水晶占い
閃光と足元が消失する感覚。2回目だが絶対に慣れる気がしない。
まばゆい光に反射的に閉じた目を開けると、スタテ村とは違った雰囲気の市街が広がっていた。画一的に直線に引かれた道路に鉄板を貼り合わせたような外装の建物。平屋はなく、どれも2階以上。それらが所狭しと並んでいた。道には露店が無数に建っている。
そして何より、人の往来がものすごく多い。たてがみを短く刈り込んだ馬が引く馬車が行き来し、その隙間を縫うように人が歩く。少し目を離したらはぐれてしまいそうだ。
「なぁ、武具? だっけ? それってどうやって選ぶんだ?」
ゲームであればステータス画面に書いてあるのだろうが、あいにくここはいくらゲームじみた世界でも現実。そんな便利なものなどなく。
この雑然とした街を歩き回って探すことになるのだろうか。だとしたらいったいどれだけの時間がかかるのか。
そもそも選ぶも何もどうやってだ。使い方すらわからない。仮に、これが猟矢の武具だと渡されても使える気がしない。
「うーん、歩き回るのもイイケド、今は急ぐカラ、チョット裏ワザ使おうカナって」
「裏技?」
曰く、本来なら街をしらみつぶしに歩き回って気になったものを購入するのだという。武具と術者は引き合うからだ。猟矢の目に止まったものはつまり、猟矢が術者となりえる武具である。
だが今は急ぐ旅。猟矢が気になるものに出会うまで歩き回る時間はない。なので少し変わった手段を取ることにする。
初めて武器として武具を持つ者のための案内として、魔力の波長から適性を割り出す占いのようなものがある。あなたはこういうものに適性があると候補を絞ることで、扱える武具に出会いやすくするのだ。
そのような占いで割り出した適性から、いくつか見繕って猟矢に渡すとアッシュヴィトが説明した。
「で、ココがその占いのお店」
つい、とアッシュヴィトが指したのは水晶が軒先に飾ってある店だった。見目はずいぶん明るい。占いの店といえば暗くておどろおどろしいものだという印象があった猟矢には、その店の風貌は奇妙に映った。
「いらっしゃい」
店に入るとすぐに店主が出迎えた。はじめから要件がわかっているのか、店の真ん中に置いてある机に誘導する。据えられた椅子に座るように促した。
「ほい、これ持って」
そして机の上に散らばっていた水晶の粒を猟矢の手の平に載せる。指先に乗る程度の透明な粒だ。それを左手の上に載せ、手の平を覆うように右手をかぶせる。手の中で丸い空間を作るイメージで握ってみろ、と手を取って握らせる。
これをどうしろと。猟矢が戸惑いの表情を浮かべてアッシュヴィトを振り返る。アッシュヴィトは微笑みで返すだけだった。店主の言うとおりにするしかない、と困ったように店主を見る。
この手の扱いには慣れているのか、店主は猟矢の対面に座る。目線を合わせてゆっくりと話す。
「今、君の手には水晶がある。これは君の魔力に反応する水晶だ」
この水晶の変化で適性を占うようだ。占いというよりは診断に近い。
「目を閉じて……手の平に水晶があるね? 水晶に意識を集中してごらん」
言われたように目を閉じる。手の中で水晶の硬い感触がした。角が皮膚に当たって少し痛い。握ったままの手を開かない程度に、もぞもぞと手の中で落ち着く位置を探す。どこも落ち着かない。変に位置がずれたのか、皮膚に接触する角が増えた気がする。
「これは君の魔力に触れることによって変化をもたらす。イメージしてごらん。水晶はどうなっていく? その手の平の空間の中でどう変わっていく?」
どう、と言われても。皮膚に当たる角が痛い。もぞもぞと動かして位置を変えても、どうあっても皮膚に当たって痛い。握る前はこんな感触などしなかったはずだ。原石からそのまま剥離したような、指先に乗る程度の小さな欠片だった気がする。
「…目を開けて、手を開いてごらん」
促され、まぶたを開く。左手にかぶせていた右手を離す。そこにあったのは、四方八方に柱を伸ばす白濁色の水晶があった。
さっきまで指先に乗る程度の小さな透明の欠片だったはずだ。だが猟矢の手にある白濁色の水晶にはそんな面影などない。
「…ふむ、ウェポンタイプに強適性、サモンタイプに小適性といったところかな」
「ウェ…?」
猟矢が目を瞬かせる。すかさずアッシュヴィトが説明を差し挟んだ。
曰く、武具には大分して4つに分類される。属性を操り、自在に炎を起こし氷を作り出すもの。単純な武器に変じるもの。時空に干渉するもの。そして異形のものを召喚し使役するもの。大まかに分けてそういう分類となっている。
猟矢の適性は、武器に変じるものに強い適性を、そして異形のものを召喚し使役するものにほんの少し適性を持つというのがこの水晶による占いの結果だった。
「ヴィトはどうなんだ? やってみせてくれよ」
「イイケド…」
借りるネ、とアッシュヴィトが机の上の水晶粒を握る。猟矢がやったように、左手の上に乗せて右手をかぶせる。よっ、と短く声を出して開いた。
アッシュヴィトの手の上には四方八方に柱を伸ばした青く澄んだ水晶があった。色が違う以外は、少し大きいくらいで猟矢と変わらない。だが、それをそっと机の上に置くと、水晶の硬質さなどなかったかのように、まるで砂のようにぼろぼろと崩れていく。
「…こうなるンダヨ」
「お前さんはウェポン、サモン、ディメンションか。3つに適合するとは珍しいな」
しかもそのうち、時空に干渉するものに適性を持つとは。時空を操るという特殊な性質上、あまり適合する人間はいない。
「…なんか負けた気がする」
「アハハ、数じゃナイヨ、こういうのは」
あくまで何に適性を持つかだ。適性がなくても強引に発動できるものもある。ただその際に代償を多く支払ったり効果が適切に出なかったりするだけで。
この占いは指標であって、それ以外の可能性を断つものではない。使おうと思えばどうとでもなる。
「このセカイはカミサマに愛されてるカラネ」
ぱちんと可愛らしくウインクをしてアッシュヴィトが笑う。しかし猟矢は不思議そうな顔をしていた。
適性の数で負けたことに対する釈然としなさという雰囲気ではなさそうだ。どうしたノ、と問う。
「…いや……なんか、こういうの見たこと…聞いたことかな…知ってる気がして」
だが正体がわからなくて確信を持てない。以前、どこかで、似たようなことを見たか聞いたかしたかのような気がするのだ。
だが猟矢が元いた世界にそんなものはない。占いなんて胡散臭いものなどしてもらったこともない。
だけどどうしてか、この水晶占いとやらに既視感があるのだ。
「うーん……まぁ、考えても仕方ないか」
わからないものをいつまでも考えていたって答えは出ない。いつか、きっと何かのきっかけで思い出すはずだ。それまでこの既視感は胸の中にしまっておこう。




