第5話 距離感
僕の学校生活の話をしよう。
やはりこの世界のこと、もちろん男子生徒は持て囃される。女子生徒は数少ない男子生徒をなんとかモノにしようと躍起になっている。
僕もありがたいことに女子生徒からはなにかとアプローチを受ける。
僕は彼女がほしい。愛し合える、信じ合える、そんな女性を求めている。この世界の女子生徒だから仕方のないことかもしれないけれど、とにかく女子たちが肉食、というかガツガツ来るのだ。
聞こえてくるのは「顔がいい」「かっこいい」「もしモノにできれば自慢顔で街を歩ける」などなど。容姿が先に来るのか・・・と少しうんざりしてしまう。
内面を見てもらえないものか、と。
目視できないものを見てほしい、というのもおかしな話ではあるけれど、僕にとっては大事なことなのだ。変化前の記憶を探ると、僕は相当に性格の悪い男だったらしい。
女には全く目もくれず、嫌悪感を隠そうともしなかったと。女性に対して何故か嫌悪感を抱いていたのだ。だが今の僕は違う。それを分かってもらおうとクラスメイトの女子たちに積極的に話しかける。朝の挨拶、帰りの挨拶、世間話もしたいところだけど、僕が話しかけると女子はみな凄まじく挙動不審になってしまう。うまくいかないものだ。
とにかく、少しずつでも僕に慣れてもらいたい。そこで僕は身近にいる存在、すなわち、母と妹を使って女子との距離感を計ってみよう、という考えに至った。
学校が終わり、クラスメイトとの挙動不審な挨拶をひと通り終えて帰路につく。その時、以前、下駄箱ロッカーの前で挨拶した橘さんと行きあった。「橘さん、また明日ね」と笑顔で挨拶してみる。橘さんは顔を真っ赤にしながらも、「さ、さ、よなら、また明日」と言ってくれた。橘さんは恥ずかしがりなだけで、もしかしたら仲良くなれるかもしれない。密かに期待が膨らむ。
家に着くと、ちょうど妹の幸恵がリビングにいた。「ただいま、さっちゃん」と笑顔を送ってみる。すると、幸恵は「さっちゃん、さっちゃん・・・」と幸せそうににへらと笑う。これではいつもと同じである。
そこで、「さっちゃんは最近何かハマってるものあるの?」と聞いてみた。幸恵はなんとか夢の世界から帰ってきたようで、「ハマってる、もの?お、お兄ちゃんにハマって・・・んー、あー、じゃなくて、その、あの、スポーツ観戦、かな」と答えてくれた。
僕もスポーツ観戦は好きだ。そこで、どんなスポーツか、どんなチームが好きかを聞いてみた。
幸恵は意外にも野球、サッカー、バスケットボール、総合格闘技、と幅広く見識があった。僕は嬉しくなって色々聞いてみた。
僕が質問するたびに幸恵はとても嬉しそうに、少し興奮気味に答えてくれた。野球のスター選手、サッカーのスター選手、バスケットボールのスター選手、そして現在「人類最強の女」のこと。野球やサッカーとは違った熱の入り方で幸恵は色々語ってくれた。
その際、わざと幸恵との距離を縮めてみた。すると、幸恵はごくり、と喉を鳴らして顔を真っ赤に染めた。
このくらいの距離がどうやら幸恵の限界のようだ。