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カミサマが助けてくれないので復讐します  作者: つくたん
ドラヴァキア山脈
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伏竜、首をもたげる

竜族の谷へは直接乗り込まず、麓の砦から徒歩で山を登ることになった。竜族の集落があるという山腹までは徒歩で半日かかるが、その方が竜族の心象もいいだろう。

「サツヤ、面白い話を教えてやろうか?」

趣味である小説書きに役立てるといいさ、と前置きしてアルフが口を開いた。曰く。大昔、この山は地平線まで見えるほどの広大な平原だったそうだ。そこに伏せた巨大な竜が山になったという伝承があるという。

真偽もわからない伝承だ。もしかしたら竜族なら真実を知っているかもしれない。交渉がうまくいったら聞いてみるといい。

「へぇ」

確かに言われればそう見えるかもしれない。あの山はまるで竜が伏せたように丸く盛り上がっている。長い時をかけて大地が隆起し形成されたなら切り立った崖や洞窟があってもおかしくない。しかし、竜族が他民族を立ち入らせないということを差し引いてもそんな話は聞かない。

ひとつの山となるほど巨大な竜がいるとは信じられないが、もしかしたら、と思わせる話だ。とても興味深い。

「サテ…"ラド"。ボクたちを…ドラヴァキア山脈の麓、パンデモニウム砦へ!」

陥落し、無人となった砦へ"ラド"で転移する。あとはここから山道を登るだけだ。パンデモニウムが竜族から割譲されたという土地は、境界線を明らかにするため塀が築かれている。

そこからアッシュヴィトたちが1歩踏み出した。その時だった。

「我らが神聖なるドラヴァキアに何用か」

硬い声が頭上から降ってきた。見上げれば、相手の姿が手の上に乗りそうなほど遠くの距離からこちらを見下ろす人影があった。

男とも女とも判別がつく距離ではないが、声の調子からして女だろう。後頭部に沿って湾曲する角がどうにか見えた。それでは彼女が竜族か。

「その容姿、ビルスキールニル人か」

こちらからは見えずとも、あちらからははっきりと見えるらしい。発達した身体能力を持つ竜族は目も利くのだろうか。

誰何の声に負けじとアッシュヴィトが応じる。我はビルスキールニル皇女、と。その名乗りを聞いた彼女は表情を変えた。ように見えた。

「我が名はシルヴィール・ドラルダ。往古の恩義だ。…来い」

彼女が手を閃かせる。一瞬足元が消失する感覚がして、反射的に瞑った目を開ければ広い台地の上にいた。どうやら目の前の彼女が転移武具を使ってここまで転移させたようだった。

ここで改めて猟矢は彼女の容姿を見る。鋼色のくすんだ銀髪と同じ色の目。鱗が鋼でできた竜が人間の容姿を取ればこのようになるのだろうなと思う。頭頂部から後頭部へ湾曲する黒色の角は竜族であることの証明だ。

「なぁヴィト、往古の恩義って?」

「さぁ…ボクも知らナイ」

小声で猟矢が訊ねると、同じく小声で返ってきた。ビルスキールニルの王族として学んだ歴史に竜族との関わりはない。王族も知らない関係があったとは。

「往古……この大陸が形成される時だ」

はるか昔、竜族は竜と人間を行き来していた。ある時は竜の姿となり、またある時は人間の姿をしていた。変身能力が備わっていたのだ。肉体を変化させ、必要な場面に応じてどちらかの姿をしていた。

ある日1匹の竜とその血族が旅立った。単純な好奇心による冒険か、それとも住処を追われたか。記録には残っていないが、故郷より遠くへと世界を渡った。しかし、旅の過酷さに耐えかねて翼が腐り落ちてしまった。

これでは世界を旅するどころか生命さえも危うい。その時に治療を施し助命したのがひとりの魔術師だった。灰色の法衣をまとった賢者は竜の傷を癒やした。その後、賢者は"不滅の島"を作り、そして竜とその血族はこの地を旅の終着点としたという。そして血族たちは長い時の中で人間と混血していく過程で変身能力を失い、今の竜族となった。

その始祖竜の名はヴァキアといったそうだ。それが訛ってドラゴン・ヴァキア(ドラヴァキア)となった。それはそのまま地名となり、今の時代に至る。

竜族にしか伝わらない伝承だ。というのもビルスキールニルの始祖となった賢者は非常にひとがいい性格だったようで、この程度の手助けなど後世にわざわざ伝えるほどのものでもないと言ってわざと記録に残さなかったそうだ。だからビルスキールニル人が知らないのも無理はない、もし無知であったとしても憤慨しないでくれという補足まで伝わっている。

「その礼を返そう」

昔の恩義に免じて、どうやら話だけは聞いてくれるようだ。目的はわかっているが、話してみるがいい。話の切り出し方によっては考えてやらなくもない。意見を変えることはほぼないが。そういう態度だった。


「…なるほど、その少年がパンデモニウムを一掃するほどの力を秘めている…と」

竜族ひとりではパンデモニウムに対抗できないから膝を折った。ならば対抗できるだけの力で竜族を庇護しよう。アッシュヴィトの論調に、ふむ、とシルヴィールは唸る。

その話が本当ならば、この屈辱的な不可侵条約など破棄できる。神聖なドラヴァキアを守り抜くことができる。だが、果たして。

「試させてもらおうか」

説得力を見せろ。脆弱な人間め。

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