第26話 本屋再襲撃
なんというか、散発的というか。冗長。
学校からの帰り道、この間手に入らなかった漫画の新刊を買いに行くために、僕はまた本屋に向かっていた。
店員さんが名前をやたらとゴリ押ししてきたあの本屋だ。たしか、北嶋さん?だったか。名前を呼んで欲しそうだったし、ちょっとやってみようかな。
本屋に入ると、少し異様な光景が広がっていた。
店員さんの数が、多い。そして、僕の方を見るや全員が「いらっしゃいませ!!!」と叫ぶように挨拶をしてきた。
あまりの勢いに、歩みを止めてしまう。入り口付近で止まっていては他の人に迷惑なのだけど、驚いてしまったので仕方がない。
とりあえず、目当ての漫画だけでも手に入れなければ、と平積みコーナーへ向かう。向かう途中、数歩歩くくらいの距離なのだが、店員さんが飛んでくる。北嶋さんだ。
「いらっしゃいませ!新刊の漫画ですか!?」と、頬を赤らめながら元気に聞いてくる。僕は、そうです、と答える。北嶋さんは、「保管しておきました!」
と、平積みコーナーの下にある棚から漫画を出してきた。チラリと「絶対に取り置き!北嶋以外手を触れるべからず!」と赤のペンで大書きされているのが見えた。一冊のために引き出し棚を一つ使ったのか、と驚く。お礼の意味も込めて、北嶋さんの名前を言ってみることにする。
「わざわざありがとうございます。北嶋さんのおかげで助かりました」にっこりと笑顔で言う。
途端に、紅潮程度で済んでいた頬が、リンゴのように真っ赤になる。
「い、いいいいいえ!このぐらい、何てことないですよ!お客様の快適な買い物のためです!」と、北嶋さんが言う。他の店員さん達は、北嶋さんを鋭い目つきで見ている。
レジで会計を済ませて、店を出る。店を出るときに、入り口付近の掃除を6人がかりでやっていた。そして、その6人は、僕を見ながら、「ありがとうございました!ぜひ、またお越しください!」と挨拶をしてくる。僕は、どうも、と笑顔を向ける。
6人は一列に並んで見送ってくれる。背後から、「私に言った!」「いやいや、目があったから私だろ!」「お前らバカだなぁ、あたしに決まってんだろ。」「ふん、分かってない。わたしに言った。わたしには彼の心の声が聞こえたのよ」などと、聞こえてくる。
特に誰に言ったわけではないのだけど、盛り上がってくれるなら別にいいか。
まっすぐ家に帰るか、寄り道するか少し迷った。漫画を買って小銭が増えてしまったし、コンビニで何か買っていこう。
家と本屋の中間にあるコンビニに入る。以前、ポイントカードを作ったのでこっちの方が何かとお得だろう。入店すると、ぼんやりカウンターに立っていた店員さんが、ハッとしたように僕を見て、「いらっしゃいませ!」と笑顔で挨拶をしてきた。元気のいい挨拶は聞いていて気持ちがいい。
店内を物色し、アイスを3個買うことにした。レジに行くと、店員が二人対応してくれた。レジを打つ店員さん、袋詰めをする店員さんだ。
レジを打つ店員さんが、「ポイントカードはお持ちですか?」と聞く。僕がポイントカードを渡すと、裏面をチラリと見ながらカードの処理をする。
カードを返してもらうときに、指が触れた。
会計が終わるときにも、お釣りを手を握るように渡してきた。店員さんはニコニコと笑顔だ。
袋詰めしていた店員さんも、僕が袋の持ち手を掴むときに、指を微妙に動かして僕の手に触ってきた。
二人の店員さんに、満面の笑顔で見送られ、店を出る。あとは家までまっすぐ帰ろう。
家に帰ると、さっちゃんが出迎えてくれる。
「お兄ちゃん、おかえりなさい!」
とてもいい笑顔だ。お土産のアイスを渡すと、すごく喜んでくれた。
母さんが帰ってくるまでまだ時間がある。たまには駅の反対方向へと散歩でもしてみようかな、と思い着替えをする。
着替えた僕を見て、さっちゃんが「あれ?お兄ちゃん、どこか行くの?」と聞いてきた。
「うん、散歩しようかと思って」と答えると、さっちゃんは「散歩!?私も行きたい!」とすごい勢いで言ってきた。
僕としてはもちろん異存はないので快諾する。さっちゃんは、「すぐに着替えるから少しだけ待ってて!」と、自分の部屋に飛んでいった。
待つこと3分、さっちゃんが「お待たせ!」と笑顔で僕の待つリビングに来た。動きやすい格好になっている。
「散歩、どっちの方に行くの?」と、さっちゃんが聞いてきたので、駅の反対方向へ行ってみる、と答える。
さっちゃんは、そっちの方向なら川沿いの遊歩道が歩いてて気持ちいいよ、と教えてくれた。ならその遊歩道を散歩しようか、とさっちゃんに言う。
「二人きりだね・・・」さっちゃんがぼそりと呟いた。
遊歩道は歩いて10分ほどだった。そこに着くまでの途中の家々から、夕飯の支度の匂いや、テレビの音、エレキギターの練習をしているらしい短いフレーズの反復が聞こえたりする。懐かしい気持ちになれる瞬間だ。
夕陽に照らされた遊歩道を僕たちは歩く。歩きながら、さっちゃんと色々なことを話した。趣味の話、学校のこと。スポーツのこと。僕は主に聞き役に回っている。
さっちゃんは、突然「お兄ちゃん、私の話つまらなくないかな?」と心配そうに言った。
僕は、「そんなこと全然ないよ」と否定する。「さっちゃんは色んなことを知ってるから、話してて楽しい」と言うと、さっちゃんは夕陽に照らされていても分かるぐらいに顔を赤くしている。
僕らの遊歩道の散歩はもう少し続く。
だんだん長文になってきそうです。分けます。




