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貴方は尊いのだから  作者: 若葉マーク
始まり
41/59

番外編 さっちゃんが風邪をひいてお兄ちゃんに甘える話

まあ、パラレルワールド的な雰囲気で読んで頂ければ。

「お兄ちゃん、ねえねえ、お兄ちゃん!ギター練習したよ!聞いてほしいな」


「・・・・・なんで?」


「えっ?・・・お兄ちゃん、前に聞きたいって・・」


「なんで僕がお前のやること見たり聞いたりしなくちゃいけないわけ?てか、なんで話しかけた?うぜえ」


「お兄ちゃん・・・やだよ!冷たくしないで!お兄ちゃん!!!!」




・・・・・・・、「お兄ちゃん!!!」


周囲が真っ暗だ。最初、それが夢だとも気がつかなかった。はあ、はあ、と荒い呼吸をする。

喉がひどく乾いていた。


体が、熱い。ベッドサイドの時計を見ると、23:26と表示されている


夢?今のは、夢?お兄ちゃんがあんなに冷たいわけない。

前は少し怖かったけど、今は優しくてかっこ良くて、世界で一番大好きなお兄ちゃん。

でも、言い知れない不安を感じて、私は嗚咽とともに涙を流してしまった。


その時、部屋のドアが控えめにノックされた。


「さっちゃん」お兄ちゃんの声だ。小さく呼びかけてくる。私は、まだ頭が完全に覚醒していなくて返事ができない。


「さっちゃん、大丈夫?」と、お兄ちゃんが心配そうな声で問いかけた。


私は、ようやく「大丈夫・・・」と声を絞り出す。ひどく掠れた声だった。


お兄ちゃんは、「具合悪いの?母さんを呼ぼうか?」と、少し慌てて呼びかけてきた。

お兄ちゃんは優しいままだ、大丈夫、と自分に言い聞かせるけど、涙はどうしても止まらなかった。

お兄ちゃんの顔を見たい。

私はきっとひどい顔をしているだろうけど、お兄ちゃんに頭を撫でたりしてほしい。


私は、かすれ声で「お兄ちゃん、入って、きて、くれる?」と呼びかける。本当なら私が出迎えないといけないのだけど、体が重くて動くのに時間がかかりそうだ。


お兄ちゃんは、「わかった、入るよ」と言って、遠慮がちにドアを開けた。そして、ベッドの上で泣いている私を見て驚いた表情を浮かべる。


「さっちゃん!どうしたの?大丈夫!?」と、少し抑えた声で話す。


私は、お兄ちゃんに心配をかけまいと頑張って涙と嗚咽を抑えようとしたけど、うまくいかなかった。

せめて、夢にうなされただけだから大丈夫だと伝えなければ。


「お兄ちゃん、あのね、怖い夢、みて、あの」

だめ、うまく話せない。

嗚咽が邪魔だ。

お兄ちゃんがベッドに近づくと私の頭に手を触れる。柔らかくて、少し冷たくて気持ちがいい。


このまま、お兄ちゃんに頭を撫でてほしい。


「怖い夢、みたの?大丈夫だよ」と、お兄ちゃんが私の頭を撫でながら優しく言ってくれる。


私は、いろんな感情が混ざり合ってしまって、お兄ちゃんに抱きついた。極力抑えた声で、子供みたいに泣いてしまった。

こんなことしたらお兄ちゃんのパジャマを汚しちゃう。

それに、抱きついたら嫌な気にさせてしまうかも。

離れなきゃ、と思うけど体が言うことを聞いてくれない。


お兄ちゃんは、突然抱きつかれてビックリしたみたいだけど、すぐに私の背中に手を回してさすってくれた。


そうしているうちに、ようやく私は泣き止むことができた。お兄ちゃんは、「落ち着いた?」と、私の顔を優しく覗き込む。

私は、「うん、お兄ちゃん、パジャマ、ごめんね」と謝った。

お兄ちゃんは、「そんなこと気にしないの」と笑顔で言ってくれる。そして、改めて私の額に手を当てて、「さっちゃん、熱があるんじゃない?」と心配そうに言う。


「すぐに水とか持ってくるよ」と、お兄ちゃんが部屋を出て行く。私は、お兄ちゃんが優しくしてくれたこと、泣いたところを見せてしまったことを考えて情けないやら嬉しいやら、よく分からない感情が頭に渦巻いた。

