表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
貴方は尊いのだから  作者: 若葉マーク
始まり
55/59

第49話 田所さんと大村さん

短いですが。

私と大村さんは喫茶店で色々話した。勇気くんの可愛らしさ、礼儀正しさ。女性を見下したりせずに、優しく接してくれる。


結果、私たちはとてもいい友人になることができた。

大村さんはもうかなり勇気くんに夢中になっているようだ。私も負けないくらいに彼に夢中になっている。


日が落ちるまで喫茶店で話し込んだ後は居酒屋にまで2人で繰り出した。もうこのころには大村さん、田所さん、ではなく三枝、凛さん、と呼び合うぐらいには私たちは親しくなっていた。


三枝は酒にはあまり強くないらしく「勇気くんとひとつ屋根の下で暮らす立木部長が羨ましいのであります・・・」と半泣きになりながら居酒屋の椅子にぐでん、と身体を預けるようにして酔っ払っていた。大柄なので後ろの席の椅子付近まで頭が近づいている。

私が「ちょっと、シャンとしなさい!そんなんだと勇気くんに笑われるよ」と言うと、三枝はすぐに態勢を整えると「ああ、勇気くん、会いたいです・・・」と今度はテーブルの真ん中あたりに頭を落とそうとする。

これはもうしょうがないな、と思い私は三枝を支えるようにして居酒屋を出た。

「三枝、ちょっと!聞いてる?家はどこよ?住所は?」と聞くと、酔っ払った口調ながら三枝はそれらしき住所を口にした。タクシーに押し込めるように乗車させると、運転手さんにタクシー代を渡した。運転手さんは大柄な三枝を見て一瞬怯んだような顔をしたが、おそらく規定の倍程度のお金を渡して「お釣りはいいので、よろしくお願いします」と頼むとすぐに職業的な笑顔を見せた。

三枝に「ほら!寝ないで帰るんだよ!」と言い、顔を軽く叩いた。

すると三枝は状況が少し飲み込めたのか、運転手さんに「粗相はいたしませんので、よろしくお願いします!!」と、頭を下げた。


無事にタクシーが発車するのを見届けてから私も代行を呼んで帰路についた。


翌朝、携帯がメールの着信を知らせた。三枝からだ。

文面には「昨日はほんとうにありがとうございました。一歩間違えたら本当に犯罪者になるところでした。凛さんにはどうお礼をしたらいいのか・・・」とあった。

私は三枝に対して(なんとまあ律儀な)と思ったが、その律儀さが心地よかった。三枝とはまたゆっくり飲みに行こう、とメール返信をしておいた。

そして、駅での待ち伏せはもう絶対にしないように!と釘を刺しておいた。


しかし、立木さんが三枝の会社に現れるとは。しかも三枝は受付。合法的に立木さんと話したりできるではないか。これはなんとも羨ましい。まあ、そんなに頻繁に来ているわけではないようだが、それでもチャンスがあるというのは羨ましいものだ。

私ははあ、と嘆息すると仕事へ向かう準備を始めた。


会社に到着すると、今日のスケジュールをチェック。まあ、今日は誰かと2人で契約している銀行のセキュリティ巡回だったはずだ。気楽にできる・・・と、スケジュール表を見ると、私の行動が変わっていた。2人で、というのは変わらないが内容が「男子中学校の運動会の警備」になっている。これは・・・!と驚いていると、先輩に声をかけられた。


「驚いたろう?田所。この前の件でお前の評価はかなり上がってるぞ!このまま行けば、アイドルの護衛なんかも任されるかもしれんぞ」と私に声をかけたのは入谷希いりや のぞみ先輩、この会社のエースだ。


私が「驚きました」と言うと、先輩は「可愛い男子中学生を眺め回せる機会なんてそんなにないぞ。うまく行けば短パン姿かもしれない・・・」と、思索を巡らすような表情をしている。

私は(不純すぎる・・・!でも、立木さんを見た後だと私もそんな目で男の子たちをみてしまうかも)と思ってしまった。

そして私はともすれば浮かれそうになってしまう心を落ち着かせて、仕事へと向かった。


その頃、大村三枝は緊張した面持ちで会社の受付に座っていた。もしかしたら立木さんにバレているかも、それを叱責されて会社をクビに・・・などなど、考えは悪い方向に行くばかりだ。

そろそろ、立木部長が出勤してくる時間だ。三枝は冷や汗が出そうになるのをなんとか抑え、続々と入ってくる社員たちを見やり、表面上は元気に挨拶をする。


五分後、立木部長が入り口から入ってくるのが見えると三枝の緊張は頂点に達した。

「おっ、おっ、おはようこざいます!!!」と、大声が出てしまった。

当の本人は大声に驚いたようで「お、おお・・おはよう、大村さん」と、若干引きつったような笑みを浮かべた。その後すぐに部署に向かっていったので、どうやらバレてはいないようだ。

三枝はようやく少しだけ安心して業務に戻ることができた。


===============================


昼、田所凛は周りの保護者、及び同僚にバレないように静かに嘆息した。

男子中学校の運動会。最初は男の子が沢山いて少しだけ気持ちが浮かれたが、彼らは気位が恐ろしく高い上にやはり女嫌いらしく、凛にも同僚にも冷たい視線しか寄越さない。それに、こう言っては何だが立木勇気さんに比べると容姿もそんなに・・・。

最初に感じた(役得!)という気持ちは霧散しており、今は早く運動会が終わってほしいとしか思えなくなった。

そして、立木勇気さんにもう一度会いたい・・・。できれば話をしてみたい・・・とぼんやり考えるまでになってしまっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