第35話 通学路
書きたいことはいっぱいあるんですけど、纏めるのが難しくて支離滅裂になってしまいますね。とりあえず楽しく書いています。
目覚ましのアラームが今日はやけにうるさく感じられる。昨夜、少しだけ夜更かししたからか、眠気が残っていた。
いつもより少しだけ遅い登校になってしまう。空いている電車に乗って行きたかったけど、今日ばかりは仕方がない。駅のホームで勤め人らしい女性たちや、他校の女学生たちから遠慮のない視線を受ける。少し居心地が悪い。
車輌に乗り込むと、同性ばかりだけどなんとなく警戒してしまう。あの一件以来、混んだ電車に乗るのが少しだけ億劫になっているのだ。車輌の連結部分のドアに目をやると、こちらを見つめている女性たちと目が合う。これもまた少しだけ居心地が悪い。ちょっと憂鬱な気分になっていると、後ろから声をかけられた。
「やあ、おはよう」声の主は、混雑をかき分けて僕の方まで来たらしく少し息が乱れている。
「秋山先輩」前に痴漢から助けてくれた人だ。
「おはようごさいます」と挨拶を返すと、秋山先輩は「最近見かけないから、どうしているかと心配していたんだよ」と、にっこり笑う。
隣の車輌の女性たちは、美少年二人が殆ど密着するようにしている光景に興奮している。ガラスに顔をくっつけるようにしてこちらを見ている人もいる。
秋山先輩はそんな女性たちを見ると、「君は可愛いからね、仕方ないよ」と苦笑する。僕は、「秋山先輩を見ているんじゃないですか?」と少し冗談めかして返す。
秋山先輩は、「良かった。さっきよりも元気になったみたいだね」と、僕の顔を見つめながら嬉しそうに話す。実際、電車に乗り込んだ時の憂鬱さは消え去っていた。
電車を降りると、僕たちは学校まで並んで歩いた。その道中、かなり視線を感じる。
登校する女生徒たちは、もはや遠慮などかなぐり捨てて僕たちを眺めてきた。秋山先輩はそれなりに場慣れしているらしく、そんな視線を気にすることもなく僕に色々と話しかけてくる。
途中、秋山先輩に挨拶してきた女生徒がいた。秋山先輩は、にこやかに対応している。声をかけた女生徒はわりと親しげに秋山先輩と話しているので、クラスメイトなのだろうと思う。
「秋山くん、今日は可愛い後輩と登校なのね」と、中背の女生徒が言う。あまり背が高くないので威圧感はない。
秋山先輩は、「まあね。ニイナさんは今日は朝練なし?」と女生徒に話す。ニイナさんと呼ばれた女生徒は秋山先輩と話しながらも僕の存在が気になるらしく、時折僕の方をちらりと見る。
ニイナさんは「うん、今日はなし。その代わりフツーの練習がキツくなりそう」と笑う。屈託のない笑顔だ。そして、「ところで・・・、こちらの後輩くんを紹介してくれると私としては嬉しいのだけれど」と、秋山先輩に言う。
秋山先輩はくすりと笑うと、「こちらは一年生の立木勇気くん。立木くん、この人は新波翠さん。僕のクラスメイトだよ」と、僕に紹介をしてくれる。
僕は「立木です。おはようございます、新波先輩」と微笑む。
新波さんは、ぼそりと「妖精・・・」と呟き、すぐに笑顔で「立木くんね。よろしく」と軽く右手をあげる。さっぱりとした性格らしい。艶のある黒髪が朝日に照らされてきらりと光る。
僕も、「よろしくお願いします」と、無難に答えておく。
新波さんは、「立木くんは、部活に入っているの?」と聞いてきた。僕が入っていないと答えると、間髪入れずに「私、弓道部なんだけど、今度見学に来てもらえないかな?いやいや、部員になってくれってことじゃないの。マネージャー、それもすごく簡単なお仕事だけだから、是非にと思って・・・」と猛烈な勢いで勧誘してきた。
それを見た秋山先輩が「困ってるじゃないか、その辺にしといて」とたしなめると、新波さんは「そうね、まあ、いきなり過ぎたかな」と、あっさり引き下がる。
そして、「見学の件だけでも検討よろしく!」と元気に言うと立ち去って行った。
「立木くん、どうもすまない。彼女は悪い子ではないんだけど、どうも真っ直ぐすぎるところがあってね」と秋山先輩が若干困ったような表情で話す。
「見学の件も、気乗りしなければ僕から断っておくから」と言ってくれる。
僕は「構いませんよ。誘ってもらえるのは嬉しいですし」と答えると、秋山先輩は「やっぱり君は優しいんだね。その言葉を聞いたら新波さん、泣いて喜ぶんじゃないかな」と笑う。