お兄ちゃんが心配してくれているので、嫌がらない程度に甘えたい、とも思う。

でも、風邪だったらお兄ちゃんにうつしてしまうかも。


ぐるぐる回る頭で、ぼんやりと色んなことを考えていると、お兄ちゃんが水と、氷枕を持ってきてくれた。そして、「さっちゃん、すごい汗かいてるみたいだし、一回着替えた方がいいよ」と言って、部屋を出て行く。


私は、少しでもお兄ちゃんに看病してほしいので、がんばって着替えた。


ドアの外で待っているらしいお兄ちゃんに、「着替えたよ」と声をかける。


お兄ちゃんは再び私の部屋に入ってくると、すっかり熱のこもった部屋の空気を入れ替えた。夜気に冷やされた風が窓から吹き込んできて、心地がいい。


お兄ちゃんはすぐに窓を閉めると、私に水を飲むように促す。そして私をベッドに寝かせて氷枕を首筋に当ててくれる。


「さっちゃん、どこか苦しいところない?」


「喉が痛い。あと、膝も少し痛いかも」

私はお兄ちゃんに甘えたい。でも、たぶんここからは母さんの出番だと思う。お兄ちゃんに負担をかけたくないし。


でも、今夜の私は熱のせいかワガママを言ってしまう。「お兄ちゃん、ここにいて欲しいの」

こんな事を言われても、お兄ちゃんは困ってしまうだろうな。


お兄ちゃんは「母さんじゃなくていいの?」と聞いてきた。困った様子はない。もう少しワガママ言っても大丈夫かな?


「お兄ちゃんに、看病してほしい」思い切って言ってみる。


お兄ちゃんは、「分かった。じゃあ、準備してくるから、楽な体勢にしててね」と、部屋を出て行った。


私は、不謹慎だけど風邪に感謝した。

お兄ちゃんに世話を焼いてもらえるなんて、こんなに幸せなことはない。


お兄ちゃんはすぐに戻ってきてくれた。私の方は、氷枕のおかげでだいぶ頭がスッキリしてきていたけど、お兄ちゃんに甘えたいので、あえて何も言わなかった。


お兄ちゃんは、「お待たせ。スポーツドリンクとタオルも持ってきたよ」と、私のベッドに近づく。そして、「熱、高いかな?」と私の額に手を当てて、高いみたい、と呟く。横になる私の額に冷やしたタオルを当ててくれる。


「さっちゃん、何か欲しいものある?」と、お兄ちゃんが聞いてくる。・・・、して欲しいことは山ほどある。


「スポーツドリンク飲みたいな」と、お兄ちゃんが持ってきてくれたドリンクに手を伸ばす。すると、お兄ちゃんが「さっちゃん、起きちゃダメだよ!」と言い

ながら私を制して、「飲ませてあげるから」と、私の背中に手を回して、ゆっくりと座る体勢にしてくれた。私は高熱のあまり幻覚でも見ているのだろうか?


