強化するというのは理解した。しかしその強化が適用されない武具がある。一般にウェポンタイプと分類されるものだ。ものによっては特殊な能力が付与されている場合もあるが、大抵は何の変哲もない武器に変わるだけだ。
竜族の強靭な一撃で砕かれてしまったが、バルセナの持っていた六尺棒がそれにあたる。ただの鉄棒をどう強化しろというのか。
「あぁ、言われれば確かに…」
棒自体を頑丈にして武具破壊されないように強化するのだろうか。そういう場合はどうなるのかイメージが掴めない。実際に起動してみるしかない。
「それなら試すか」
そうして猟矢が連れて来られた場所は柱も何もない広い空間だった。領主の居城の一角にある建物から地下に降りてたどり着いた空間は、今しがた入ってきたばかりの出入り口以外は何もない。領主の居城の地下に存在するにはあまりにも広い空間だ。天井も高い。体感だが、階段で下った高さよりもはるかに高い。降りた時は地下1階程度の感覚しかなかった。しかしこの空間は、数階ぶんありそうな天井をしている。
「ここは?」
「鍛錬場」
時空間に干渉する武具で作り上げた空間だ。武具で作り上げた空間なので、現実の空間とは縮度が異なる。一見、地上から繋がっているように見えるが、ここは現実とは異なる異次元なのだ。あの階段が境目だ。
この空間を利用して、キロ島の兵は武具の扱いの鍛錬に励むのだという。"アトルシャン"の人間にも使用が許可されている。
「ここなら何だかよくわからない武具を起動させても平気ってことさ」
異次元なのでこの中で何が起きても外に影響はない。次元を超えるほどの大魔法を起こす武具など存在していないからだ。今のところは。この空間は、正確にはこの空間を生み出した武具は領主の管理下に置かれているので勝手に閉じることもない。
「と、いうことで早速試そうぜ」
「……それだけのために呼ばれたの?」
バルセナが嘆息する。肩の鷹も不満そうな顔をしている。鳥なので表情はあまりわからないが。
人通りの多い道の一角を借りて歌と踊りを披露して小銭を稼いでいたら急に呼ばれたのでついていったらこれだ。だが、確かにエルデナからもらった武具の試用はしてみたいところではある。気を取り直して実験に付き合うとしよう。
隣にいるダルシーもまた目をすがめてこちらをねめつけている。何かしら用事があったのに、というわけではなく単純に孤独を好むのでぞろぞろと連れ立つのを厭う。ダルシーが呼ばれた理由は彼女の持つ大剣にある。大剣"ラグラス"は単純に武器に変じる武具ではない。刃から発する冷気が氷を生み出す。その冷気は術者の魔力に比例する。つまり、猟矢の持つ武具が適用される。
「まずは普通に起動させて、それから猟矢のを起動させてからそれぞれ発動する」
実験の手順をざっとアルフが説明する。バルセナとダルシーがそれぞれ了承した。
「"ニルヴァーナ"」
バルセナが太腿に手を這わせてその名を呼ぶ。砕かれた"ヘレティック"と同じ銀の装丁のベルトが太腿に巻きつけてある。名を呼べば、真っ白な六尺棒がその手に握られた。
「……"ラグラス"」
ダルシーもまた大剣を呼び出す。ずっしりとした幅広の青い大剣だ。冷気をたたえる刃をダルシーは表情を変えず握る。
両者とも何も変わった気配はない。当然だが。一旦しまってくれと言うアルフの指示に従って元通り銀の装飾品に戻す。
「それじゃ猟矢、やってみようぜ」
"観測"のためのゴーグルをつけたアルフが頷いた。




