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貴方は尊いのだから  作者: 若葉マーク
始まり
17/59

第17話 映画館でのデートは憧れのひとつです

どんどん進めますよー。

立木幸恵たちきさちえは、この一週間落ち着かない気持ちで過ごしていた。

先週、自分の部屋で兄とスポーツ観戦をした後、映画館デートの約束を取り付けたからだ。デート、と幸恵が思っているだけなのだが、男性と連れ立って歩き、食事をして、映画を観る。しかも大好きな兄と。これをデートと言わずしてなんと言おうか!と幸恵は主張するだろう。


映画館へ行くのは明日だ。そのために今日は放課後に美容室へ行き、母親を拝み倒してお小遣いをもらって新しい服と映画の前売り券を買った。デートでの食事は予算的にファストフードになってしまいそうなのが懸案だ。お兄ちゃん、ガッカリしちゃうかな・・・。などと心配してしまう。ここはひとつ、土下座でもして母から追加のお小遣いを無心してみようか。と考えながらリビングへ向かうと、ちょうど兄が帰宅したところだった。


「あ、さっちゃん。ただいま」勇気が笑顔で言う。

一気に顔が火照るのが分かる。幸恵は、「お兄ちゃん、お帰りなさい」と、ようやく笑顔を作って答える。


「お兄ちゃん、明日のことなんだけど・・・」と切り出すと勇気は一層の笑顔で「映画?なに?」と聞き、その後少しだけ表情を曇らせて「もしかして、都合悪くなっちゃった?」と心配そうに尋ねてきた。

幸恵は首を横にブンブンと振りながら、「都合悪くなんてないない!!どんな事があってもお兄ちゃんとデー・・出かけるよ!」と全力で答える。すると、勇気は「良かったぁ、すごく楽しみだよ!」と眩しい笑顔で幸恵を見上げる。(上目遣い!ヤバすぎる、可愛すぎるよぉ〜。お兄ちゃんを失望させたくない!やっぱり母さんに土下座してお小遣いもらおう!)と一瞬で決意する。


兄が部屋へ行ったのを確認した後、台所にいる母に「おかあさん!お願い!お小遣いを!」と打診するが一瞬で「あげたでしょ!これ以上はダメ!この馬鹿娘!」と言われてしまった。これは食い下がっても無駄だと判断した幸恵はすごすごとリビングから退散する。

これは正直にお兄ちゃんに、ランチのグレードが下がってしまいます。と言うしかないか。勇気のガッカリした表情は見たくないけど、無い袖は振れない。

兄の部屋のドアをノックする。すぐに、「どうぞ〜」と太平楽な声が返ってくる。

待て待て。どうぞ?普通、女を部屋に入れるか?と幸恵は訝る。普通は部屋には入れず、リビングか廊下で話すだろう。これは、お兄ちゃんの部屋に入っていいってこと?とパニックになる。

なかなか開かないドアを不審に思ったのか、勇気がドアを開けた。そしてノックする手つきのまま硬直している幸恵を見て、「どうかした?さっちゃん?」と心配そうに問うてくる。

幸恵は、兄の部屋に入りたいという激しい欲求に駆られたが、いまはデートプランのダウングレードを知らせるという格好悪い行動をしなければならないので立ち話で済ませることにした。


「あのね、お兄ちゃん。さっき言ってた、明日のことなんだけど・・・、その、お昼ご飯、ハンバーガーとかでもいいかな?なんて」我ながら滑稽なほどモジモジしながら告げる。兄の顔を見られない。デート中止にならないかな?そんなことになったら夜通し泣いてしまう。ようやく兄の顔をチラリと見やると、キョトンとした表情をしている。

