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貴方は尊いのだから  作者: 若葉マーク
始まり
31/59

第30話 ある日の夕飯

家に帰ると、さっちゃんがすぐに玄関に出迎えてくれる。「おかえりなさい、お兄ちゃん!」


「ただいま、さっちゃん」僕は笑顔を見せる。


さっちゃんが、「母さん、今日は遅くなるって」と、なぜか興奮気味に話してくる。そして、「なんか出前でも取っておいてってさ」と言う。


僕は、「母さん、忙しいのかな?」と言う。最近は定時に帰ることが多かったから、少し心配だ。


さっちゃんは、「今の時期はやっぱり忙しいみたいだよ」と言い、「出前、何にする?」と聞いてきた。


僕は、少し考えた後、さっちゃんに「ご飯作っておいて、母さんが帰ってきたら食べられるようにしておくのはどうかな?カレーぐらいなら作れると思う」と提案する。


さっちゃんは、最初は「母さん、何か買って帰ってくると思うし、大丈夫だよ」と渋っていたが、突然、「手料理!」と大声を出した。そして、「よし、お兄ちゃん。買い物行こっ!」と言い、着替えるために自室に入っていった。


すぐに普段着に着替えたさっちゃんが出てくる。そして、近所にあるスーパーに行くことになった。


スーパーは歩いて5分ほどの所にある。特別に質がいいものが多いわけではないけど、料理が得意ではない僕たちにとっては何の問題もない。

スーパーに到着すると、カレーの材料を買い込む。分量はカレールーの箱の後ろを参考にする。ついでに、食後に食べようとプリンなども買っておく。さっちゃんは、「こうして二人で買い物してると、夫婦みたいだね」と、照れたような顔で言う。

僕が「さっちゃんはいい奥さんになると思うよ」と言うと、デレデレとした表情で身をくねらせた。


このやり取りを見ている他の買い物客からの視線が痛い。主にさっちゃんに対する嫉妬の視線。当の本人はそんなことは意にも介さず、夫婦なら腕を組んでもいいよね?などと言いながら僕の腕を自分の方に引き寄せる。まあ、さっちゃんが満足するならと僕はそれに付き合う。


僕たちが腕を組んだ瞬間、グシャッ!!という音が聞こえた。音の方を見てみると、品出しをしていたスーパーの店員さんの足元にトマトの缶詰の中身だけが落ちている。店員さんの手には、ひしゃげたトマトの缶が握られている。店員さんの表情は見えないけど、淡々と片付けをしている。缶詰はかなり丈夫なはずじゃ・・・?


その後も店員さんや買い物客らの視線を受けながら、僕とさっちゃんは腕を組んで買い物を続けた。

会計の時にはさすがに腕を離したけど、さっちゃんはとても残念そうだった。


家に帰ると、早速カレーを作ることにする。作り方は分かるけど、美味しくできるかは別問題なので携帯の料理アプリを活用する。さっちゃんは鍋やまな板の準備をして手伝ってくれた。


カレーは無難な出来に仕上がった。さっちゃんに、「フツーのカレーができました」と報告する。でも、さっちゃんは目をキラキラさせている。


「おにいちゃんが作るものならレトルトでも最高だよ!」と力説している。


カレーだけでは寂しいので、冷蔵庫にあった野菜を切って簡単なサラダを作る。


さっちゃんとテーブルにつき、食べ始める。ご飯は多めに炊いてあるので、さっちゃんにたくさん食べてもらおう。


「カレーはどうかな?」と感想を求めると、さっちゃんは「とっても美味しいよ!お兄ちゃんの愛情を感じる!」と、満面の笑顔で言ってくれた。また今度作ってみよう。


夕飯が終わると、さっちゃんが洗い物をしてくれる。これぐらいできるよ!とのことなのでお任せすることにした。


さっちゃんが洗い物を終えてリビングのソファーに座る。テレビでも見ようか、ということになり適当にチャンネルを変えていく。結局、夜のスポーツニュースに落ち着いた。そこで、実業団のバスケ部のニュースが流れた。そうだ、と思い出してさっちゃんに「今週の日曜日、バスケ部の練習試合を見に行ってくるよ」と告げる。

さっちゃんは、「お兄ちゃんのとこのバスケ部?確かに強豪だけど、なんでまた練習試合なんか見学に行くの?」と訝しげに問う。


僕は、先輩からマネージャーになってくれないかと誘われたこと、とりあえず試合を見に来てほしいと頼まれたことを説明する。


さっちゃんは、「それって、完全にお兄ちゃん目当てじゃん!大体、あれだけの規模の部活ならマネージャーぐらいいるに決まってるよ!」と、憤慨している。


僕は、「先輩、かなり真剣に頼んできてたし、見学だけならいいかなって思ったんだけど」と言うと、さっちゃんは「うーん・・・先輩の頼みだと断りづらいよね」と、腕組みをして言う。


そして、「ねえ、お兄ちゃん。練習試合の見学、私も行っていいかな?」と聞いてきた。


僕は「うん、父兄の人たちも見に来るみたいだし、さっちゃんさえ良ければ一緒に来てくれると僕も嬉しいな」と答える。


さっちゃんは、嬉しそうにニコニコしているが、「お兄ちゃんに寄ってくる変な虫は追い払わないとね・・・」と呟いていた。


僕はその呟きは聞こえなかったことにして、バスケットの基本的なルールや、ポジションについてのレクチャーをさっちゃんから受ける。

小山さんはポイントガード。一番ボールを持つ機会が多い役割で、出来次第で試合の趨勢が変わることもある重要なポジションらしい。注目してみよう。


そうこうしているうちに、玄関のドアが開くと音がした。母さんが帰ってきたようだ。


母さんは、「ただいまぁ〜、疲れたぁ」と言いながらリビングに入ってくる。そして、カレーの匂いに気がつき、「出前、カレーうどんとかにしたの?」と言う。


僕が、「カレー作ったんだよ」と答えると、母さんは「えっ!カレー作ったの?幸恵が?」と、不安げに言う。


「作ったのは僕だよ」と言うと、母さんは「ゆっ、勇気くんが?ええっ!?なにそれ!?母さんも食べたかった!」とジタバタする。


僕が「もちろん母さんの分もあるよ!」と慌てて答えると、母さんはパアッと明るい表情になり、「ほんとに!?食べたい食べたい!」と、大急ぎで鞄をソファーに置くと、キッチンに向かう。


僕が「用意するから、母さんは座ってて」と言うと、母さんは感無量と言った表情で、「残業を耐え抜いた甲斐があったわ・・・こんなご褒美があるなんて」と言いながらテーブルについた。


僕が「なんの変哲もないカレーだよ」と笑いながら言うと、母さんは「勇気くんが作ってくれるなら、レンチンだって最高の料理だわ!」と言った。


さっちゃんと同じようなことを言うんだなぁ、と微笑ましく感じる。


なんの変哲もないカレーを、母さんは美味しい美味しいと喜んで食べてくれた。


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