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カミサマが助けてくれないので復讐します  作者: つくたん
貿易都市エルジュ
31/88

ものづくり

儀式当日になるまでは配達仕事をこなして過ごしていろ、とのことだ。

配達も配達で、街の地理を覚えて慣れてきたおかげか本日のノルマをすぐに終わらせられるようになった。ノルマが終わればあとは自由にしていていい。遊び歩こうが鍛錬しようが副業に手を付けようが。バルセナなどは広場の一角を借りてベルベニ族伝統の歌と踊りで小銭を稼いでいる。ちなみに盛況のようだ。

午前中にすべての配達を終えた猟矢は、同じく仕事を終えたアッシュヴィトに問う。

「ヴィトはアブマイリの祭りを見たことがあるのか?」

「あるヨ」

両親に連れられて何度か見たことがある。残念ながらそのどれも武具を手渡されることはなかったが。

毎年やることは変わらない。儀式の飾りや衣装が変わるわけでもない。変わり映えのしない行事など何度も見ればいずれは見飽きるものだが、アブマイリの祭りだけは何度見ても目を奪われる。

とても神秘的で幻想的な光景だ。武具を一つ作るだけだというのに美しい。

「それは、えぇと、エルデナさんが作るようなのとは違うのか?」

バハムクラン専属の武具職人であるエルデナが作業場で作るそれとは何が違うのだろう。

配達した時にたまたま制作現場に居合わせたことがある。鍛冶場と書庫を一緒くたにしたような作業場で彼女は武具を作っていた。無造作に文献が積まれた机にあった紙と水晶のような鉱石を炉に投げ入れ、銀と一緒に鋳溶かしていた。その後は型に流し入れ冷やしてインゴットにし、それを加工して作るのだと教えてもらった。

「うん? 工程自体は同じダヨ」

用紙に書かれた魔術式の力を魔晶石という専用の鉱石に写し取り、その魔晶石を銀と一緒に鋳溶かして魔銀にする。本来ならいったんインゴットにしてから加工の工程に入るのだが、祭りの儀式ではそんな時間が取れないので秘術で直接加工する。鋳溶かされた液体状の魔銀は秘術によってひとりでに装飾品の形を取り、そして観衆の何処かにいる適合者の元へ飛んでいく。

「見晴らしのイイ、トクベツな席で見せてアゲルヨ」

資格がなければ入れないが、自分が言えばきっと猟矢たちも通されるはずだ。特等席を知っていると自慢げにアッシュヴィトが言う。

「ま、どうトクベツなのかはその日のオタノシミってコトで」


平穏に日々が過ぎていく。今日の出来事を猟矢は手帳に書き綴っていた。その日あった出来事を手帳に書くのが、朝の鍛錬と同じように猟矢の習慣となりかけている。

しかしこの手帳、本当に便利だ。アイデアのメモから日記まで無造作に書いているというのに、内部できちんと分類されて保存されている。適当にページを開いているのに、猟矢がその時しようと思っていた内容が呼び出されている。今日あったことを書き留めた日記のあと、唐突に思い立ってページをめくればそこに昨晩のメモが出てくる。

「えーと…あとは…隠者による百識、狂信者による理性…密告者による背反…」

"歩み始める者"の標語だ。何を想像し創造するかを決めかねて、この手帳に案を書きなぐっている。半数は決まった。それで決定とするか迷って保留にし、とりあえず案だけは書いてある。しばらく置いて矛盾や不足がないかを確認してから実際に創造してみるつもりだ。

しかし半数が決まらない。そのうちひとつはまったく思い浮かびもしない。辞書代わりにもなるこの手帳で単語の意味をひき、類語を調べてイメージをつかもうとしたものの余計にどうしていいかわからなくなる。

「うーん…悩ましいなぁ」


そうやって過ごすこと数日。アブマイリの儀式当日の日だ。

"ラド"で転移して真っ先に視界に飛び込んできたのは人、人。人。立ち並ぶ煉瓦造りの頑丈な建物を埋め尽くすほどの人だ。通りに面する建物はどれも土産屋か飲食店で、何処も繁盛している。

この祭りの時期ともなるとラピス島の住民は皆、観光客目当ての土産屋か飲食店に変わるという。民家さえも窓辺や軒先を使って手作りの菓子や小物を売る。

「うちは広場に面した3階建て! 2階の眺めはいいよ!」

見晴らしのいいところに立つ家は観覧の席として自宅を開放する。利用料としていくらか支払えば眺めのいい部屋に通してくれるという。

しかし、アッシュヴィトの知る特等席はそんな民家の窓辺でも屋上でもない。それよりももっといいところだ。

「ミンナ、コッチ!」

アッシュヴィトが先導する。どうやらその特等席とやらに連れて行ってくれるらしい。はぐれないように気をつけながら人の波をかき分けて進む。

儀式が執り行われるという広場にはすでに人だかりができている。観客が立ち入れないよう武具で特殊な結界を張っている祭場には、儀式に使うのだろう道具が用意され始めていた。炉に火が入れられる。

それを横目にアッシュヴィトは進む。広場の正面の神殿へ。門番に軽く手を振った。老兵はちらりとこちらを見た後、アッシュヴィトを見て血相を変える。

「な、何故あなたがこのようなところに…」

「ヒサシブリ。…我が名はビルスキールニル第375代皇女、アッシュヴィト・ビルスキールニル・リーズベルト。…通してくれるよね?」

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