そして、「うん、全然いいよ?ハンバーガー好きだし」と至極あっさりとした回答がきた。

予想外の展開に幸恵は少し戸惑ってしまう。

「えっ?ほんとに?」と聞き返すと、勇気は色々察したらしく「もしかして、明日の映画館とか全部お金出そうとしてる?」と聞いてきた。

「うん。ちょっと予算が足りなくなってしまいまして。それでハンバーガーって。」情けなさに身悶えしたくなる。

すると、勇気は「ダメだよ!」と語気を強くした。

幸恵は、ダメだという言葉にショックを受けて縮こまってしまった。

さらに勇気が言葉を続ける。「もしかして映画のチケットもさっちゃんが出そうとしてるの?」

「うん、前売り券を買ったの。」幸恵はションボリしながら答える。

勇気はその様子を見て、少し強くなってしまった語気を弱める。

「明日は二人で楽しむんでしょ?さっちゃんばかりお金を出すのはダメだよ。」「前売り券は仕方ないけど、お昼は僕がご馳走するからね!」と勇気は言い切る。

幸恵は、半ば呆然と成り行きを見守っていた。どこの世界に、男にお金を出させる女がいると言うのか。

それでも、兄の心遣いに本当に涙が溢れそうになる。

これが、愛されるってことなのかな?とぼんやり思ってしまう。


ションボリしたままの幸恵を見て、勇気はまた常識外れのことを言ってしまったのかと、世界との順応での検索を脳内で行う。答えは至極簡単。女の矜持プライドというもの。普通の世界なら、女の子にお金を出させるのは男がすたるというやつか。


「さっちゃんの気持ちはとっても嬉しいけど、奢ってもらってばかりじゃ、次のお出かけに誘いづらいからね。」と、フォローしてみる。

すると、幸恵の表情はみるみるうちに明るくなり、「また、出かけてくれるの!?」と嬉しそうだ。


「もちろん。さっちゃんと色んなところ行ってみたいから、そういう時は僕にもお金は払わせてね!」

と締めくくった。


幸恵はもうこれ以上ないほどに幸福そうに、ありがとう、ありがとう、と繰り返した。


そんな妹の様子を見ると本当に可愛くて仕方がない。明日はたくさんサービスしてあげよう、と思う勇気だった。


と、そこで話が終わりかと思ったのだが、幸恵がまた勇気に質問を投げかける。

「と、ところでお兄ちゃんは、明日はどんな服を着るのかなぁ、なんて、少し気になったの」


勇気は「明日はスリムフィットのデニムパンツとTシャツ、あとは普通のシャツかな。ダサいかな?」と答える。


幸恵は高速で頭を横に振りながら、「全然ダサくないよ!お兄ちゃんは何を着ても最高だけど、スリムフィットのパンツなんかもう至高だよ!」とまくし立てる。そして、ぼそりと「ヒップライン・・・ふひひ」と呟き、ニヤけるのであった。

そして、幸恵はセクシーな格好で街を闊歩する兄と自分を夢想する。周りの女性たちの嫉妬に塗れた視線を浴びるのだろうなぁ、どうだい、羨ましいだろう?デートですよ!私たちいまデートしてるんですよ!これで、手をつないで歩いてくれるともう、これは夢の世界。そこまではさすがにありえないけど、偶然手や体が当たってしまうかもしれない。ますます今夜は眠れそうにない。


夕飯も終わり、それぞれが明日に備えて早めに眠ることにした。


「お兄ちゃん、ありがとう・・・大好き」勇気には聞こえないように、そっと部屋に戻る兄の背中に語りかける。

案の定、ベッドに入ってもなかなか眠りにつけない。万が一にもないだろうけれど、上映中に眠ってしまうという大失態を犯さないように早く眠らなければ。ここは眠気を誘う音楽でも聴きながら寝ようかな、とスマホの音楽アイコンをタップする。

チョイスは、囁くような声とゆったりとしたテンポで歌う洋楽バンドだ。メロディーも優しくて、いつも聴いているといつの間にか眠ってしまう。

10分も聴いていると、幸恵は眠りの世界に落ちていった。


ちなみに、勇気は母に幸恵をよろしくね、と結構な額のお小遣いをもらい、今度は母さんともデートしてね!と割と本気のトーンで言われたのであった。もちろん、今度は母さんと出かけたいな!と答えると、母はとても嬉しそうだった。


あんまし進まないけど、一人ひとりの心情を丁寧に書いていきたいので。

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