第39話 運動部の会議とサッカー部
バスケ部の練習試合に、一年生の彼が見学に来るという情報がもたらされた野球部は、バスケ部を除いた全運動部に召集をかける。各部員2名づつ、クラブハウスの飲食スペースへと集合。という伝達を一年生にさせた。
妖精絡みのこととなれば運動部の動きは速い。すぐにクラブハウスには運動部員達が集まった。
野球部キャプテン、箕輪愛が、集まった面々に「集まってくれてありがとう」と、述べる。そして、「今週の日曜日、バスケ部の練習試合に、一年生の例の子が見学に来るらしい」と重々しく告げた。
「例の子って、あの妖精ちゃん?」「なんでバスケ部だけ?」
「くそう、うまくやったなバスケ部の奴ら」
「うちらも練習試合に来てもらおうよ。グラウンドにテント設営して、冷たい飲み物とか用意すれば来てくれるんじゃない?」「うちにも河嶋さんみたいな人いればいいんだけどねぇ」などとそれぞれがざわめく。
そんな中、弓道部から来た新波だけは、(誘ったとか絶対言えない・・・)と冷や汗をかいていた。
「サッカー部、練習試合の予定あんの?」と箕輪が聞く。サッカー部から来た二人に聞く。サッカー部からは、キャプテンの小川、二年生の槌瓦が参上している。サッカー部はバスケ部、野球部に次ぐ実力と規模を有しており、発言力もそれなりにある。
小川は「うちもあるけど、相手のとこに行かないといかんのよ」と、ガックリ肩を落とす。隣にいる槌瓦は、大柄な体を縮こめている。小川が槌瓦を連れてきたのは、見た目がゴツいので、所謂箔付けのようなものだ。実際の槌瓦は、大柄な体と厳つい顔つきとは裏腹に非常に優しくて思いやりのある性格をしている。試合でも、相手に強く当たれないため、宝の持ち腐れだと小川は常々思っていた。
以前、サッカー部がグラウンドで練習できず、とりあえず外周をランニングしている時、偶然立木くんが下校しているところに出くわした事があった。サッカー部全員がランニングの足を止めて、立木くんを凝視してしまい、彼を困惑させてしまうという事案が発生した。
部員達はすぐにランニングを再開したのだが、その時に最後まで立木くんを見送っていたのが槌瓦だった。
小川は、槌瓦を成長させるには、まずは実戦での経験、相手を完璧に封じるという経験をさせてこそと考えている。練習試合に立木くんが来てくれれば、あるいは・・・と考えているのだった。
会議は「立木くんを練習試合等に誘う場合、キチンと順番を守ること」という取り決めがなされて終了となった。
練習に向かう道すがら、小川は槌瓦に唐突に言う。
「なあ、ツッチー。立木くんに惚れちゃったでしょ?」
すると槌瓦は、見ていておかしくなるぐらい狼狽えながらしどろもどろで答える。
「え!いや、あのー、惚れるとかそういうことではなくてですね、あの、あんな可愛い子いるんだなぁって、それだけ、それだけです、ハイ」と、大きな体を縮こめた。
小川は「隠さなくていいって。あんな可愛い子、誰でも一度は好きになっちゃうと思うよ」と、笑いながら言う。すると、槌瓦は「はい、好きになっちゃいました・・・」と、あっさり白状する。
小川は「じゃあさ、マネージャーになってもらえたらツッチー嬉しい感じ?」と聞くと、槌瓦は手をブンブン振りながら、「それは、あの子の意思とかもありますし!無理は言えないと思います!もちろん、サッカー部に来てくれれば嬉しいですけど!」と言う。
小川は、(ツッチーほんとに優しいんだなぁ)と思いながら、「それじゃさ、ウチが強いって所を見せてあげればいいと思うわけよ。今回は無理だけど、公式戦なら全校応援もあるし、そこでツッチーが活躍すれば立木くんもサッカー部カッコいい!って思ってくれるんじゃないかな」と、言ってみた。
槌瓦は、「でも私、ミスしてばっかりだし・・・」と肩を落とす。
小川は「ツッチー、いいガタイしてんだから、頑張れば県内トップクラスのセンターバックになれると思うんだけどなぁ」と言う。八割本気、二割おだてだ。これで強気なプレーができるようになればもう一人のセンターバック、小野の負担が減る。乗ってこい、と小川は心の中で煽る。
槌瓦は、「頑張ってみます。でも、立木くんを無理にマネージャーにするのは・・・」と言うので、小川は「そこは大丈夫だよ。勝手に動いたら箕輪に何されるか分かったもんじゃない」と笑った。そして、「問題は」と続け「うちにはバスケ部の河嶋みたいなのがいないから、公式戦でいいとこ見せても立木くんを上手く誘えるかどうかだよね」と、苦笑いする。




