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カミサマが助けてくれないので復讐します  作者: つくたん
貿易都市エルジュ
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ギダル村

転移魔法、と猟矢が気がつく頃にはすでにギダル村に転移されていた。だが到着したのは村の中心部ではない。村から少し離れた森林部だ。高く切り立った崖から村の様子が見える。

スタテ村と変わらない生活様式の村だった。辺境にあるのどかな村だ。だがスタテ村と違うのは、その村の家々のどれもが黒い煙を噴き燃えていることだった。その煙の隙間に見える赤。村の中心を貫くように流れる小川は赤く濁っている。

「まさか」

「そ、パンデモニウムの襲撃を受けてる真っ最中だ」

略奪と陵辱が今まさに行われている。ろくに戦う力を持たない村人はただ蹂躙されるしかない。

どうすればいいかわかるだろう。連れてきた意味を察しろ。一から十まで指示されなければわからない無能でないなら。猟師の青年は顎で眼下の村を指し示す。

本当に各地でパンデモニウムを退けた"灰色の賢者"ならば、この村からパンデモニウムの人間を追い出してみろ。そういう意味だと察したアッシュヴィトは了解して崖下に飛び降りた。崖から突き出た岩を伝って器用に降りていく。

「ヴィト、俺も!」

それに続いて猟矢が崖を下る。ここで力を証明しなければ何も始まらない。想像力から体現した力を見せる時だ。歩み始める者の最初の一歩がこことなる。

目の前の光景に臆する気持ちはある。が、それ以上にこの惨状を作り出した人間が許せなかった。懲らしめてやりたいし、今の猟矢には懲らしめるための力もある。正義のために振り下ろす鉄槌は暴力ではなく制裁だ。

猟矢はポケットに入れていた銀のカードを取り出す。"歩み始める者"だ。どう使えば良いのかは昨晩四苦八苦しながら覚えたし、頭の中に自動で書き込まれた情報もある。

「"歩み始める者"!」

まず発動するには魔力を込めながらその名前を呼ぶべし。名前は呼ばなくてもいいが、呼んだ方がより適切に発動する。必殺技を叫ぶ主人公の気持ちがなんとなく分かった気がした。

魔力を込めるというのは、体全体を薄く覆っているように感じられるこの空気に意識を集中するということだ。全体を覆う空気を収束してカードを持っている手に集める。そのイメージを頭に思い浮かべることができれば。

「…"指導者による標準"!」

そのイメージを頭に思い浮かべることができれば、猟矢が持ったカードが弓に変じる。

身の丈よりも大きな弓だ。銀色のフレームに金の装飾がなされている。緑の石をはめ込んだ飾りがついていた。その弓に手を添え、矢を番えるように右手を引く。魔法の力が矢を作る。

それを引き絞る。今まさに妊婦へ振り下ろそうとしている凶手ヘ向ける。曲刀を持つ手を的に見立てて狙う。これは的当てだ。的を狙って矢を射ることなど何回もやった。的中率は置いておいて。

「ひ…っ!!」

妊婦の切羽詰まった短い悲鳴。振り下ろされる。まさにその瞬間、猟矢の放った矢が凶手を射抜いた。曲刀が手から落ちる。

「さすが! カッコイイヨ!」

どうやら想像力から弓を作り出したらしい。成程。標準という言葉を弓矢の狙いをつけることと解釈したのか。標準を定め、矢を放つ。そういうことと連想したのか。

そんなことを思いながら、アッシュヴィトもレイピアを振る。衝撃波をまとう刃先を振り払う。親子連れが逃げ込んだ家屋を追う悪党の足を払って転ばせた。追撃にもう一打。眉間を打って気絶させる。

「サツヤ、その人連れて、あの家で隠れてて」

子供3人と母親、そして今しがた猟矢が助けた妊婦の護衛を頼むとしよう。武具が扱えるとはいえ、戦いというものは初めてなのだから無茶をさせるわけにはいかない。あとはアッシュヴィトが単独で終わらせる。

一人ひとりは対処できる。だが数が多い。アッシュヴィトが一人倒している間に別の場所で誰かが殺される。それならば。左手の人差し指にはまった指輪を抜いて宙に投げる。

「――"インフェルノ"!」


その名前を読んだ声が聞こえた瞬間、バルセナは背筋を這う寒気に襲われた。

どれほど隠すのが上手い術者でも、武具の発現の瞬間だけはその身に宿す魔力がありのまま他者に見える。発現の瞬間に感じる魔力で互いの実力を知る。

「…ジョーダンじゃねぇ…」

バルセナと同じ感覚を覚えたのか、隣の彼も心なしか表情が引きつっている。寒気に思わず腕を擦りそうになる。

あれは、なんだ。発現の瞬間に感じた魔力に恐怖する。どれほど強大な魔力か。絶対に立ち向かってはいけない、と本能が告げた。あれを敵に回せば無事ではすまない。

そしてそれを感じても平然としていられるその神経の太さはなんだ。その実力を見るためにあの中に放り込んだが、それは間違いだったかもしれない。とんでもないものを引きずり出してしまったかもしれない。子猫だと思って可愛がっていた子虎が突如牙を剥いたかのような、そんなひやりとした感覚だ。

「……たかが凡庸だと思っていたのに…」


サツヤというあの少年の身の底に宿る魔力の量は、尋常じゃない。

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