スポーツドリンクのペットボトルを私の口元まで持ってきてくれる。「ゆっくり、一口ずつ飲むんだよ」と言って私の背中を支えてくれる。


スポーツドリンクを半分くらい、ゆっくり飲んだ。お兄ちゃんに触れていて欲しくて、わざと時間をかけた。


再び横になる私の額に、お兄ちゃんはタオルを冷やし直して置いてくれた。

私の顔がすさまじく熱いのは、熱のせいだけじゃない。


ここまでしてもらえばもう、十分だ。お兄ちゃんもきっと眠いだろうし、もう大丈夫と伝えなきゃ。


「お兄ちゃん、ありがとう。だいぶ楽になったよ。もう大丈夫だし、風邪うつしちゃうかもしれないから、お兄ちゃん戻っても大丈夫だよ」・・・ほんとはずっといて欲しい。


お兄ちゃんは「さっちゃんが寝るまでいるよ。さっちゃんが寝たら、おでこに貼る冷たいシートに替えるから。そしたら部屋に戻るよ」と言ってくれた。


私は、最後のワガママを言ってみることにした。


「お兄ちゃん、あのね、手を握っててほしいの・・・」お兄ちゃんなら、きっとこんなワガママでも聞いてくれる。


やっぱり、お兄ちゃんは私のワガママを聞いてくれた。私を安心させてくれる優しい顔で、「うん」と、手を握ってくれる。


私は、もうすっかり落ち着きを取り戻して、少しずつ眠気も感じてきた。うつらうつらしながらも、お兄ちゃんの手をギュッと握る。


眠りに落ちそうな、ぼうっとした頭でお兄ちゃんに話しかける。


「あのね、怖い夢、さっきの。お兄ちゃんが、私に冷たくする夢だったの」

「お兄ちゃん、そんなことしない、よね・・・?」


「そんなこと絶対しないよ。さっちゃんのこと大好きだから」お兄ちゃんが、空いてる手で私の頭を撫でながら笑顔を見せてくれる。

「さっちゃんはいい子だねぇ」と、何度も繰り返しながら、私の頭を撫でる。


そして私は、安心して眠りにつくことができた。


翌朝、やっぱりまだ熱っぽくて体温計で熱を測ってみる。すると37.8℃と表示された。母さんが、「風邪薬飲んで寝てなさい。何かあったらすぐに携帯にかけるのよ」と言い残して仕事に行く。おかゆはレトルトのもあるし、そんなに苦しくないし大丈夫だ。それより、昨夜のことを思い出して、私は身悶えしてしまう。お兄ちゃんの前で、あんな子供みたいなことをしちゃって、それをお兄ちゃんは受け入れてくれて・・・。ベッドの上でゴロゴロと転げまわる。恥ずかしさと嬉しさの衝動。


そんな余裕があるぐらいには元気だ。きっとお兄ちゃんの看病のおかげだね。お兄ちゃんに風邪をうつしてないか心配だなぁ。男の人って病弱だし。もしお兄ちゃんが風邪をひいて寝込んでしまったら、責任を取って私が付きっ切りで看病してあげるんだ。おかゆをあーんしてあげて、体も拭いてあげなきゃね、へへ。


母さんが出勤してから少し経つと、お兄ちゃんが部屋に顔をのぞかせる。「さっちゃん、だいぶ良さそうだけど、無理しちゃダメだからね。もし、辛かったらすぐ僕の携帯にメールちょうだいね。早退するから」なんて言ってくれた。ん・・・?早退・・・?お兄ちゃん、もしかして頼み込めば付きっ切りで看病してくれるんじゃないかな?


いやいや、ダメダメ!お兄ちゃんが学校をサボることになっちゃう。うーん、でも、でも・・・。


お昼ぐらいなら、早退しても大丈夫、だよね・・・?


私は甘えた声で「うん、熱が高くてちょっと苦しいの。もしかしたら、お願いしちゃうかも」と、若干の罪悪感を覚えながらお兄ちゃんに言った。


お兄ちゃんは、「遠慮なく言ってね!」と言って、登校していった。


私は、昼までに全快しないことを祈りながらお兄ちゃんを見送る。

とりあえず風邪薬を飲まなければ、熱は下がらないはず。お兄ちゃんにまた甘えられるなら、熱がもっと上がってくれても良いぐらいだ。


ベッドの上でゴロゴロしながらマンガを読んだり、サッカーの動画を見たりして過ごす。少しお腹が空いてきたので、冷蔵庫からりんごゼリーを出してきて食べた。まずいな、なんだかかなり元気になってきてる気がする。熱を測ってみると、37.4℃だった。まずい、少しだけ回復してるじゃないか!


私は焦った。

人間はもともと元気になるために体の恒常性をなんとかかんとかって聞いたことがある!きっとそれだ!


熱が高いうちにお兄ちゃんに帰ってきてもらわないと!いや、いっその事、熱があるフリをしようか。でも、お兄ちゃんを騙すようなことはしたくない。


散々煩悶した後、私が出した結論は、「熱は下がってきたけど、体力が消耗したみたいで動けないから看病して」という、穴だらけの言い訳だった。これをお兄ちゃんにメールするのか・・・。きっとお兄ちゃんなら早退してきてくれると思う。でも、ウソで早退させるのは流石に気が咎めるので、お兄ちゃんの学校が終わったらすぐに帰ってきてもらう方向で行くことにした。


正午が近くなった時、私はお兄ちゃんにメールを送った。


「熱は下がってきたんだけど、体が消耗しちゃったみたいで、動くのが辛いの。お兄ちゃん、学校が終わったら早く帰ってきて欲しいな」というものだ。


すぐに返信がある。「分かったよ!早退するね!」


やっぱり、お兄ちゃんは優しい。


お兄ちゃんはすぐに帰ってきてくれた。私は甘えに甘えた。おかゆを食べさせてもらい、ゼリーを食べさせてもらい、寝るまで頭を撫でてもらう。


これなら風邪も悪くないね。なんて。


こんな感じの番外編ばかり何作も溜まってきてます。ちゃんと本編も進めますので。

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