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貴方は尊いのだから  作者: 若葉マーク
始まり
21/59

幕間 北嶋ケイと仲間たち

視点がふらつくのをなんとかしないと。時間ばかりかかって仕方がない。

私の名前は北嶋ケイ。しがない本屋のアルバイト店員だ。

来る日も来る日も入荷した本の品出し、陳列、レジ打ち・・・その他。実家暮らしなので生活に困るということはないが、全く潤いがない。

本屋に来るのは場所柄、子供かお年寄りだ。若い男が来ることなんてほぼない。来たとしても声をかけるのはご法度だ。会計の時も、こちらがいくら愛想を良くしても無視される。

潤いがなさすぎて最近では来店した男子小学生に舐めまわすような視線を送るようになってしまった。


そんな私に、神様がご褒美をくれた。

それは、開店から30分後のこと。いつものようにカウンターで作業をしている時だった。普段なら開店直後はあまりお客さんが来ないのだが、その日は違った。来店を告げるチャイムが鳴り、入り口に近い位置にいる同僚が「いらっしゃ・・・い、ませ」と変梃な挨拶をしている。

何事かとそちらを見やると、小柄な人影が店内に歩いてくるところだった。最初は、「綺麗な顔してる子だなぁ」ぐらいにしか思わなかったが、その子が男の子だと分かると、途端に心臓が跳ねた。男の子!しかも若くて綺麗!こんな、グラビアでも見たことないよ!

興奮のあまり呼吸が乱れる。彼から目を離せない。頭から爪先まで、何度も凝視する。脳裏に焼き付けなくちゃ!

彼は平積みにしてある新刊マンガのコーナーを眺めている。目当ての本が見つからないのか、何度か平積みコーナーの棚に視線をさまよわせていた。

何か探しているのかな、声をかけてみようか?いや、声をかけても無視されてその後クレームが入るパターンだろう。

宝石は身につけられなくても、眺めているだけでもいいものだ。ここはゆっくりと綺麗な宝石オトコノコ鑑賞といこう。


しかしその鑑賞もすぐに終わることになる。男の子がこちらを見る。マズい!舐め回すような視線に気付かれたか!?クレームが入るコースか!?もしかしたら、この場で「キモいんで見ないでもらえます?」とか言われるかも!どちらにしろいい予感はしない!

けれどその予感は裏切られた。男の子は冷たい視線どころか、微笑みを浮かべながら「すみません、探している本があるのですが」とこちらに言ってきた。

私は一瞬、思考を停止してしまうが、すぐに男の子の所に駆けつける。男の子が、本を探している、という声を上げた瞬間に同僚どもが自分が案内するのだ!という欲望にまみれた表情をしながら男の子の背後に忍び寄っていたからだ。

彼は!わたしに!問うたのだ!

お前らの出る幕ではない、と視線で同僚を制する。そして、私は男の子の前に立つことができた。

男の子は、私の悪鬼のような視線の先をチラリと見て、身じろぎした。それはそうだろう。気づかないうちに自分の背後に人が何人もいたら驚く。

店のイメージダウンを避けなきゃ、なんて考えたこともないけど、今は男の子が再来店してくれることを最優先しなければ。

同僚たちのバカな行いはスルーして、男の子をとりあえずこの場から避難させる。「お客様のお探しの本は、わたくし!わたくし北嶋が!お探しいたします!ささ!どうぞこちらへ!」平積みコーナーから少し離れた場所へ案内する。名前もアピールできた!上出来だ。


「本日はどのような本をお探しですか?」と、満面の笑顔を作って彼に聞く。人生でこんなに男性に近づいたのは初めてだ。ああ、いい匂い・・・。

と、そこで同僚たちの残念すぎる行動が見える。必要のない本棚の陳列直しをしたり、彼の足元にある本の収納引き出しをわざとらしく開けて、彼の匂いを嗅ごうとしている。こいつら、セクハラ訴訟を受けて人生を棒に振りたいのか?まあ、気持ちは分からんでもないが。


そんな同僚どもの行動をとりあえずスルーして、私は彼に再び話しかける。「新刊の漫画ですか?タイトルは分かりますか?」これで、彼の好みの漫画が分かるぞ、とほくそ笑んだのも束の間。

もしかしたら、彼女に買っていくのかもしれないじゃない・・・。こんなに可愛いんだし。

でも、それはまだ分からない。絶望するにはまだ早い。


彼が口にした漫画のタイトルはよく分かる。私も読んでいるシリーズだ。確かに入荷日は今日だ。しかし、配送の問題で1日遅れてしまうことになったのだ。

ここで1日違いだと言うのは簡単だが、少しでも彼と一緒にいたいという下心から嘘を吐いてしまう。

「ああ、1日違い・・・げふんげふん!いや、探してみますね、もしかしたら平積みコーナーから本棚に行っちゃったかもしれないですし。」危ない、1日違いだとすぐに言ってしまうところだった。


その後、少しだけ本棚を周回して、彼の動作や香りを堪能してから本当のことを話す。自分の勘違いだ、1日違いで入荷する、と。不審には思われていないはずだ。近所ならまた来店してくれるはずだ。希望が出てきた!


彼は、明日また来ると言ってくれた。明日は1日通しでバイトしよう・・・。

彼に、来店の際には私に声をかけてくれ、と伝えた。


その後、同僚どもから散々嫉妬混じりの非難を受けたが、何ほどのことはない。全員にチャンスがあるさ、と軽くいなすほど今の私は心に余裕がある。


待ち望んだ潤いだ。



こういうグダグダした感じの話を、書けるだけ書きます。

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