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カミサマが助けてくれないので復讐します  作者: つくたん
不滅の島ビルスキールニル
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神より優れしは

「タダイマぁ! あー疲れたヨ、マッタク…」

神との交感とやらは終わったらしい。翌朝になって戻ってきたアッシュヴィトは見た目こそ変わりないが、どことなく雰囲気が変わったように思える。

「おかえりなさいませ、アッシュヴィト様」

イルートが緩やかにお辞儀をして迎え、バッシュがすかさず椅子を持ってくる。それに腰掛けることなくアッシュヴィトは手を払う。あまりゆっくりしてはいられない。ユグギルから貰った休暇は今日までだ。帰らなければ。

「ゆっくりするのはゼンブ終わってから…。またネ」


久し振りの帰郷というから今日1日はいるだろう。と思っていたら朝一番に帰ってきた。予想と違った早い帰りにユグギルはやや驚きつつも出迎える。

だが幸いだ。アッシュヴィト宛てに手紙が来ている。細かな内容は窺ってはいないが、どうやら鑑定に出した武具の鑑定が済んだという連絡のようだ。詳しい話をするから直接取りに来てほしいとのことだった。

「ホント!? じゃぁ取りに行ってくるネ!」

帰還してきたばかりだというのに、すぐさまアッシュヴィトは出立する。"ラド"を使い転移したアッシュヴィトを見送り一同は苦笑を交わす。本当に、思い立ったら即行動だ。

「戻ってくるのを待つ間に…ちょいと聞かせてもらおうかの」

ビルスキールニルの人間と手を組んだのだ。これを機にビルスキールニルにも反パンデモニウム派に加わってもらおう。滅びてしまったとはいえあの島の知名度は随一。ぜひともアッシュヴィト個人としてではなくビルスキールニルというひとつの国として協力願いたい。

そのための情報収集として、ビルスキールニルの現状を知りたい。どういう状況だったか教えてほしいとユグギルが請う。

自分たちに話したということはユグギルに、ひいてはバハムクランに、反パンデモニウム勢力たちに聞かれても構わないだろう。見聞きしたことだけでいいなら、と前置きしたアルフが視察の報告のような観光の感想のようなものを口にしようとした時。

「ゴメン、サツヤ、ちょっと来てくれる?」

「うわびっくりしたぁ!」

唐突にアッシュヴィトが戻ってきた。"ラド"で転移してきたのだろう、突如として隣に現れたアッシュヴィトの姿に猟矢が肩を跳ねさせる。

「武具の適合者連れて来いって向こうがネ。ダカラちょっとついてきて」

鑑定結果を教えるから適合者を連れて来いと言われて戻ってきたとのことだ。そういうことならと猟矢が席を立つ。

戻ってきたなら正式に許可を取ろうと、ビルスキールニルのことやアッシュヴィトが皇女であることを話してもいいかとの確認に頷いたアッシュヴィトは猟矢の手を取る。"ラド"と呟いて転移する。

「慌ただしいの」

「生まれつきの性格だってさ」


猟矢が連れて行かれた先は、露店が立ち並ぶバザーだった。空気が少し埃っぽくて乾燥している。砂漠が近くにあるのだろうか。

機工都市ゴルグの露店街とは少し違った雰囲気がする。行き交う人の服装も見慣れない。皆薄着で、男などは上半身を露出させている。日差しが強くて暑いのだ。ということはやはり砂漠のオアシスか何処かなのだろうか。

物珍しそうな猟矢の手を引いてアッシュヴィトは人混みを進む。バザーから少し込み入った路地に足を踏み入れた。活発なバザーとは違って、道ひとつ入れば人の気配がまったくしない。建物の影でやや薄暗いその中を進んでいく。

砂埃か、それとも民家から漂う調理かまどの煙か。うっすら白くけぶる道を進むと、ふと目の前に扉が現れた。扉には鐘が括り付けられている。扉を開けば鳴る仕組みだ。

「リグ、入るヨー」

ぎぃ、と扉を開く。からん、とベルが鳴った。

日中だというのに暗い室内。窓には厚いカーテンが閉められている。頼りないランプの明かりに照らされて、店主が来客用のソファに座っていた。

女だった。まるで蛇のようだ、というのが猟矢の第一印象だった。ゆったりとしたドレスを身にまとった女は来客を座ったまま出迎えた。その足元には黒い大蛇がとぐろを巻いてくつろいでいる。

「随分早かったわね。…どうも、初めまして」

リグラヴェーダと名乗った店主はにこりと微笑む。この砂漠の町のバザーの一角に居を構えてそこで薬店をやっているという。ヒトそっくりに見えても亜人で、とんでもない長命を誇る。その長い時で培った知識を頼りにアッシュヴィトは彼女に鑑定を頼みに来たのだと補足した。

「これが適合者ね。……ふぅん、そう…」

じっと猟矢を見た彼女は楽しそうに目を細めた。すべてを見透かされている気がした。まるで、この後に待ち受ける運命を知っているかのような。

それはともかく。頼まれた鑑定の話だ。残念ながら彼女は武具と大元の魔術については詳しくない。なので詳しい相手に依頼を引き継いだ。彼女が姉と慕う人物はしっかりその役目を果たした。少し触っただけで武具に込められた魔術式を解読してみせたのだという。

いったいどういう能力を持つ武具なのか、鑑定結果は書状にしたためておいたからそちらを読んでほしい。机の上の木箱を彼女は指した。その箱の中に武具と書状が入っている。

「早速読んでも?」

「どうぞ」

ゆっくり読み下せばいい。武具には興味がないので、と彼女はそっと席を立った。ふたりが書状を読んでいる間、店の奥で薬の調合をしていると言い残して店の奥へと消えていく。

「サテ、じゃぁ読むヨ」

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