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カミサマが助けてくれないので復讐します  作者: つくたん
神様に愛された世界
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これからのこと

どうするか、と問われアッシュヴィトは可愛らしく顎に人差し指を添えて答える。

「うーん、フィントリランドからエルジュに向かうつもりだったケド、キミがいるならゴルグにも寄らないとな。エルジュに着いたらバハムクランに渡りをつけられればイイんダケド…」

「待って待って待って」

知らない単語がたくさん出てきた。おそらく地名か何かなのだろうが猟矢にはさっぱりわからない。

理解が遅い猟矢のために、アッシュヴィトは先程のメモ用紙を裏返してペンを走らせ、上に偏った菱形のような図形を紙面いっぱいに描く。下に行くほど先細りする歪な菱形は簡単な地図のようだ。

「コレがディーテ大陸」

他に北のシャロー大陸、西のベルミア大陸を含めた3大陸、あとは群島や小島が各所に散るのがこの世界の地図なのだと補足する。そのディーテ大陸と書いたのだろう、端に書きつけた文字はやはり猟矢には読めなかった。

そしてその偏った菱形のような図形の一番上、最北端の頂点にペン先が滑る。くるりと円を描いて囲む。

「このあたりがフィントリランドって国ネ。スタテ村はココカナ」

囲んだ円の端の方を指す。そこから左下、菱形の左の角のあたりへ線を伸ばす。角を丸で囲み、文字を書く。猟矢には読めない文字だ。

「ココが貿易都市国家エルジュ。ボクの目的地はココなんだケド」

そこを警護する自治組織に会うのがアッシュヴィトの旅のひとまずの目標であった。そこを足がかりにパンデモニウムへ対抗するつもりだった。

「ダケド、サツヤがいるから」

エルジュと書いたらしい文字が添えられた円からペンを離す。逆をなぞり最北端へ戻り、そこから逆、右下へと線を引く。同じように丸で囲む。そこから線を伸ばして横へ。上から右の角を経由して左の角へと向かうということらしい。

「このゴルグって街に寄って、キミの装備だとかを整えたいなって思うノ。ソコからエルジュに行こうカナって」

「装備?」

単に旅支度という意味ではないというのはアッシュヴィトの口調からぼんやりと察したが、装備とは。首を傾げる猟矢にアッシュヴィトが頷く。

曰く、このゴルグという街は職人が集まる技術都市で、故に武具を製作し卸す店も多い。だからそこに寄って猟矢が使う武具を選んで手に入れるということだった。それが整ってからエルジュに向かう。

「わかった?」

「うん」

今は大陸の北にある国にいて、目的地は西の都市国家。だがその前に東の街に寄る。慣れない響きの地名を飛ばして事態を飲み込む。

「とりあえず…丸腰のままはアブナイし、ゴルグまでは"ラド"を使うネ」

一刻も早く武具を手に入れ、護身くらいはできるようになってもらわないと旅に同伴させるわけにはいかない。パンデモニウムは無抵抗の相手だろうが容赦しない。容赦してくれるのならばアッシュヴィトの故郷は滅んでないし世界は蹂躙されてもいない。

「わかった」

"ラド"とは空間転移の武具のことだろう。右耳のピアスを示すアッシュヴィトの様子で理解する。ということはあの足元が消えるような感覚をまた味わうということか。あれはどうも落とし穴に落ちたような感覚が好きになれそうにない。

「さ、メンドウなおハナシはココマデ! ゴハンにしよ!」

事態を噛み砕いて飲み込むのにだいぶ頭を使っただろう。ちょうど飯時だ。

この宿屋は2階にベッドルームが並び、1階は食堂と酒場を兼ねた食事処というつくりになっている。村人の憩いの場にもなる1階ではすでに村民が集まり始めているようで、賑やかな声が聞こえてくる。


食事は意外なことに、猟矢の知る料理というものとほとんど変わらなかった。チーズと野菜を刻んで窯で焼いた肉。パンとスープ。ゲームやアニメや漫画にありそうな料理を再現したかのような。

異世界というからには味も見た目もひどく異様だったりするのではないかと危惧していたのだが、杞憂に終わったようだ。

ノンナという名前の家畜から作られたチーズと干し肉は独特の癖があったが、慣れないだけでまずいわけではない。チーズは少し遠慮したいところだが、肉なら味付けが変われば何とかなりそうだ。羊の肉に少し味が似ている。

「成長期だろ、いっぱい食べな!」

料理人と給仕を兼ねる小太りの女性が山盛りの皿を勧めてくる。アリガト、とアッシュヴィトは笑顔でそれを受け取った。ちなみにこの代金は当然ながらアッシュヴィトが出している。旅費については心配しなくていいと言われた。同行人が一人増えたところで切羽詰まるような財布事情ではない。

どうやらこの世界の貨幣単位はルーギというらしい。水が1杯1ルーギに相当する。食事は安いもので3ルーギから5ルーギ前後。酒になるとそれより少し高い。すべて硬貨で支払われている。

自然の風景や植物を絵柄のモチーフにしているらしい硬貨は世界共通の貨幣らしく、何処に行ってもこれで通じるのだという。言語といい貨幣といい、ひとつのものが広く共通しているあたり意外と高度な文明なのかもしれないと猟矢は思った。

「どう? 慣れそうカナ?」

「慣れそうっていうか…慣れなきゃいけないだろ」

「まぁネェ…」

アッシュヴィトが願いの成就のために具体的にどういう手段を取るのか猟矢にはまだわからなかったが、おそらくきっと長い旅になる。慣れないからといつまでも言い訳にしていいわけではない。そこにあるものを受け入れられるようにならないといけない。

「…まぁ、チーズは勘弁だけどさ」

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