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貴方は尊いのだから  作者: 若葉マーク
始まり
30/59

第29話 バスケ部の気合いが上がります

練習終了の笛が鳴らされると、部員たちは荒い息を整えようと、腰に手を当てて天井を仰ぎ見る。


顧問の先生が、クールダウン後、清掃しておくように!と言い残して引き上げると、一年生は早速モップを持ち出してきた。


小山美穂子こやま みほこも、いそいそとモップを持ってくる。疲れ切っているが、きちんとしないことには気持ちが悪い。


体育館の端からモップをかけ始めてすぐ、先輩たちの嬌声が聞こえた。何事かと思い、聞き耳をたてる。すると、嬌声と弾んだ会話の中に「立木勇気」という単語が聞こえた。


思わずモップをかける手を止めて先輩たちの方を見る。すると、河嶋先輩がこちらを見ていた。どうやら河嶋先輩が会話の中心のようだ。河嶋先輩の会話、そして、立木くん・・・。この前河嶋先輩に頼んだことの結果だろうか?ソワソワしてしまう。しかし、先輩たちの会話の中に入っていくことはできない。


いつもよりモップがけを早く終わらせて、着替えて先輩を追いかけなければ。


更衣室から急いで飛び出し、河嶋先輩を探そうとすると、当の本人が体育館の入り口で美穂子を見ていた。


慌てて先輩に駆け寄り、美穂子は「あのっ、先輩!立木くん・・・」と声を出す。


河嶋先輩は、微妙な表情をしている。どうやらマネージャーの件はダメだったようだ。思わず落胆してしまうが、先輩の前では表情に出さないように気をつける。


だが、河嶋先輩からは思わぬ言葉が出てきた。

「マネージャーの件ね、アレはダメだったけど、日曜の練習試合、立木くんが見に来てくれるかもよ」


美穂子は、心臓の鼓動が一気に早まるのを感じた。そして、河嶋先輩がどのようにして他の運動部からの非難を受けながらもその約束を取り付けたかの経緯を聞く。河嶋先輩は冗談交じりに、「いやぁ、ボコられるかと思ったね!」などと言っている。


美穂子は、河嶋先輩に心からの感謝を伝える。河嶋先輩は、「いやいや、ここからが勝負だよ!」と笑う。練習試合で、バスケ部は楽しくてカッコ良くて、強いってところを見せるんだよ!と張り切っている。


その後、「まあ、私はベンチメンバーだけどな!」と河嶋先輩はまた屈託なく笑う。


「小山、あんたはスタメンなんだから、キッチリいい仕事しなさいね!」と、背中をバンと叩かれた。美穂子は、かつてないほど気持ちが昂っているのを感じる。


河嶋先輩とは自転車置き場で別れる。あとは、適当な一年生を捕まえて一緒に駅まで行くだけだ。


誰かいないかと見回すと、のしのしと歩いている大柄な生徒を見つけた。すぐにバスケ部の一年生、細美摩耶ほそみ まやだと気づく。


「お疲れ、マヤ」と声をかける。


声をかけられた摩耶は、美穂子の方にゆっくりと顔を向ける。


「おう、お疲れさん、美穂子」と、ゆったりした口調で笑顔を見せる。気は優しくて力持ち、誰とでも独特の雰囲気で話す摩耶は、美穂子が人見知りせずに話すことのできる友人の一人だ。


「ねえマヤ、練習試合のこと、聞いた?」と美穂子は言う。


摩耶は「練習試合?なんか特別なことあったっけ?」と、首を傾げる。


美穂子は、「もしかしたら、立木くんが見学に来るかも、って話!」と興奮気味に話す。


「えっ?立木くんって、B組の立木くん?なんで見学に来るの?」と、摩耶は驚いたように言う。


「河嶋先輩が話し付けてくれたんだって!最初はマネージャーになってもらおうって話だったんだけど、それはさすがに無理だったみたい。でも、練習試合を見に来てくれるって!」美穂子は一気に話す。



「マジか!?すごいな、それは。じゃあ美穂子、いいとこ見せないとね」と、摩耶が笑う。


美穂子は「うん!頑張る!今回は私が絶対に試合を作ってみせる!」と、宣言する。

前に、奈緒がポイントガードはチームの司令塔だと立木くんに言っていた、と摩耶に話す。

「だから、私が決めるんだ」


摩耶は、「あんまり力入れすぎて怪我とかしないようにね」と、少し心配そうに美穂子に注意する。そして、「私はベンチにすら入れないからなぁ。アピールできないなぁ。あっ、じゃあ、立木くんの接待でもしようか」と美穂子の顔を見ながら言う。


美穂子は、「ちょっと!やめてよ。試合に集中できなくなるでしょ」と頬を膨らませる。


「はは、冗談だって。こんなデカいのが近くに来たら、立木くん怖がって逃げちまうよ」摩耶が笑いながら言う。


摩耶と駅です別れて、帰宅する。普通ならシャワーを浴びて、ご飯を食べてあとはダラダラ過ごすのだが、美穂子は夕食後に、親に頼んで地域の体育館に連れて行ってもらう。親同伴なら、夜の10時まで運動をすることができる体育館だ。そこにはバスケットのコートもあるので、シュート練習をしようと思ったのだ。


体育館に着き、バスケットコートのあるゾーンに行くと、美穂子は驚いてしまった。


数人の先輩たちがすでにシュート練習や、ドリブルの個人技の練習をしている。とりあえず、挨拶しなければと先輩に近づく。


「お疲れさまです、先輩」


「あれっ?小山じゃん。練習しにきたの?」


美穂子は、そうです。と答える。先輩も立木くんに良いところを見せたいと思っているのか・・・。それとも、これは日課なのだろうか?


「先輩、やっぱり練習試合対策で来たんですか?」と美穂子は聞いてみる。


先輩は「まあね。今回はフル出場したいし、特別ゲストが来るらしいから良いとこ見せないとね!」と答えた。


やっぱり、立木くんに良いところを見せるためにか。みんな考えることは同じだなぁ、と美穂子は思う。


でも、一番注目してもらうのは私なんだから、と美穂子は気を引き締めてシュート練習に向かおうとすると、その先輩から声がかかった。


「小山も、ゲストに良いとこ見せたいんだろ?お前のアシストで私がカッコよくシュートを決めれば、どっちもカッコいい!って思ってくれるんじゃない?」と言ってきた。


いや、そんなことはない。と美穂子は思う。素人の目から見ると、バスケではシュートを決めた選手の方がカッコよく見えるだろう。自分にボールを集めさせようと画策しているのだ。


美穂子は、「そうですねぇ」と、微妙な返事を返す。


先輩は、そんな美穂子の胸中には気づかなかったらしく、シュート練習に戻った。


美穂子は、試合を作るのもいいけど、得点も頑張ってみよう、と考えながらシュート練習に向かった。



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