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カミサマが助けてくれないので復讐します  作者: つくたん
貿易都市エルジュ
30/88

はたらけ!

「トンデモナイ出費だよマッタク……」

まさかこんな高額を支払わされることになるとは。現金で出せではなくあくまで5万ルーギ分の働きとしたのは、金で地位を贖ったとそしられないためだろう。

ともかくも働けばいいわけだ。積極的に任務をこなしてバハムクランに貢献すれば誰も文句は言わない。はずだ。

「信頼は日々の地道な活動からってな」

日々の地道な活動。つまり。


「おや、見ない顔だね。新入りの配達員かい?」

「あ、はい。よろしくお願いします」

道行く果物売りに会釈する。頑張れよ、と気安く肩を叩かれた。

日々の地道な活動。つまり、バハムクランの新入りに課せられる配達業務である。地図を渡され配達先の住所を教えられ数時間。迷った挙句ようやくたどり着いた配達先の民家の玄関を叩く。

「あいあいー」

赤い荷馬車が停まっている民家だ。ノックすると明るい声が返事をした。ぱたぱたと駆け寄ってくる音がして、直後、ゆっくりドアが開く。

「おやまぁかわいいコだこと」

この配達業務は新入りがエルジュの街の地理を覚えるためと同時に、町の住民への新入りの顔見せも兼ねている。観光客や旅人などではない、立派なバハムクランの団員のひとりだと示すためのものである。なので順番はどうあれ、新入りは必ずすべての家を回ることになる。そして住民たちの認可を得てはじめて各地への任務に携わることとなっている。砦の件は少しでも戦力が欲しかったので例外だが、本来はそうなっている。

「ほい、受取証にサインしたよ。がんばってね」

「はい」

受取証をしまい、配達物である手紙を渡す。新入りへの餞別だよ、かじりながら帰るといいとアズラの果実を渡された。

「いいんですか?」

「いいとも。さ、まだ配達先はあるだろう。行っておいで」


そうやって過ごすこと数日。おおよその家は回った頃。

猟矢に渡された白地図は随分と書き込みが増えていった。寝泊まりのためにと貸し出された宿で色付きのインクを借りれたので目印代わりに数カ所を色付けしてある。

「そういえばさ、サツヤ」

「うん?」

「ゴルグであったデジャビュの正体はワカッタ?」

それは機工都市ゴルグでの水晶占いの時のことだ。水晶を用いた占いなどしたことないはずなのに、猟矢は妙に覚えがあったのだ。

「うーん……わかんない」

それどころか更に悩みが増えたのだ。そう猟矢は言う。このエルジュの町並みもまた、覚えがある気がするのだ。エルジュはもちろん、このような海岸沿いの町など猟矢は訪れたことはないのにも関わらずだ。

「ダイジョウブ?」

「なんだろうなぁ…」

記憶障害など患ってはいないはずなのだが。既視感の正体が掴めない。唸るものの、答えは出てくるはずもなく。

考えても仕方ないことだと解決を先送りにするしかなさそうだ。いつか思い当たってすっきりできればよいのだが。


「砦の動きはどうなの?」

こうして地道に配達任務をこなしているが、こうものんびりしていていいものなのだろうか。砦に、というよりパンデモニウムに動きはないのかとバルセナがアルフに問う。

鷹に地理を把握させているのか、バルセナの地図は書き込みが少ない。上空から鷹が見ることのできない死角だけを書き込んである。鷹に把握させている部分はひどくあっさりとしている反面、死角にあたる箇所は綿密に書き込まれている。

「んー、"観測"してる限りは動きなしだな」

砦を放棄するとカーディナルが言ったからか、パンデモニウムの団員は皆撤収してしまった。今はバハムクランの人間が砦に立ち入り、近隣の村からの略奪品だろう物資を近くの村に還元しているところだ。

火は放ったが砦の構造自体が強固であまり燃え落ちていない。それならばバハムクランの拠点として再利用しようということで修理している。バハムクランがここを拠点にするとエルジュの街が手薄になってしまうので、近々別のクランが派遣されてくる手筈になっている。

そういう状況にあってもパンデモニウムが奪取しに来る気配はない。砦が目と鼻の先にある竜族の集落からも動きは感じられない。堅牢なる怠惰の大地とともに竜族はこの件に関して沈黙している。近いうちにユグギルがバハムクラン代表として竜族の地に赴く予定だ。

「それでだな」

砦と竜族のことはそれとして。新たな任務がユグギルより発令された、とアルフが告げる。そろそろエルジュの地理も覚えてきた頃だろう。街の連中も猟矢たちのことを認め始めているようだし、ここらでひとつ大きな案件を片付けて成果を示してこいとの仰せだ。

「アブマイリの祭りさ」

ラピス諸島と呼ばれる島での祭典だ。サモンタイプ、つまり神を召喚し使役する武具の名産地であるその島で年に一度だけ行われる。島一番の武具の作り手である巫女が、皆の前で武具を作る。

その武具は観客の誰かに必ず適合し、武具自ら術者の元にたどり着く。その受け渡しも含めて祭典だ。

「へぇぇ…」

そんな祭りがあるのかと感心する猟矢にアルフがついでに補足する。その武具を持った者は必ず英雄になれるという謂れがあるのだ、と。

その規模は村だったり国だったり世界だったり様々だが、ともあれ神に認められたというお墨付きが与えられる。そのお墨付きが自信を与え、運命を導くのだろう。

「んで、俺たちにそれを見学してこいとよ」

それがユグギルから発せられた任務だった。情報収集のためラピス諸島に赴くこと。情報収集といっても難しく考えることはなく、見聞きしたことを思うままに報告するだけでいい。質と量は問わない。感じるままに好きに報告してほしいとのことだった。

「つまり、観光してレポート書けばイイノ?」

「まぁ、そういう気概で行ってこいってことだろうよ」

ふぅん、とアッシュヴィトが呟く。何かを企んでいるような顔だった。悪事ではなく、まるで子供が悪戯を思いついたような表情をしている。

「イイヨ、オモシロソウ!」

ラピス諸島へは"ラド"で行ける。行こうと思えば今からでも行ける。アブマイリの祭りはすでに行われているだろう。

祭りは数日かけて行われる。巫女が武具を作る儀式の前は前夜祭として数日かけての祭りがある。その代わり儀式の後の宴や祭りはない。儀式後がないので前日以前に盛り上がっておこうということだ。

儀式の当日以外は住民と観光客が飲めや歌えの宴を繰り広げているだけで、儀式そのものには関係ない。任務に必要なのは儀式そのもののレポートであって祭りの騒ぎではない。

「儀式当日は…明後日か」

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