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貴方は尊いのだから  作者: 若葉マーク
始まり
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第52話 放課後のちょっとした冒険 丸山暁美

久しぶり、および短いです。

その日、突然「生まれて初めての」デートのチャンスが訪れた。しかも、私の想い人でありこの学校において絶大な人気を誇る立木勇気くんからのお誘いだった。

私は最初、大いに狼狽えた。デート!?いや、文面にははっきりとデートとは書いていないけど、立木くんレベルの男の子ならば当然いるであろう彼女とりまきたちや、空手部とか柔道部の強面にひと声かければSPもかくやという護衛付きで安全に買い物ができるだろう。

それをあえてしなかったと言うことは、私を選び、一緒に街を歩いてデートしてくれるということだ。ああ、そうだとも。そうに決まっている。


彼からのラインは私がまだ下校していないか、という確認のようなものだった。その時私はちょうど図書室にいたので、校内にまだいる、と返事をした。興奮と緊張で指がかなり震えてしまって少し妙な文章になってしまっているがこれは仕方ない。


大急ぎで勇気くんのまつ校門前に走った。彼は私を見つけると、にっこりと笑いながら、でも少しだけ申し訳なさそうな表情をしながら私に謝意と詫びを言った。こんな気遣いをしてくれるなんて、勇気くんはやっぱり私に気がある・・・、なんて思うだけなら罪はないよね?


私は彼に「大船に乗ったつもりでいてね!」と胸を張って言ってみた。実際は中心街でナンパやらで絡まれたら怖いな、とも思っていたけど。

駅までの道のりはとても楽しかった。勇気くんもころころと笑ってくれた。その度に私の脳はどこかに溶け出していっているのではないかと思うほどの多幸感に包まれていた。

電車では勇気くんが普通車両に乗ってくれた。他の乗客たちからの視線が痛すぎる。でも、デートだ!これはデートなんだ!と思うと周りの視線はさほど気にならなくなった。

電車を降りると、やはりホッとしてしまい、思わず弱気な言葉が出てきてしまったが、彼はあまり気にしている様子もないし、まずは及第点をもらってもいいだろう。

駅から本屋までは少しだけ柄の悪い繁華街の近くを歩かなければならない。それが私にはネックだった。ナンパされて実力行使に出られたら、女らしく勇気くんを守り通せる自信は正直言ってなかった。

もしナンパでもされたら勇気くんの手を引いて全力で逃げるか、私が少しでも食い止めて勇気くんだけでも逃がそう。うわ、けっこう怖くなってきた。でも勇気くんとのデート!と考えるとその多幸感で恐怖は脳の片隅に追いやられた。


問題の繁華街に差し掛かると、案の定あまり柄の良くない方々がチラホラいらっしゃる。しかも完全に勇気くんのことを見ている。最初は驚きの表情で、その後は私を値踏みするように。そして、複数人いる時は何事か相談するように話している。

まずい、完全に狙われている。早くここを抜けないと。

幸い、ナンパしてくる輩はいなかった。目的の本屋に入ると、勇気くんは私のことを気遣いつつ探し物を楽しんでいる様子だった。ああ、可愛いなぁ。

私は彼の後ろをデレデレしながら付いて回った。

周りからはどう見えているかな?デートしているように見えていてほしいなぁ。私は彼とデートを楽しみ、その後交際に発展、結婚、出産、しあわせな人生を思い描き、ニヤニヤしていた。

「先輩?」と声をかけられてハッと現実に戻ると、勇気くんが私をやや心配そうに見ていた。

私は恥ずかしさのあまり顔が真っ赤になっていただろう。失態だ。変態だと思われたかもしれない。

だが勇気くんは特に気にした様子もなく、私が「いや、なんでもないよ、えへへ」とやや気持ちわるい返答をしても笑顔で「よかったです。もしかしたら退屈かと思っちゃいました」と言ってくれた。

私は「退屈だなんて!そんなこと!ありえないよ!」と言うと、勇気くんはまた笑顔を見せて「それなら良かったです。先輩は何か目当てのものはありますか?」と聞いてきた。私が特にないよ、と答えると勇気くんは画集コーナーからキープしていたイラスト集をレジに持っていき会計を済ませた。その際の店員のいやらしい目つきが私を若干苛立たせた。まあ、気持ちは分からんでもないけど。


本屋から出ると勇気くんからとんでもない提案があった。この後何か奢りたい、と。そんなとんでもなくとんでもないことがあっていいのか!?と私は脳はパニックを起こした。それでもなんとか「男の子にお金を出させるわけにはいかないよ!」と返答するも勇気くんは頑なに奢る、という。

結局、勇気くんの厚意に甘えることにして、近くのファミレスでスイーツをご馳走になった。周りの客からの視線が痛かったけど、私は夢心地で勇気くんとの軽食タイムを満喫した。


名残惜しい別れの時・・・、駅で彼を見送る時の切なさを感じながら、私は彼に手を振ってみた。彼は花が咲いたような笑顔で手を振り返してくれた。


彼の乗った電車が見えなくなるまで手を振って、その後私は人目も気にせずにぴょんぴょんと跳ね回って喜んだ。今日は最高の一日だった!


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時は戻り、立木勇気と丸山暁美の二人がファミレスに仲良く入っていくのを目撃した新波翠は、震える手でスマホを操作していた。たまたま弓の道具を買いに街に来てこんな衝撃の光景を目撃するとは思わなかった。付き合ってるのかな、あの二人は。

スマホでメールを送った相手は秋山翔。立木くんと知り合いだし、何か知っているかもしれない。立木くんが誰と付き合っても、ハーレムを形成しても彼の意思だ、仕方がない。でも、ハーレムならできれば私も入れてほしいなあ、なんて。翔くんはハーレムを形成する様子は今のところないし、打てる手は打っておきたい。


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