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貴方は尊いのだから  作者: 若葉マーク
始まり
4/59

第4話 幕間 橘さん

少しづつ、少しずつ書いていこう。

私は今日も彼を眺める。立木勇気くん。

天使のような顔貌、スラリとした細く、白い指。小さなお尻。どれもこれもがたまらない。


私には高嶺の花、いや、高嶺どころではない。

海抜0メートルから見上げるエヴェレストだ。話しかけたい。会話してみたい。日に日にその思いは募るばかりだ。・・・しかし。立木くんは気難しくて女性を嫌っている。

以前から果敢にも立木くんに話しかけたり、挨拶を試みる生徒はいた。だが、結果は惨憺さんたんたるもの。良くて無視、悪ければゴミ虫を見るような視線と舌打ちが飛んでくる。


入学から一カ月も経てば立木くんは不可侵のものとして扱われるようになっていた。めげない女子たちは、直接声をかけられないならラブレターだ!と、毎朝立木くんの下駄箱ロッカーがパンパンに脹れるほどのラブレターを詰め込んだ。

結果、そのラブレターズは一瞥をもらうこともなくゴミ箱へ直行である。

私も立木くんのことを遠くから眺めていられれば幸せだった。容姿の醜い私は立木くんの視界に入ることさえ躊躇われる、いや、視界に入ることによって立木くんを不快にさせてしまうだろう。だから、眺めるだけ。


でも、その日は突然やってきた。いつもより学校への到着が遅くなった立木くん。

どうしたのだろう?他の女子たちは立木くんは今日はサボりかな?と諦めて教室へと戻り始めていた。私は諦めがつかずに下駄箱のあたりをウロウロしていた。


すると、立木くんが登校してきた!ラッキー!待っててよかった!早まる胸の鼓動を鎮めつつ、物陰から立木くんの様子をうかがう。ああ・・・今日も可愛い。可愛い顔に可愛いお尻。危うくよだれをこぼしそうになり、慌てて袖でおさえる。


立木くんの異変に気付いたのはすぐだった。いつもなら下駄箱から溢れ出すラブレターをまとめて掴んでゴミ箱へ・・・なのだが、今日の立木くんは何か違う。一瞬、戸惑うような仕草をしたのだ。その後、一瞬だけ虚空を見つめたと思ったら、なんとラブレターを丁寧に通学バッグにしまったのだ。戸惑う表情も可愛かったなぁ・・・。


今日の私は朝から体調が良くて、なんだかテンションが高くなっていた。普段の自分なら絶対に取らないであろう行動、立木くんに近づき、挨拶をしたのだ!


「お、おはよう立木くん・・・」嫌になるほど震えた、小声。声をかけられた立木くんは、びくり、と身体を震わせたあと、私の方に身体を向けてくれた。これは、まずい。無視されるならまだいい。顔を見られるということは、「なにお前ごときが俺に話しかけてんの?ゴミ虫のくせに」ぐらいの罵声が飛んでくる、かも。下手したら「死ね」の一言かもしれない。声をかけた瞬間に後悔したが、もう後の祭りだ。


しかし、予期せぬことが起こった。いや、本当に起こったことなのだろうか?

立木くんは私に天使のそれもかくやという微笑みで、「おはよう、橘さん」と言ってくれたのだ。後のことはよく覚えていない。

自分の体がフワフワと動いているような気がしていた。気がつくと自分の教室の前。

立木くんは、少し困惑したような顔で、「じゃあ、僕はこっちだから」と、また声をかけてくれていた。私はそこでようやく我にかえって、は、はひ、とかそんな感じの返事を返した。


夢か?妄想?しかしそれが現実のものであるということが、自分の教室に入った瞬間に分かった。クラスメイトたちが鬼の形相で「てめェ橘!1人だけいい思いしやがって!」などと私に詰め寄ってきたのだ。


ああ、もっとよく立木くんの姿を目に焼き付けて、立木くんの香りを覚えておきたかった・・・。こんな私にまともに返事をしてくれるなんて、しかも、一緒にあるいてくれるなんて。もしかしたら私は今日死ぬのかもしれない。


その後、クラスメイトたちから立木くんの匂いは?とか、髪の毛の一本でもくっついてないか?とか色々尋問されたが、私はもうトリップ状態にあったので曖昧な答えしか返せなかった。



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