学校の入り口で秋山先輩と別れると、下足棚の所で小山さんと行き合う。
「おはよう、小山さん。日曜日、頑張ってね!応援しに行くから」と小山さんに言うと、小山さんは顔を真っ赤にして、「あ、ありがとうござい、ます」と答えたあと、逃げるように教室に行ってしまった。
教室に着くと、数名の女生徒たちが興奮気味に話していた。「立木くんと秋山先輩が一緒に登校してきてたんだって!」
「あ〜、素晴らしい光景だよそれは!見たかったぁ!」「あの二人はものすごく絵になる!」などなど。
僕の姿に気づくと、慌てて会話を止めて何事もなかったかのように振る舞い始める。秋山先輩はやっぱり有名人なのだろうか。聞いてみよう。
「おはよう、秋山先輩ってやっぱり有名人なの?」と会話をしていた女生徒たちに話しかける。話しかけられた女生徒は挙動不審になりながらも「秋山先輩、うん、有名です。ファンが多いって話ですよ」と、顔を赤くしながら答えてくれた。
僕が礼を言って席に戻ると、話しかけられた女生徒の周りに次々とクラスメイトが集まっていく。
「立木くんに話しかけられたよねっ!?」「うん、ありがとうって言ってくれた」「秋山先輩とはどういう関係だって?」「それは聞いてないし、そんなの聞けないよ!」といった声が聞こえてきた。
僕とも会話をたくさんして欲しいな、と思う。さっき話しかけたクラスメイトも、しどろもどろだったけど、ちゃんと会話の体は取れていたし。
昼休みにでも、こっちから話しかけてみよう。
授業が始まると、やはり眠い。今日はちゃんと早く眠らないと。眠気を少しでもなくそうと、首を回してみる。すると、朝話しかけたクラスメイトと目が合った。僕は、昼休みに話しかけるのは彼女にしよう、と決めた。
そして昼休み。僕は彼女に近づくと、「ねえ、お昼っていつも誰と食べるの?」と聞いてみた。彼女は話しかけられるとすごく驚き、つっかえながらも、仲の良い友達と三人組を作って食べている、と答えてくれた。
僕は、「僕も入れてくれないかな?」と頼んでみる。彼女は、最初「はっ?えっ?お昼を、一緒に、って、事ですか?」とアタフタしながら聞いてきた。
僕が「いきなりだし、ダメだったかな?」と言うと、彼女は「ダメじゃないです!ぜひ、ぜひ!」と答えると、机をずらして四人座れるように整え始める。
その間に、彼女の友達二人が何事かと近づいてきた。
僕はその二人に、「お昼を一緒に食べてもいいか彼女にお願いしたんだ」と言うと、その二人は一瞬信じられないといった表情をした後に、「わ、私らでよければぜひご一緒させてください!」と、急いで各自の昼食を持ってくる。
席に着くと、三人組は「改めて、自己紹介をさせていただきます」と、かしこまった様子で話す。
まずは「須藤瑠美です。部活はやってません」と、三人組のリーダーらしい女生徒が言う。茶髪をセミロングに伸ばしていて、背が高い。
続いて、「小島遼子です。軽音楽部です」と、先ほど声をかけた女生徒が、顔を赤らめながら言う。脱色しているのか、髪の毛は綺麗な金色で、かなり短め。普段はピアスを付けているのか、耳たぶに穴が何個か開いている。
最後に、「川口頼子です。私も部活はやってないです」と、一番小柄な女生徒が言う。わずかに癖がついている黒髪を束ねたヘアスタイルをしている。
僕は、三人組それぞれの名前を言いながらお礼をする。「入れてくれてありがとう。嬉しいよ」と付け加える。三人組は、口々に、「お礼を言いたいのはこっちですよ」とか「私らみたいなのでいいんでしょうか?」と恐縮しているので、「敬語はやめようよ。それに、ご飯は誰かと一緒に食べたほうがおいしいよ」とフォローをしておく。
三人は、ほぼ同時に「敬語なしは無理です」と答えた。僕は、「まあ、そこは追い追い慣れてもらうとして、とりあえず食べようか」と言う。
須藤さんが、「追い追いってことは、もしかしてまた、一緒に、た、食べてもらえるとか」と、期待を込めた目で見てくる。
僕は「須藤さんたちが迷惑でなければ、またご一緒したいな」と微笑む。
三人は、顔から蒸気が出ているのではないかというぐらいに顔を真っ赤にして、「ぜひ!!!」と嬉しそうに答えた。周りのクラスメイトからは怨念めいた視線が三人組に送られるが、舞い上がっている三人は全く気付いていない。
その後は三人の休日の過ごし方や部活の話などをして昼休みを過ごした。




